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第11話 ~脱獄〜

俺は今、狭い部屋で生活している。

狭いと言っても日本にいた時の自室と変わらないが。

ご飯は急に質素になった。

豪華に盛り付けられていたご飯を食べていた時が懐かしい。

トイレは部屋に備え付けられおり、外から丸見えだ。

見張りが来たら恥ずかしい。

何故、俺の生活が急変したかというとキリシュさんとマーベルさんが誰かの手によって殺された。

俺は何もしていないのだが、王様は俺を犯人だと決めつけているようだ。

殺人は罪が重く、1ヶ月後には死刑だそうだ。

それまでに逃げ出さないといけないのだが、咲と堀井が心配で、今はここを離れられない。

そんな理由で、俺は1週間ここに閉じこもっている。


……ひまだ……。


俺は魔法の練習をする。

うまく使えば鍵を開けられるかも知れない。

てか、炎魔法で溶かして仕舞えば良いのだが。

そんな事を考えながら魔法の練習をして、疲れれば寝て、起きればまた、魔法の練習と言う気ままな生活を送っている。

また足音が聞こえてきた。

今トイレに行くと気まずい雰囲気になるのでトイレに行ってはダメだ。


うん、寝よう!


俺は壁の方を向いて目を瞑る。

足音はどんどん近づいて来る。


もうご飯の時間なんだろうか?

しかし、ご飯はさっき食べた。

それでも、ここまで来る人は俺にご飯を届ける以外では滅多にない。


俺の背中の所で足音が止まった。


「ありがとうございます」


ご飯を運んでくれた人にはいつもお礼を言う。


その人達が居ないと俺、死んじゃうもんね!


「堂川龍二さん……?」


何故かフルネームで呼ばれる。

ここの人は俺の事をフルネームなんかで呼ばない。

いつも、お前!おい!とか絶対に名前を出さない。

決まりでもあるのかと思うぐらいだ。


「堂川龍二さんですよね……?」


それに良く聞くと女の人の声だ。

俺は顔をその人へと向ける。


そこに居たのはメイド姿の人だった。

たしか、名前は……知らねぇわ。

このメイドの名前は聞いたことが無かった気がする。

しかし、俺たちのお世話係だった人だ。


「どうしたんですか?」


もしかして、助けに来てくれたのだろうか?

……アニメの見過ぎか……。

それともこれは幻覚なのか!?


「貴方を助けに来ました」


今なんて言った……?

助けると聞こえたのだが、聞き間違いだろうか?

あぁ、これは夢だ。

もし、助けに来てくれるとしたら堀井か咲のはずだもんな!


「俺、目を覚ませ!」


パチン!


思いっ切り俺は自分で頬っぺたを叩いた。


「何しているのですか!?」


メイドが慌てている。

てか、痛って!

頬っぺたがジンジンする。

どうやらこれは夢じゃないようだ。

俺はメイドの話を聞くことにした。


「大丈夫ですか……」

「大丈夫です!それで、話を聞かせて下さい!」


メイドは一瞬戸惑った後、話始めた。


「貴方は冤罪で捕まってますよね?」


おぉー!分かってくれる人が来た!


「まぁ、そうですね。参考までにどうしてそう思ったのですか?」


メイドはすぐに経緯を話し始めた。


要約するとこうだ。

メイドは姫さまの部屋の前の廊下の掃除をしていたそうだ。

すると、部屋の中から話声が聞こえてきたらしい。


「良いタイミングで、あの邪魔者を牢屋に入れる事が出来ましたね。それよりも、キリシュ副団長を殺せるぐらいの土魔法の使い手って誰なんですかね?」

「そんなのどうでも良いのです。その人には感謝するとしましょう。あんな、使えなさそうな者はこの国に必要無いのです。国の恥を他国に見せる訳にはいけませんわ。私たちの国は他国に舐められた瞬間、滅んでしまいます」


姫さまとこの国の宰相であるベトワールの話を聞いてしまったようだ。

それで、死因が土魔法と分かっていながら土魔法を使えない俺が捕まったのはおかしいと思ったそうだ。


「私と取引しませんか?」

「どんな取引だ?」


メイドは急に取引を持ち出して来た。


「私は貴方をこの牢屋から出して、貴方の仲間がいる、裏門まで連れて行きます。そして、貴方はそのまま逃げて下さい」

「それって一方的じゃないか?取引とは言わないぞ」


メイドは俺の手を強く握った。

柔らかくて綺麗な手だ。


「だから、マーベルくんの仇をとって下さい!マーベルくんも勇者様一行の中で貴方が1番強いから何かあったら頼れって言われていたのです。」


えっ……!?

マーベルさんとこのメイドってどんな関係なんだ……。

もしかして付き合っていたとか……?


「お願いします!どうか、犯人を見つけ出して殺して下さい!」

「俺にそこまで出来るかは分かりませんが、出来るだけの事はしたいと思います。殺すなんて物騒な言葉言わないでください」

「ありがとうございます!ありがとうございます!」


メイドの手に力が入る。

それほど、マーベルさんを愛していたのだ。



メイドはポケットから鍵を出して俺の牢屋を開けてくれた。

俺が、「どうやってその鍵を?」と聞くと「内緒!」とだけ言って俺の前を歩き始めたのだった。



裏門の前まで来ると咲と堀井が待っていた。

そして、俺は見事、脱獄に成功するのであった。


メイドに一緒について行くかと聞くと仕事があるのでとだけ言われて、城の中に消えていった。

不思議なことにその日、俺たちが衛兵に出会う事は無かった。

これもあのメイドが、根を回してくれていたのだろう。

これは何としてもメイドさんの願いを叶えたい。

それに、俺もキリシュさんとマーベルさんを殺した人に平常心で話せる訳がない。

こんな願い事をされなくても、すぐに殺してしまうだろう。

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