一話
この世界はどうにも終わってる。
メイアは皮肉げに笑った。
街を一歩出れば、そこはもうゴミの山。科学という利便の代償となった環境のシンボルだ。腐敗臭が漂っている。バイオテクノロジーを研究して、そして採算が取れなくて失敗した時の生ゴミの匂いであろうか。いや、それは大昔のことだ。きっとホームレスが街の外でのたれ死んだのだろう。
メイアという少女は、この世界が嫌いだった。
科学がもたらした利便性。それは一部の者にしか意味のないことだ。反重力など、なんの役に立つのだろうか。
街は小さい。ゴミに圧迫されて、圧縮されているかのよう。高いビルが無数に建っている。そうでもしないと場所が足りないのだ。
メイアは、街の外を眺めるのが嫌いではなかった。
科学によって滅ぼされゆく人間の、罪そのものを眺めている気がするからだ。
「もっとマシな世界に生まれたかった」
メイアは呟く。
「この時代の前……こうなる前の時代に生まれたかった。科学と人間がまだ共生してたころ」
終末。
メイアはこの時代を、そう呼んでいた。
大きな街を残して、世界は産業廃棄物に飲み込まれてしまった。ある時代にこぞって作られた原子力発電所。それよりも発電効率の良い方法が見つかってから、原子力発電所は次々と無くなった。
核のゴミを残して。
仮のゴミ置場は正規のゴミ置場になり、そこには核のゴミ以外の物も捨てられるようになった。膨れ上がったゴミはどんどん世界を飲み込んでゆく。
大きな街ですら、小さくなってしまった。
そうしてできたのが、この世界。
歴史の授業で習ったことを頭に思い描きながら、メイアは街の外れ、外との境目を去る。
学校に行かなければ。
学校は街の真ん中付近にある。
走らなければ間に合わないかも。
少しだけ、足を早めた。