五話
「ありもしない妄想を語らないでくれるかしら?」
そんな台詞とは裏腹に、メイアの顔は赤くなっている。
「うふふ……、馬鹿ね」
母親は珍しく、母親らしい、慈愛に満ちた表情をした。
「頑固なのにわかりやすいところ、お父さんにそっくりなのよね」
「お母さんに似てないだけマシだわ」
「あら酷いわね。そうねぇ……、でも、私に似られても困るかしら」
ふふ、と母親は微笑む。
「お父さんに似て、よかったわ」
「青の羽社を許してるの、お母さん」
「許すしかないわ。しょうがないでしょう、あれは、必要な存在なのだから」
笑顔は崩さない。一片の隙もない、完璧な笑顔で、母親は言う。
「…………そう。でも、私は、この終末みたいな世界が大嫌いだけどね」
「それでもいいわ。生きることが嫌いではなければ」
メイアは思う。
生きることは、もう少しで嫌いになってしまいそうだと。
「メイア。この世界がどうなったって、お母さんはメイアを愛してるわ」
メイアはやっと気づいた。
女優である母親は、演技が滅法上手いのだと。
笑顔の裏で、どんな悲しみがあっても、隠し通すことができるのだと。