鉄板
ネタ作り…それは創作活動に携わる人なら誰しもが通る難関だ。
どうやらこの2人も相当高い壁にぶち当たっているようで…
ミスティア・ローレライ…鳥獣伎楽メンバー。作曲担当。
幽谷 響子…鳥獣伎楽メンバー。作詞担当。
明転
ミスティア・ローレライ宅。
中央テーブルに向かう響子、紙を広げペンを持っている。
奥炊事場でミスティアがお茶を淹れている。
響子、頭を掻き悩む。そのままテーブルに突っ伏す。
響子 「あーもうダメだあ…」
ミスチ「何がダメなのよ」
響子 「全くフレーズが浮かばないの」
ミスチ「全く?」
響子 「出だしから」
ミスチ「絶望的じゃない」
響子 「そうなんだよ絶望的なんだよ」
ミスチ「だからこの前から言ってるじゃない。
そんなに書くの難しいなら新曲はお預けにすればいいのにって」
響子 「そうやって半年も新曲発表を延期してるんだよ?
流石に今回こそ出さないとやばいって」
ミスチ「そう思ってるのってきっと響子だけよ」
響子にお茶を差し出す。
響子 「サンキュ。でも…みんなが良くても私が許せないの。だからこうして」
ミスチ「あら、見事に真っ白ね」
響子 「うう…」
ミスチ「どんな曲にするかは決まったの?」
響子 「それがどんなジャンルにしようかさえ決まってないんだ。
ロック系にするかバラードにするか…
いっそのこと冒険して民族音楽にするか」
ミスチ「ま、何だっていいんだけどさ。
作るんだったらなるべく早くしてくれないと。
それに合わせて曲作るの大変なんだから」
響子 「分かってるんだけどなあ…」
ミスチ「…そうだわ!随分前に作った曲あるじゃない?
ほら、あの…恋の…恋の…」
響子 「『恋のキューカンバー』?」
ミスチ「じゃない、そっちじゃない方」
響子 「あ、じゃあ『恋のチェーンソー』だ」
ミスチ「それ!その曲出したときすごい反響あったの覚えてる?」
響子 「ああ、みんな口を揃えて言ってたね」
2人 「意味不明」
ミスチ「ね。あれは自分で歌ってても訳がわからなかったわ」
響子 「ひたすらチェーンソーの声帯模写してたもんね。
ブルーン!ブルルーン!バリバリバリバリヴィーーン!って」
ミスチ「でもあんな曲でもファン投票でいっつも上位に入る曲じゃない?」
響子 「確かに」
ミスチ「…あれの続編作ってみない?」
響子 「え」
ミスチ「あのときはコテコテのパンクで攻めに行ったから成功したのよ。
ガンガン歌って、ガンガン叫んで、ガンガンギターかき鳴らしてさ。
だったらそこからヒントを貰えば…」
響子、立ち上がる。
響子 「ネタにも困らない!」
ミスティア、立ち上がる。
ミスチ「パンクバンドとしても面子が保てる!」
2人 「一石二鳥!」
ミスチ「ってことで響子!」
響子 「なんだ!」
ミスチ「次の新曲も叫ぶぞ!」
響子 「あいさ!」
2人座る。ペンを走らせる響子。
響子 「叫ぶんだったら暴力的なワードがいいよね」
ミスチ「もちろん!硬くて凶悪そうなものだったらなお良し!」
響子 「硬くて凶悪…あっ!」
ミスチ「思いついた?」
響子 「鈍器はどうだろう?」
ミスチ「いいね!『♪どっどっどっ、鈍器ー』って感じで」
響子 「…それどっかで聞いたことあるなー」
ミスチ「あー…」
響子 「でも武器系の線はアリだと思うよ」
ミスチ「そうか、よーし!他何かないか?」
響子 「前のがチェーンソーなら…トマホークは?」
ミスチ「却下。弱そう」
響子 「そうかな?」
ミスチ「想像してごらんよ。(弱々しく)トマホーク…」
響子 「…」
ミスチ「(もっと弱々しく)トマホーク…」
響子 「んんーそうか…ダメだ、思い浮かばない」
ミスチ「そっか…」
時計を見る。
ミスチ「あれっ!?響子、もうこんな時間だよ?」
響子 「え?…うわ本当だ!じゃあ今日はもうこれでお暇するね!」
ミスチ「うん。何か思いついたら連絡して?」
響子 「もちろん!じゃあね!」
ミスチ「うん。じゃあね」
響子、上手にはける…がすぐに戻ってくる。
響子 「降ってきた降ってきた降ってきた!」
ミスチ「え?雨?」
響子 「違う!アイデアが降ってきたの!」
ミスチ「?」
響子 「…グレネードランチャー!」
ミスチ「おお!」
響子 「何かこう、決まるじゃん。『グレネードランチャー!』って」
ミスチ「いいね!それでいこう!」
BGMスタート:「恋のグレネードランチャー」
響子 「♪止まらないこの思い」
ミスチ「♪君にズバッと届けたい」
響子 「♪胸を貫くほどの恋」
ミスチ「♪撃ち抜いちゃうぜ」
響子 「はい、ドーン!」
ミスチ「ドーン!」
響子 「ドーーーン!」
ミスチ「ドーーーン!」
2人 「ドーーーーーーーーーーーーン!」
響子 「♪死んでもご愛嬌」
2人 「♪恋のグレネードランチャー!」
BGM F.O
ミスチ「…これだよ!これでもう一曲完成だよ!」
響子 「やったね!早速歌詞起こしてみるね!」
ミスチ「もう夜遅いよ?」
響子 「泊まる!」
ミスチ「また?」
響子 「いいじゃないの、この調子でガンガン曲作ろう!」
ミスチ「オッケー!」
暗転
響子、舞台中央に板付。スポットライト当たる。
響子 「こうして本番のライブは大成功!
暴力的なパンクから落ち着いたバラードまで、何と全て完全新作だったんだ。
特に『恋のグレネードランチャー』、あれはお客さんも大興奮したみたい。
ま、ともあれこれで鳥獣伎楽の鉄板ネタができたってことで。
私たちのお話はこれにておしまい!」
暗転