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第10話 〜ボス〜

初めて迷宮に潜ってから1週間が経過した。

俺たちは2日に一回のペースで迷宮に潜っている。

一昨日はトラップの見分け方について教えてもらった。

トラップには、魔法陣が描かれている。それを見ればどんなトラップか大体わかるらしい。

キリシュさんはトラップに自らかかりに行くのが好きみたいで転移魔法の魔法陣以外を踏んでは笑顔で攻略している。

何度か俺たちにまで、被害が来そうだったが、異世界召喚されてから異常に上がった動体視力のお陰で、剣で切り落とす事が出来た。

そして、今日は迷宮の35層にある、ボス部屋に行くらしい。

ボス部屋は35層より下に潜る為には攻略が必要で、周りの魔物よりも強い奴がいるらしい。

流石に危険で、キリシュさんも真面目な表情で俺たちに注意事項を話した。


「ボス部屋にいる魔物は他の物と比べて比較にならないほど強い。だから勝ちを確信した後でも絶対に油断するな!そして、ボス部屋に入ってから俺が『帰還!』と叫んだら全力で扉に向かって走れ!これだけは従うと今、誓え!」


キリシュさんから緊張の色が伝わってくる。


「はい、誓います」


咲が真剣な表情で答える。


「はーい、言う事聞きます」


堀井が最近どんどんチャラくなっている気がする。

でも、キリシュさんにはしっかり従うようだ。

いつもチャランポランなキリシュさんがあれだけ真剣になるとたしかに不安は感じる。


「分かりました、誓います」


誓わない理由も無いし、それに俺もまだ命は大切にしたいので、しっかり誓っておく。


「よし、ちゃんと従えよ。お前たちの初めてのボス戦だ。今日戦うボスがどんな物かはボス部屋に入るまで分からない。一度殺されたボスは消えて新しいボスに変わるのだ。そして、このボスはまだ、ボス部屋が出来る1番最初の階層のボスだからそこまでやばいやつでは無いはずだ。だからと言って油断するなよ!油断から命を落とす物も沢山いるからな、気を引き締めてボス部屋を攻略しよう」


そう言ってキリシュさんはボス部屋の扉に手をかける……。


……。


……扉が開かない……。


扉は重く作られており、片手では開けれなかったらしい。


「うふん!」


キリシュさんは咳払いをしつつ、次は両手で扉を開ける。


ガガガガー!


扉を音を出しながらゆっくり開いていく。


「それでは行こうか」


キリシュさんが先に入りその後をマーベルさん、堀井、咲、俺の順番で入って行く。


……ガォー!


ボスが雄叫びをあげる。

すごい迫力だ。

牛の魔物で、身長が約3メートルはあるだろうか?

とにかくでかい。

頭にはツノが生えており、真っ黒な毛、目は赤色で、二足歩行している。

手には人と同じぐらいの長さの長剣を持っており、それを振り上げて、今にも振り下ろしてくるだろう。

キリシュさんは、これはヤバイとでも言うように恐怖の形相を浮かべている。


「……に、逃げろ!」


キリシュさんがそう言った時には牛型の魔物は剣を振り下ろしていた。

キリシュさんは間一髪のところで避けたが衝撃波によって吹っ飛ばされた。

物凄いパワーだ。

まともに当たれば即死だろう。


「早く逃げろ!何している!」


頭から血を流しながらキリシュさんが叫んでいる。

咲が腰を抜かして動ける状況ではない。

堀井も恐怖から震えている。

この場で辛うじて動けるのは俺とマーベルさん、 だけだろう。

俺は1番近くにいる咲と堀井を抱き抱えて扉へと走る。

後ろでは、マーベルさんがキリシュさんを助けている。

牛型の魔物は次の攻撃に向けて長剣を振り上げている。


このままではキリシュさんたちが……。


俺は効くか分からないが、少しでも態勢を崩せればと思い『ウォーターブレット』を放つ。

出来るだけ水を圧縮し、極限まで速く行くよう、魔力を高める。


放たれた水弾は魔物の肩付近に当たる。

水弾は魔物の肩を貫通し、魔物は後ろへ蹌踉めく。


「今です!走ってください!」


マーベルさんは俺に向かって頷きこちらに向かって走ってくる。

俺は先に外に出て、咲と堀井を座らした後、扉に手を当ててマーベルさん達が出てくるのを待つ。


「ありがとうございます」


マーベルさんがキリシュさんを連れて外に出て来た。

俺は何も考えずに全力で扉を閉める。


ガチャッン!


勢いよく扉が閉まった。


「ふぅー……」


急に足の力が抜ける。

俺はそのまま座り込んだ。

マーベルさんも力なく座っている。


「危なかったですね……」

「はい……」

「咲、キリシュさんに治癒魔法かけれるか?」

「う、うん」


咲は力なく立ちキリシュさんに治癒魔法を使う。

咲の手から光が出ると、あっという間にキリシュさんの傷が全て消えた。


「ありがとう」

「いえ、どういたしまして」


キリシュさんが咲に向けてお礼を言う。

まだ、堀井はショックから立ち直れていないようだが、キリシュさん達に今の魔物について聞く。


「あの魔物ってなんて言う名前なんですか?」

「あれは、フェローシスキャロットって言うんだ。あいつは45層のボス部屋で出たとされる魔物だ。こんな35層で出るような魔物じゃない!」

「ボス部屋って出る魔物はランダムなんですよね?」


一度、キリシュさんから言われたことを思い出す。


「はい、そうですね。基本的にはランダムです。しかし、マナの密度を調節することによって強い魔物に変えることも出来る事には出来るのですよ」

「つまり、誰かが調節したと……?」

「その可能性はありますね」


俺たち勇者として召喚された者を殺そうとしている奴がいるということか…… 。

まぁ、他の目的があったかも知れないが……。


「まだ、詳細については分かりませんが、今日は城に戻りましょうか」

「そうですね」


城に戻る間、会話は必要最低限しかしなかった。

皆、ショックを受けているようだ。

キリシュさんもいつもみたいな軽口は無かった。



♦︎♢♦︎♢



ボス部屋に入った次の日、俺たちはいつも通り休みだ。

今回の反省点を話し合った。


「情けない事に足がすくんで動けなくなっちまった。これはまだまだ自分の実力が足りないからだと思う。だから俺はもっと強くなるよ」


堀井が昨日のことからもっと努力する事を宣言した。


「私も腰抜かしちゃった。あの時、りゅーくんが居なかったら私、死んでたと思う。自分の身は自分で守れるぐらい強くなる!」


咲ももっと努力するみたいだ。


「俺は……」

「今すぐ、王室まで来いと陛下がお呼びです!すぐに準備して王室まで来てください」


慌ててメイドが俺の部屋に飛び込んで来た。


「は、はい……。分かりました」


俺たちはすぐに支度する。


「準備出来ましたか?」


メイドが今度は落ち着いて聞いてくる。

それだけ、急がされていたのだろう。

それにしてはしっかり着替えさせられたけど……


「はい、大丈夫です」


堀井と咲も準備が出来たようだ。


「それでは行きましょうか」


そう言って俺たちの先頭を歩く。

少し早足で……


大きなドアの前で騎士の格好をした人がドアを開ける。

無駄にでかいドアだ。

俺たちがこの国に来て初めて見た光景と同じ物が目の前に広がる。


「急に呼び出して悪かったな」

「滅相もございません。そして、用とはどのようなご用件でしょうか?」


王様はうむうむと頷きながら話を始める。


「急な事で驚くかもしれないが、キリシュ副団長とマーベル騎士団員が昨日の晩に死んだ」


俺たちに衝撃が走った。


えっ!?死んじゃったの……

キリシュさんとマーベルさんからは色々な事を教えて貰った。

そんな2人が死んだなんて考えられない。

それに昨日の晩に俺は3人でフェローシスキャロットについての話をしていたのだ。


「それで何だが、私はこの城の中にキリシュ副団長とマーベル騎士団員を殺した奴が居ると思っている。昨日の夜に侵入者は居なかったからな。そして、この城の中でキリシュ副団長を殺せるとしたら、勇者の力を持った君たちか、ここに居る騎士団長のスレッドぐらいしか居ないのだよ」


キリシュさんってこの城の中でもそんなに強かったんだ……。

……てか、俺たちが容疑者に入ってないか?

それに俺たちはキリシュさんに勝てるか微妙だ。

寝床を奇襲すれば出来るかも知らないけど……。

それに俺たちにはキリシュさんを殺す理由が無い。


「大変言いにくいのだが、堂川龍二くん。君を拘束させてもらう」


……はい?


周りにいた騎士達に腕を素早く拘束された。


こうして、俺はお城の牢屋に住むことが決まったのだった……。




魔法について

・マナと魔力の違い

マナは物質を発生させる為の材料でいわば原子のような物です。

魔力はマナによって発生させた物質にエネルギーを与える為の物です。

よって、魔力が0でも魔法適正さえあれば、水を出すだけなど、物質を作り出す事は出来ます。


ご質問があれば感想欄または、ツイッターのDMまでご質問下さい。

答えた後、後書きで報告させていただきます。

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