三話
「アルセ?」
「ん……あ……寝てた」
「バーカ。帰るよ」
授業終わりに、アルセに声をかける。アルセは一度寝るとなかなか起きない。メイアが起こさなければ、明日の朝まで教室にいただろう。
アルセの家は、メイアの家とは反対の方向だ。それでも、アルセとメイアは学校の外までは一緒に帰ることにしている。
「学校の外までが長いからね」
「そうね。まあ、これだけ高層階に学校があるから、仕方ないのだけれど」
土地を有効利用する為、街の建物は総じて高い。学校も例外ではない。細長い建物で、ワンフロアに一つの教室という有様だ。メイア達の教室は最上階である。登り下りでも一苦労だ。
「エレベータは混むしね」
「エレベータは登る人用よ……」
階段を降りていく。エレベータは一台しかない。ただ、進歩した科学の力で、異常に昇るスピードが速い。
「まぁ、これが私たちの世界の当たり前なんだけどね」
少女は呟く。慣れてしまった階段だ。
十分ほどかけてやっと地上に戻った。
「バイバイ、メイア」
「また明日ね」
家に帰るのが、どうにも億劫だ。
「お母さんがいるのよね……」
普段全然帰ってこない母親が、今日は帰って来ているのである。メイアは母親が苦手だ。このゴミの溢れる世界で、メイアの母親は、あまりにも馬鹿げた仕事をしている。
少女は自らの母親を嘲っていた。