その2
目の前の光景には自分の脳が追いつけていない
そんな状況にあったことがあるだろうか
否、信じられない物や出来事が己の目を通し脳まで神経伝達物質が機能しているが情報解析をすることは不能であることだ
人は怪奇現象というものを信じている
しかし世の中にはそんなものは存在しないと否定する人間もいる
怪奇それは妖であり災いであり、救いである
人々は古来から不可思議な出来事を怪奇のせいし、
それは偽りなのか真実なのか曖昧にしそれを次世代に残した
現代では昔からの伝統的な怪奇の話なども耳にせず
発展情報社会となりインターネットを駆使している
そんな中怪異などの妖を誰が信じているだろう
○○発見!拡散希望!とある人が呟くとしよう
それは怪異であってもなくてもそこにあるのは真実であり虚構ではない
呟いたことで誰かがそれを○○じゃなく○○だ!と否定する人もいるだろう
否定することで真実が虚偽に代わり嘘になる
情報社会の裏のルールである
これは誰が決めたのではなく暗黙のルールであって決して守れとも言われていない
何千万人が信じて何億万人が否定することで怪奇という現象も紙一重で変わってしまう
しかし本当に怪異と言うものが存在して誰も知らないものがいて唯一無二の怪奇が人間と暮らしていたらどうなるのか
いったいそんな幻想誰が信じるのか
いや幻想でも理想郷でもない
これは現実であり真実であり、本当である――
「おじさん!しっかりして!おねむ?」
男は病室のベットの上で錯乱していた
布団に飛び乗ってきたのは着物を着ているおかっぱ頭の幼女
幼女の声も届かないくらいまで理解不能なまでの現象
それは幼女がいるということ
彼女は男が助け損なったあの娘そっくりだったのだ
燃え盛る火炎の中手を伸ばし届かなかった小さい白い手
その手は炎とともに瓦礫の下敷になり消えていった
これは夢なのか?
男、田中は未だ錯乱していた
整理がついたと思ったら次から次へと疑問が生じてしまう
すると幼女が田中の頬に手を当て柔らかいその手で引っ張る
「もうどうしたの?おなかすいたの?ねーねー」
ほっぺたをぐるぐる回され我に返る田中
正気を取り戻し彼方へと消えていた意識を得た
「な、なんだ!この子!?」
だいぶ大きい声で叫んだのか病室を通りかかった看護師を呼び寄せた
心配そうにこちらに近づき訝しげに覗いた
「どうされましたか?なにか変化がございましたらなんなりと」
「いやなんでもありません…すみません大丈夫です…」
田中は不思議に思った
看護師にはこの子は見えてない…?
やっぱりこの子は…!
辻褄が合わさり全てハッキリしたその時幼女がベットから降りて言った
「またね、おじさん!よばれてるからきかなきゃ」
そしてスゥーと霧のように消えていった
田中は目をゴシゴシしもう一度幼女がいた所を見る
なんだ疲れて幻覚でもみたのか
彼は天井を見つめ寝た
しばらくして田中は退院した
不思議なことに火傷の後も残らず傷も目立たなくなっていた
病院の外に出ると爽やかな緑の風が踊った
日差しもほどよく強めで春の天気にしてはちょっと夏っぽい感じだった
腕を伸ばしストレッチをするとボキッと背骨がなった
1週間動かずにベットでなにもしていないと関節も固くなってしまう
田中は次に指の関節をボキボキ鳴らす これは小学校からの癖でありルーティーンであり、心のリセットボタンのようであった
病院が借りているアパートの近くであった為家にはすぐに着いた
アパートは綺麗でもぼろぼろでもないメリットとしては最寄り駅が徒歩三分といったところワンエルディーケーの一人暮らしには丁度いい住まいだ
久々の我が家だ帰りにスーパーでビールでも買ってこようと思い2階にある階段を登ろうとするのをやめスーパーへ向かった
ガチャリ
「ただいまー」
田中はスーパーからビールと枝豆、など酒のつまみを大量に買ってきた
誰もいない家に向かってただいまというのはガキの頃からの風習でやめようともしなかった決まりではなかったが母親がシングルマザーで働きに行っている間当然先に学校から帰ってくるのは自分だったいつか母親のおかえりが聞きたかったのかも知れないと家のドアを閉めながら思った
「おかえりーおそいよーまってたぞー」
空耳であろうか
母親の声ではないがたしかにおかえりの声が聞こえた
いや入院中幻覚まで見てしまったあの声にそっくりだ
また幻聴に過ぎないだろうと聞き流そうとすると
畳の五畳半の上にちょこんとあのおかっぱ頭の幼女が座っていた
何を隠そうあの病院でみたあの子である
驚きを隠せない田中は手に持っていたスーパーの袋を落とした
???
「君は…どうして…?」
おかっぱ頭の幼女はにこって笑い足に飛びついてきた
「おじさん…みぃちゃんをたすけようとしてくれた…だからその…おれいがしたくて…」
5歳にもまだなってなさそうな見た目なのになんてしっかりしているのだろう田中はこんな子が世の中にはいるのかと涙が出そうでたまらなかった
田中は幼女の肩を優しく掴み、足から離れさせ言った
「あの…君にお礼をされるなんておかしな話だよ、こっちがお礼をしてもしきれないくらい感謝しているんだから、俺はもう大丈夫だよ…気持ちだけでおじさん本当に嬉しいから…」
幼女の目線までしゃがみこみ目を見ながら言ったが途中から視界が涙で溢れ見えなくなった
そして幼女を強く抱きしめた
助けてあげられなかった命
助けてあげられた命
どうせなら助かるのは俺じゃなくこの子の方がよかったと思ったが、この子の肌の温もりを感じたらそうではなくこの子の分まで生きようと思えてきた
「おじさん…ないてるの?なかないで!みぃちゃんもないちゃうよ…うえーんうえーん!」
「ごめんねごめんねみぃちゃん!おじさん泣かないから!嬉しくてつい感動もしちゃったみたい!あはは!」
いい歳した大人が子供に泣かされるなんて聞いたこともない
愛想笑いで濁らせるのがやっとだった
「みぃちゃんさじゃあひとつだけおねがいきいてもらおうかな」
なんとみぃちゃんからひとつだけのおねがいが来た
男であり大人である田中にはこの願いはなんでも叶えてあげようと心に誓うのである
「うんうん!いいよ〜おじさんなんでも聞いちゃうよ〜」
「じゃあ…おじさんといっしょにくらしたい!」
恥じらいながら精一杯の大きな声でみぃちゃんは叫んだ
「おぅけぇい!おじさんと暮らしたいね!了解ちょっとまってねーおじs…はい?」
つづく
反響が結構あったのでちょっとびっくりしました笑
座敷わらしのみぃちゃんはまだまだ始まったばかりです!乞うご期待!