「よく頑張ったでちゅねぇ~」という言葉を聞きたくて
僕たち働き蜂には毎日ノルマがある。それは女王様よりも課せられている、『花粉を最低1g以上貢ぐこと』だ。僕は落ちこぼれでいつもノルマの半分も達成できず、皆から馬鹿にされている。僕はこのノルマが大嫌いだ。
ただ、僕にも目標はある。1年に1回表彰される蜂キングに選ばれることだ。蜂キングに選ばれると、女王様から「よく頑張ったでちゅねぇ~」をという言葉を頂ける。それを目標にして、成績ビリではあるが毎日働いている。
「おはようございます…」
今日も8時ギリギリに出社し、嫌々ながら六時間働く。僕たち働き蜂の一日のスケジュールは、朝にミーティングをして、その後、各自で花粉を探しに行くという流れだ。
僕は今日もいつもの野原に行こうと支度する。支度をしていると、誰よりも早くエース蜂さんが飛び立っていくのが見えた。エースさんは五年連続蜂キングに輝いた蜂だ。今年で引退という話を聞いていて、来年以降がチャンスだと蜂界では噂されている。
(エースさんは誰も知らない秘密を知っているから、蜂キングになっているのでは?)
僕はエースさんが何か秘密を持っているのではと思い、こっそりエースさんについていくことにした。
10分ぐらい経つと突然エースさんが飛ぶのをやめた。何かあったのかと様子をうかがうと、うめき声が聞こえてきた。
「ああぁぁぁっっ!腰がぁぁぁ!」
「さっきは感謝するぞ、まさかぎっくり腰になるとは思っておらんかったわ」
そういって、エースさんは大声で笑った。
「お前さん名前は?」
「私はビリ蜂と申します」
「ああ、お前さんがあのビリ蜂君か」
万年ビリをとることで僕の名前を知っている人は多い。
「お前さんも大変じゃの、ノルマがなかなか達成できないのじゃろ?」
「そうですね…やっぱりつらいですね…僕がここに居る意味があるのかな…っていつも考えてしまいますね…」
笑顔でごまかそうと思っても、自然と涙が流れてしまう。
「それに…ノルマも達成はしたいのですが…どうせやるなら僕はエースさんのように蜂キングになりたいですね…」
「ほう…蜂キングになりたいと!それだけの向上心があるのであれば、一つだけ儂からアドバイスをしてもよいか?」
僕は涙を流しながら夢を正直に話すと、エースさんは笑わずに真剣な顔で提案してくれた。
エースさんは僕が泣き止むのを待ってじっと待ってくれていた。
「そうじゃの、アドバイスといっても実はお前さんが先ほど言ったことをどこまで実行できるかなのじゃよ」
「え?どれですか」。
「『どうせやるなら』とお前さんはいったじゃろ?その考え方をどんな時でも持ち続けるのじゃ」
「すみません、エースさんのおっしゃることが少しわからないのですが…」
エースさんは一息いれ、楽しそうな顔をして続けた。
「そうじゃな、必要最低限を超えないことをやり続けても何も意味がないのじゃ。それは、時間を浪費しているだけになるのじゃ。『どうせやるなら』の精神ならば、その時間はずっと将来への投資になる。挨拶一つとっても、どうせやるなら元気に挨拶をしてみる。そうすることで、将来の相手との関係が円滑になる。何事に関しても、必要最低限を超えることを日々できるようになり、将来に投資ができれば蜂キングになれるのじゃ。儂はそれを意識し続けたのじゃ」
僕は今まで考えたことがなかった価値観に触れ、自分が少し成長できた気がした。
3年後
表彰台の一番上にいる僕に対して、「よく頑張ったでちゅねぇ~」と女王様が笑顔で言ってもらえた