四話
遅くなりました。
「ただいま」
メイアがドアを開けると、きつい香水の香りが漂ってきた。
「おかえり」
母親が笑顔で出迎える。
年齢を誤魔化しすぎた顔で。
「そろそろ年相応な格好してよ、お母さん」
「あらやだ、私は生涯若くが目標よ」
科学。
それは、アンチエイジングも進化させた。不老不死にはまだ至っていないが、肉体の見た目の年齢はやすやすと誤魔化せる。
母親の職種には、ぴったりの科学の産物である。
「で、今回はなんの役をしてきたの」
女優が、母親の職業だ。
「女子高生」
得意げに母親が言うのを見て、メイアは眉を寄せた。
「女子高生は流石に無理がない?」
「科学はすごいわ。どれだけでも若返ることができるんだもの。というわけで、女子高生の姿にまで若返ってきちゃった」
星が瞬くようなウインクと共に、母親は笑う。
「本当、青の羽社はすごいわねぇ」
「青の羽社製品だったのね」
「そこ以外、信用できますか」
青の羽社の製品は、他の企業よりも副作用が少ない。そして、大概の科学の産物は青の羽社のものなのだ。科学者をどこよりも有する企業、青の羽社。この世界をゴミ溜めのようにしたことにも、青の羽社に責任の一端はある。
「で? アルセに告白はしたの?」
母親がにやにやと見つめてくる。
メイアは言葉に詰まった。
「してないわよ、好きでもないし」
「嘘ね。あなた、アルセ以外の人とは関わろうとしないもの。アルセはあなたにとって特別。そうでしょ? ね? それはきっと恋なのよ。恋だわ。間違いないの」
メイアはうんざりとした顔をした。
「次はなんの役をするのよ」
「恋する女の子」
「私をモデルにしないでくれる?」
母親は、まだにやにやしていた。