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第12話 〜逃走〜 加藤咲より

「……君を拘束さしてもらう」


王様が変な事を言い出した。

りゅーくんが人殺しなんてするはずがない!

りゅーくんは誰にでも優しくて気がきくとてもステキな人なんだ。

そんな人が人殺しなんてする訳がない。


だが、そんな想いとは裏腹にりゅーくんを周りにいた騎士達が囲んだ。

りゅーくんが本気で抵抗すれば、逃げることが出来たかも知れないが、りゅーくんは抵抗せずに捕まってしまった。


どこにも行かないで……。


心の中ではそう叫べるが、何故か声帯を通して声にならない。

そのまま私が何も言うことが出来ずにりゅーくんは牢屋に閉じ込められてしまった。


「君たちに問おう」


王様が沈黙の中、口を開く。


「この世界に召喚される前、堂川龍二という人物はどんな人だった?この国に置いといても我らの味方をしてくれると思うか聞きたい」


王様が弁護の機会をくれた。

これでりゅーくんを助ける事が出来るかもしれない。


「では、堀井才人。君の意見から聞こうか」

「はい」


堀井くんがりゅーくんについての話を始める。


「堂川は頭が凄く良かったです。俺には分からない問題を簡単に解いていました。他には、犯罪行為に近い事をしていました。言葉で相手を脅迫したりと堂川の影響で精神病にかかってしまった人もいます。正直に言うと、殺しをしても驚くような事はありません」


その後もりゅーくんがいかに悪いかを言うように、ありもしない事を次々と話している。


「……日本にいた時の堂川はこうゆう人でした」


堂川が話し終わった頃には王様はりゅーくんを死刑にする事を考えるぐらいになっていた。

死刑と言う言葉が何度か出たので大分とやばい状況だろう。

でも、私はりゅーくんの良いところをしっかり説明して、誤解を解くので、大丈夫だろう。


「そうか、では加藤咲、お前の意見を聞こうか」

「堀井くんが言っていた事は……事実です……。りゅーくんはいつも悪知恵を働かして犯罪行為を行っていました……」


あれ?

私何言ってるんだろう?

自分が思っても無いことを何故かペラペラ話している。

もしかして、堀井くんもさっきからこんな状態だったのかな。


「……という人です」


私は何一つ、りゅーくんの弁護を出来ないまま発言を終えてしまった。


「うむ、やはり堂川龍二は危険な人物だったのじゃな」


王様はヒゲをいじりながら少し考えたあとこう言った。


「堂川龍二を1ヶ月後……死刑とする」


こうして、りゅーくんの死刑宣告がされたのだった。



♦︎♢♦︎♢



私たちは、メイドと一緒に部屋に戻った。

一緒に来てくれたメイドは酷く目が赤くなっている。

相当泣いた後のようだ。

部屋に戻ると、メイドは話しかけてきた。


「すみません!今まで危険な人物と相部屋にしてしまって。死刑までの1ヶ月の猶予なんてなしで、明日にでも殺してほしいものですね」


とんでもない!

りゅーくんが本当に処刑台に立った時、私は正気でいられる自信がない。

乗り込んで、りゅーくんを助けるだろう。

ひとまず誤解を解かなければ……。


「あの、すみません」

「何ですか」

「さっき言ったりゅーくんについての話は全て思ってもない事が口から勝手に出されただけなんですよ。まるで私の声を使って他の人が喋っているみたいに」


メイドは少し驚いたが、すぐに憐れみの顔に戻った。


「本当に辛かったのですね……」


何を言っているのだ?

このメイドは……。


「もう、堂川龍二は捕まってしまいました。本当のことを言っても何もされる事はありませんよ」


もうダメだ。

城内にいる人がりゅーくんを悪人だと思っている。

堀井くんもなんだか気が抜けて心ここにあらずという感じだ。


どうにかして、りゅーくんを助け出さないと……。


しかし、今日はもう遅い。

しっかり寝て明日から始めよう。

寝不足で助けても多分、この城から逃げ出せない。


私はメイドが部屋から出て行った後すぐにベットに入って目を瞑る。



何時間ぐらい経っただろうか、誰かが私の横にある気がする。

手の感触が腰の辺りから上に上がってくる。

肩までくるとその手は前に来て私の胸を揉み始める。


「や、やめて……!」


手を払いのける。


「だれ?」


私はベットから出てそこにいる人が誰か確かめる。


「堀井くん……」

「ごめん……加藤さん」


そこに居たのは堀井くんだった。


「俺、加藤さんの事好きなんだ」


衝撃を受けた。

学校で1番モテていた堀井くん自分のことが好きだなんて……。

それに、前に堀井くんにりゅーくんへの想いを相談している。

その時、堀井くんはどんな気持ちだったんだろう……。


「で、でも……私はりゅーくんの事が……」

「うん、知ってる。でも、堂川は捕まっちゃって……」

「何言ってるの!?」

「えっ……」


考えられない。

堀井くんはりゅーくんを助けるつもりが無かったのだ。


「もういい!りゅーくんは私1人で助る!」


私は居ても立っても居られなくなって外に出る。

中で堀井くんは肩を落としていたが今は気にしてられ無い。


「加藤咲さん!」


後ろから誰かに呼び止められる。


「はい?」


後ろに居たのはメイドだった。


「実は……」


このメイドは王女さまの話を盗み聞きして、りゅーくんが犯人じゃないと悟ったらしい。


「……と言うわけで私も協力させてください!」


メイドが協力を申し立ててきた。

まだ、信用できない。

しかし、ここで城内に仲間がいるのは心強い。


「私がここの衛兵に根を回して逃げやすくしましょう」

「そんな事が出来るのですか?」

「はい!任せてください」

「じゃあ、お願いします」


ここはメイドを信じることにしよう。

一応、裏切られた時のことも考えておくが。


ガチャン!


勢いよく扉が開いた。


「加藤さん!さっきはごめん!俺も協力させてくれ」


堀井くんが我に帰ったようだ。


「うん!」


こうして私とメイドと堀井くんの3人でりゅーくん救出作戦が始動したのだ。


「そう言えば、メイドさんの名前ってまだ聞いてませんよね……?」


メイドの名前を知らないことを思い出す。


「私はイリアよ」

「よろしくお願いします。イリアさん」

「こちらこそ」



♦︎♢♦︎♢



それから準備に1週間かかり、作戦は実行された。

作戦と言ってもほとんどがイリアさんに任せている。

イリアさんが衛兵に話をつけて脱出路を確保し、鍵をもらう。

イリアさんがりゅーくんのところに行っている間に私たちは裏門へと移動する。

そこで、協力関係にない衛兵たちを気絶させてりゅーくんを待つ。


「ふー、終わったね」


ひと通り門番を倒した。


「意外と門番って弱いんだ」


堀井くんも同じ感想のようだ。

あの夜以来、堀井くんからチャラさが抜けた気がする。

前よりもかっこよくなった。

私はりゅーくんの方がかっこいいと思うけど。

堀井くんは前よりもモテそうだな……。


「そうだね」


………。



会話のないまま時間が過ぎた。

いつ新しい兵が来てもいいように準備だけはしておく。

どれくらい経っただろうか?

りゅーくんがイリアさんと一緒に走ってきた。


「りゅーくん!こっちだよ!」


私はりゅーくんを呼ぶ。

堀井くんもそこはかとなく嬉しそうだ。


「イリアさん、ありがとうございました」

「いいえ、それよりも早く逃げてください」

「はい」


それだけ会話をしたあと私たちは夜の街へと走り出した。


堀井くんが夜、私にした事はりゅーくんには黙っておこう。


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