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町の秘密

次の話からストーリーの本題に入ります

え…?

今、日本語を…?


俺は戸惑いながらも話す。


「はい…日本人ですが…」


「この人が何処にいるか解るか?」


お婆さんはポーチから古ぼけた写真を取り出した。

そこには若い女性と日本人とおぼしき男性が並んで写っていた。

見覚えはなかった。


「すいません…ちょっとわからないですね…」


「そうか…いきなりすまないね…」


お婆さんは残念そうに写真をしまった。

見た感じ旧日本軍の人だろうか。

昔の軍服を着ている。

戦死してないにしてもこの写真の時で三十代に見える。

既に亡くなっているだろう。

多分このお婆さんにとって大切な人なのだろう。

その事を伝えることはやめておいた。


俺もお婆さんに聞きたいことがたくさんある。

まず一番気になるところを聞いてみた。


「でもお婆さんはなんで日本語を?」


だがお婆さんは片手で制す。


「まぁそう焦らずに。立ち話もなんだ。座ってゆっくり話そう。さぁ、あがって」


そっちから話しかけてきたのに。


正直くつろぐよりも早く真相が知りたいがとりあえず従う。

俺は居間にあがり座布団に腰掛けた。

向かいにお婆さん、両サイドに少女と青年が座る。


「それで、何を聞きたいんだっけ?」


お婆さんは温かい飲み物を飲みながら聞く。


「なんであなただけ日本語を喋れるのですか?」


「さっき写真を見ただろう?あの男の人が日本人でな。ワシはずっと一緒に暮らしておった」


と、するとあの若い女性はこのお婆さんってことか?


「名前を忘れたことはない。カリヤ・ツネオ。誠実でまっすぐな男じゃった」


お婆さんはお茶を一口含み話を続ける。


「ツネオと出会ったのはまだワシが若い頃、行商の帰りのことじゃった。都から街への道を歩いていたらいきなり茂みから現れての。服はボロボロで出血もしており憔悴しきっていた」


戦地から転生したのだろうか。


「その日は薬効植物を多く仕入れていたから介抱してやっての。街につれて帰るととても感謝していたのを覚えておる。それからワシとツネオは共に暮らすことになった」


思いを馳せているのだろう。

お婆さんの目尻にはうっすらと涙が浮かんでいた。


「ツネオとの生活は楽しかった。言葉は通じないものの心を通わせることができた。だが別れは突然訪れた。街が魔物達に襲われたんじゃ。街の男達は総出で応戦した。勿論ツネオもな。ツネオは強かった。細長い筒で沢山の魔物を倒した」


細長い筒。

多分銃の事だろう。


「それから街の皆の協力もありなんとか魔物を撃退できたんじゃ。だが、ツネオは戻ってこなかった。何日も待ったが帰ってこなかった。埋葬してやろうにも遺体すら出てこない。ツネオは消えたんじゃ」


元の世界に戻った…のか?


「ワシはひどく後悔した。結局一言も会話をすることがなく居なくなってしまった。それからワシは日本語を学んだ。何十年もかかったがな」


「なるほど…そんな過去が」


「ふぅ、少し話し疲れたわい。あとの事はこの子らに聞いとくれ」


お婆さんは女の子と青年に目を移した。


「いや、でもこの子らと俺しゃべれませんけど…」


「わかっておるわい。これを飲みな」


お婆さんは俺に小さな袋に入った粉をお湯にとかした物を渡した。


「これは?」


「語学修得薬さ。これを飲めば会話程度なら簡単にできる」


これを飲むだけでこの世界の言語がわかるってことか。

現実世界だと信じられないがここは異世界。

何も疑問に思わず飲み干す。

とても苦い味でお世辞にも美味しいとは言えない味だった。

まぁ良薬口に苦しとも言うしな。


「あの、俺が何て言ってるかわかるっスか!?」


飲み終わった途端に青年が興奮ぎみに尋ねる。

確かにわかるようになっていた。


「あ、あぁ、わかるぞ?」


青年は再び目を輝かせ抱きついてきた。


「ちょ!離れろ!なんだよ!?」


なんでこいつはすぐにくっつくんだ!!

女の子の方が来いよ!!


「ほっほっほ、効果はあったようじゃな。では、ワシはそろそろ…あとはごゆっくり」


お婆さんはスーっと薄くなり消えてしまった。


「!?消えた!?」


「あれはテレポートっス。それなりに魔導を勉強した人なら誰でもできるッス。それよりも!!色々聞きたいことが…いはい!いはい!ひっはらなひで!!」


「ちょっとラゼル!!困ってるでしょ!落ち着きなさいよ」


少女が青年の頬を引っ張る。


「ごめんなさい。あなたが珍しくて興奮してるみたいで。私はエリル。商人をしてるわ。そしてこの馬鹿がラゼル。見習いの魔法使いで私のお兄ちゃん。馬鹿だけど」


「な、馬鹿って言うな!」


ラゼルが食ってかかるが片手であしらわれる。

なんとも騒がしい兄妹だな。


「で、あなたの名前は?」


「俺は我妻陸人(あがつま りくと)。日本という国から来た」


「日本…おばあちゃんと昔暮らしてた人も日本から来たみたいね」


「おばあちゃんってさっきの?」


「えぇ。血の繋がったおばあちゃんじゃないけどね」


「な、なぁ!陸人さんがいた日本ってのはどんな所なんスか!?」


エリルと話してるとラゼルは興奮ぎみに聞いてきた。


なんとも落ち着きがない奴だな。

日本?日本かぁ…

何て言おう。


「勤勉で謙虚だけど能力ある者を叩き意見は多い方に付き正しくても少数ならそれは間違ってるとされる国かな。あとゴルフクラブを折る社長がいる」


ラゼルはなんとも微妙な顔をしている。

もっと良いとこだけ抽出して言った方が良かったかな。


「そう…スか…。でも日本は進んだ国でしょ?なんか凄いのあります…?」


わぁーめっちゃテンション下がってる。

彼らを驚かせる物なんて持ってたかな。

ゲロスプレー見せたるか?

いや、 さらに日本が悪くみられる。

スマホで良いか。


「こんなもんでもいいか?」


俺はスマホを取りだし少し操作してみせた。


「すげえええええ!!!なんスかこれ!!」


ラゼルの目が再び輝きだす。

なんというかこの子は分かりやすいな。


「随分と小さいわね…何をする物なの?」


エリルも興味津々のようだ。


まぁ無理もないか。


「これはスマホといって、そーだな簡単に言ってしまえば色んなことができる便利なものだ。わからないことを調べたり遠くの人と話したり、音楽聞いたりエトセトラエトセトラ」


「…?」


二人ともパッとしないのか疑問符を浮かべている。

百聞は一見に如かず。

実際見せりゃわかるかな。


俺はオフラインでも使える音楽アプリを起動する。


アニソンでいいか。


音量をあげると聞きなれたアニソンがスピーカーから流れた。


「すげえぇ!どうなってるッスか!?」


「なんか聞いたことないような音楽ね…」


二人とも驚愕した表情を浮かべる。


なんか新鮮だな。


それから日本で撮った写真やライトなどを見せた。


「今できるのはこれくらいだな」


「日本ってすげぇ国なんスねぇ!」


「本当ね…ビックリしちゃったわ…」


まぁ日本だけじゃなくてどこでもできるんだけどね。

でもなんか気持ちいいからこのままにしておく。

さんざん質問攻めだったので今度はこちらから質問する。


「ここは何て言うところなんだ?」


「ここは帝都ヴェルリダ管轄のモアンケープという町よ。昔は賑やかだったんだけどね…」


エリルは少し寂しそうに話した。

何があったんだろう。


「俺みたいに余所の世界から来るやつは珍しいのか?」


「まぁそうっスね。ほっとんど居ないっス。来ても周りに知らせる義務もないので居たとしても把握するのは難しいっス」


だからラゼルは俺を見てテンションが上がってたのか。

どこの世界にも未知の物に興味がある奴は居るってことだな。


「あともうひとつ。なんでこんなに石像が多いんだ?なんかの儀式とかに使ってるのか?」


その質問をしたとたん二人の表情が少し暗くなった気がした。

もしかして聞いちゃダメだったか…?

エリルが困ったように笑い口を開く。


「あれは全部市長がやったことなのよ」


「市長?趣味とかそういうことか?」


「わからない。もう百体以上あるわ」


「マジかよ。てか、金持ちな町だな」


にしては寂れてたが。


「そんなことないわ。あの建造費は全部私たちの税で賄っているの」


これはもしかしてあれか。


「ちなみに担当している建設会社は一つか?」


「うーん…詳しくはわからないけど帝都の建設会社を良くみるわね」


あーやっぱりな。

こーれは建設会社と市長が繋がっているニオイがプンプンするぞ。

建設会社に仕事を回す代わりに一件あたり何割か市長にキックバックされて懐に入ってるな。

なんつーかどこも同じだなぁ。


「ことあるごとに税を取られて負担も大きくなってく…。異議を唱えても権力で潰されるしただ払うことしか出来ないっスね…」


二人は小さなため息をはいた。


「そうか…お前らも大変だな」


俺は同情した。




それから三人で食事を取り談笑し夜も深まった。


「そろそろ俺ら帰らないとッスね」


「そうね、つい話に夢中になっちゃった」


「なんだ?ここお前らの家じゃないのか?」


てっきりここに二人で暮らしてるのかと思ってた。


「ここは…そーっスね。魔法を練習する場所ってところっスね」


なるほどね。

あ、そだ。

ひとつ聞かなきゃいけないことがあった。


「そーいやこの町の宿屋ってどこにあるの?」


「宿屋?町中にいけばあるわよ?」


うへー歩くのめんど。

まぁ資材置き場しかなかったしそらそーか。


「てか宿屋じゃなくてここに寝ていけば?」


「いいのか?」


「家にはお父さんとお母さんがいるからダメだけどここなら構わないわよ?」


「ただここは家じゃないから布団とかは無いっスけどね」


まぁ布団やベッドがあったに越したことは無いがなくても差し支えなく寝れる。

歩くのめんどくさいしお言葉に甘えよう。


「ありがとう。ここで寝させてもらうよ」


寝床確保やったぜ。


「じゃあ私達は行くわね。おやすみなさい。」


「ん、今日はありがとう。助かった。おやすみ。」


お礼を言い、手をひらひらと動かす。

部屋を出る前にラゼルが振り替える。


「陸人さん!明日もここにいてくれますか!」


「まぁなぜここに飛ばされたのか。どうしたら戻るのかがさっぱりだから暫くここに居たいかな」


するとラゼルはまた目を輝かせ顔を綻ばせた。


「おやすみなさい!!」


「あい、おやすみ」


二人は家を出た。

さっきまで騒がしかった部屋に静寂が訪れる。


今日は色々ありすぎて疲れた。

俺は元の世界に帰れるのかな。

家族は心配してないかな。


様々な思いが頭をよぎる。


まぁ心配して戻れるなら戻ってる。

今さら不安になっても仕方がない。

今は、あの二人とおばあちゃんに会えたことに感謝すべきだ。


俺はよほど疲れていたとか目を瞑って数分で眠りに落ちた。

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