第9話 〜迷宮〜
俺たちは迷宮に行くこととなり、迷宮の前までやって来た。
「よし!迷宮に着いた訳だが、一つ約束を決めておこう!」
「なんですか?」
珍しくキリシュさんが真面目な顔をしている。
「迷宮にはどんなトラップが仕掛けているか分からないだから、俺の踏んだ所以外は踏むな!もし、他の所を踏むとそこにトラップがあるかも知れないからな。それでも逸れたりした場合、自分を優先しろ。そして、すぐに出口へ向かう事。これだけは心に置いといてくれ!周りの事なんて気にするなよ!」
「はーい」
「はい!」
「分かりました」
俺たち3人はしっかりと返事をする。
「それじゃあ、言うことも言ったし早速潜るか!」
「副団長、皆さんは迷宮に潜るのが初めてなので気を引き締めて入って下さいよ!」
「そんなの分かってるよ!」
マーベルさんに言われたことを本当に分かっているのか、キリシュさんはヘラヘラしながら迷宮へと入ってしまった。
しかも、俺たちを置いてだ!
「じゃあ、行きましょうか皆さん」
そう言ったマーベルさんに俺たちは付いて行く。
マーベルさんが踏んだ場所を踏むように意識して……。
迷宮の中は涼しかった。
1年を通してこんな感じらしい。
そして、少し歩くと壁が石レンガに変わり、遺跡の様になっていた。
道がいくつかに分かれてどこに進めば良いのか全然分からない。
迷宮は何層かになっているらしい。
ここの迷宮で発見されているのは45層だそうだ。
それ以降はまだ、誰も行った事が無いので、未知の世界だ。
一層では虫の様な魔物が出て来た。
俺たち3人とも難なく殺す事が出来た。
それでも、咲は「気持ち悪い!」と叫んでいたのだが……
2層では虫が大きくなった。それでもまだまだ戦力差はあるようで、特に問題ない。
3層では虫だけでは無く、犬の様な魔物が出てくる。それほど強くないが、虫よりかは殺すのに抵抗があった。しかし、まだまだ行けそうだ。
それから俺たちは順調に魔物を倒して行き30層までやって来た。キリシュさんが見事にトラップを踏んで横から飛んでくる弓矢を全て撃ち落としたのだが、マーベルさんが頭を抱えていたのは言うまでもない。
30層に来ると初めて人型の魔物が出る。
ゴブリンだ。
ゴブリンは日本人の感覚としては初期で出てくる雑魚キャラだが、ゴブリンは少しは知性がある様で少し苦戦した。
ゴブリン一体はそれほど強くないが、5体でやって来て俺たちを囲う様に動く。
1人だったらやられていたかも知れない。
しかし、こっちも5人居るので、1人1体ずつ対処すれば何の問題も無かった。
「今日はこの辺で引き返すか」
ゴブリンを全て倒したところでキリシュが言った。
「そうですね」
ここより先は魔物が強くなるらしい。
ここは安全に行くべきなんだろう。
俺も、まだまだ早死にしたくないのでその判断に従う。
正直余裕だが……。
従わないという選択肢は無いに等しいのだ……。
堀井もまだ先に行きたそうな顔をしているがちゃんと従うみたいだ。
「ここから先は急に魔物が強くなるのですよ」
マーベルさんはそんな説明をしている。
地上にいる魔物は30層ぐらいの魔物までらしい。
これより下には殆ど地上では見ることの出来ない魔物が沢山出るので慣れてない人が入るともう一生地上を見る事が出来ないなんて事もよくあるらしい。
怖い怖い……。
「帰るまでが遠征だ!気を引き締めて帰るぞ!」
キリシュさんは最初から最後まで少し浮かれた様な調子だった。
帰りは行きよりも歩いた距離が短く感じる。
人間、初めて歩く道よりも2度目の方が早く感じるらしい。とは言っても7時間掛かったのだが……。
外に出た時にはもう外は夜だった。
朝から入っていたので相当な時間迷宮で過ごしたことになる。
俺は部屋に戻ると大分と疲れていたのか、直ぐに寝てしまった。
他の2人も直ぐに寝たようだが。
次の日は休みだ。
俺は一日中ゴロゴロして過ごした。
勿論、魔法の練習はしっかりとやったが……。
俺はまだ、魔法での戦闘に慣れていない。
昨日の迷宮でも、ほとんど剣で倒していた。
どうすれば良いのだろうか?
何も分からないが反復練習を続けるしかないだろう。
隣では咲が回復魔法の練習をしている。
『聖なる光の力よ、汝の力でこの傷を癒したまえ エクス・ヒール』
咲の手から、光が出て直ぐに消える。
迷宮の中で一度使って貰ったが、傷は一瞬で消えた。痛みもだ。
回復魔法とはなんて素晴らしいのだ!
……と感激した。
それに対して俺の魔法は使えない。
迷宮で魔法を使おうにも、詠唱が長くて時間が掛かってしまう。
剣で切り倒した方が早いのだ。
しかし、魔法も使いたいと言う夢がある。
夢を掴むために俺は必死で頑張る事が出来た。
そして、俺は今日、新しい発見をした。
今まで俺はキリシュさんに教えてもらったように、マナに願いを聞いてもらうように魔法を使っていた。
そして、祈りを定型文にしたのが、詠唱だと思っていたのだが、そうではないらしい。
マナは意思を持っていないのだ。
当たり前のことだったみたいだが、それに気づいた。
俺は、マナの形を変化させるイメージを持つ事で魔法を使う事が出来た。いわゆる、無詠唱ってやつだ。
俺はマナを使い水を生み出す。
水を出来るだけ小さく圧縮していく。
水は一見柔らかいが、圧縮する事によって驚くほど硬くなるのだ。
そうやって作った水を高速で打ち出す。
水は狙っていた板に向かって真っ直ぐ飛んだ。
威力は銃弾と変わらないだろう。
パンッ!
見事に板に命中したのだ。
板には5センチ程の穴が空いている。
板も薄い物ではない厚さが10センチはある。
これなら戦闘で使える!
俺は勝手にこの魔法に名前を付けた。
『ウォーターブレット』
堀井と咲にウォーターブレットを見せるとすごくびっくりしていた。
俺は他にもいくつか魔法の練習をして、いつものごとく、藁のベットで寝た。
咲のベットは柔らかそうだ……。
明日はまた迷宮に潜る。安全第一で頑張ろう……。