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ともしびスペース  作者: 厚木さめ
2/8

二話

  チャイムの音と共に、メイアは教室に飛び込んだ。

「ギリセーフ」

  アルセが茶化すように言う。

「セーフならいいじゃない」

  メイアは笑って返した。

  青の羽学園が、メイアの通う学校である。青の羽社という企業が運営する私立校だ。この街には政府の設立した公立校もあるが、教育の水準は青の羽学園が圧倒的に優っている。

「五分前には教室にいるように」

  先生が厳しい目でメイアを見る。

「あら、なんで?」

  面白がるようなメイアの声に、先生ははぁ、とため息を吐く。

「先生、間に合ったなら別にいいじゃない。怒られる筋合いは一切ないわ」

「……ホームルームを始めますよ」

  先生はもはや彼女を相手にしない。相手にしていたら授業の時間が少なくなってしまうことを、先生は身をもって知っていたからだ。

「メイア、先生に対してあの態度はどうなのさ」

  アルセが声をかけてくる。アルセは長髪を後ろでくくった男子だ。毎回毎回飽きることなく、メイアの先生に対する態度を注意してくる。

  もしかして、アルセは私のことが好きなのかしら。

  くだらない考えが頭に浮かぶ。

「先生だからって私たちと何が違うのよ」

「知識量じゃない?」

「それだけ? 私たちはこれから沢山のことを学ぶわ。将来性なら私たちの方が上だもの。年功序列なんて、とうの昔に廃れたと思ってたんだけど」

「…………メイアは口が上手いなぁ」

「別に上手くないわ。青の羽の社長さんとかの方が上手いでしょ」

「確かにね」

  アルセが笑う。メイアと話すのが楽しくてしょうがないみたいに。

  あぁ、どうしてこんな終末でさえ、こんないい人が生まれるのだろう。

  メイアは静かに将来を思った。

  この世界が滅ぶまであとどれくらいだろう。ゴミに飲み込まれるまで、あと、どれくらいの時間があるのだろう。

「一時間目なんだっけ」

「歴史じゃなかった?」

「メイアの得意科目だ」

「そうね、歴史は好き」

  過去の人のせいで人類は危機に瀕している。その過程を学ぶのは嫌いではない。

  でも、現在の人だって、状況を打開しようとして事態を悪化させているのだ。それを学ぶのは嫌いだった。

「アルセぇ」

「何?」

「この世界、好き?」

「好きだよ、それなりにね。僕が生まれるずっと前から、この世界はこうだった。だからこの世界がどうにもこうにもこんな感じなのは、僕にとって当たり前のことなんだよ」

「そう」

  一理ある、とメイアは思う。

  だけどメイアは、この世界じゃない別の世界があるのなら、逃げ出したいと願っていた。

  チャイムが鳴る。

  また過去を学ぶのだ。

  過去から学ばねばならぬのだ。

 

週一、調子が良ければ週二で更新したいと思います。

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