綾香 ~忘れた筈の女~ 《前編》
目覚めると、泣いていた。
リアルな夢だった。
繋いだ手、髪の毛の匂い、抱きしめた身体の線の細さや温もり、全部思い出していた。
《綾香・・・、なぜ今頃?》
忘れた筈の女だった。
その日、僕たちは梅田の少し小洒落ているイタリアンレストランで、パスタを食べていた。
多分、初デートだったと思う。
当時の僕は、それが精一杯の贅沢だった。
彼女はボンゴレ・ロッソ、僕は蟹明太子クリームを頼んだ。
料理が来るまでの暫くの間は、当たり障りのない会話が僕達を和ませた。
「まさか、今日、本当に来てくれるとは思わなかったよ」
「あの誘ってくれたのリップサービスだったんですか?」
「んー、社交辞令かな。綺麗な女性に対する」
僕は当時(実際は今もそうかもしれないが)、女性をご飯に誘う事が多かった。
理由は単純で、一人で食事をするのが嫌いだからだ。
「ひどーい、うわっ、ご飯誘われた、どうしよって、私、思ったんですから、真剣に・・・。」
社交辞令と言いつつも、綺麗な女性と付けていたので、彼女は悪い気はしていない様に伺えた。
僕は話を聞きながら、彼女を見つめている。
栗色のウェーブがかった髪の毛、レストランの照明で、時折金色にキラキラ輝いていて綺麗だった。
思わず言葉を漏らす。
「綺麗・・・」
僕に話しかけていた彼女の動きが止まる。
「えっ?今、なんて・・・」
我に帰った僕は、言葉を誤魔化す。
こんな時は自分の心の内を悟られない様に、ナンパな男を演じる習性が身に着いていた。
「ん?なぁ、俺達、付き合おうか?食事だけじゃなく、この後、デートしよ」
いつもなら、『またぁー、そうやって女の子口説いてるんでしょー』と話をかわされる事で、安心していた。
だが、この時ばかりは違った。
彼女は、少し考えると、
「いいですよ。龍之介さんといると楽しそうだし」
予想外の彼女の対応に、逆に僕が焦った。
《おい、今日、初めて一緒にご飯食べて、しかも、会ってからまだ一時間も経ってないのに、彼女確定ですか?マジっすか?》
確かに紗依は、見た目は好みだ。
身長163、栗色の胸まであるロングヘアーで、胸はC~D、鼻は高くはないが鼻筋が通っており、目は切れ長だった。
よく、ハーフやクォーターに間違われるらしい。
どちらかと言えは、僕にはかなりの無理目だ。
「いいの?そんな事いって?僕、絶対、今日、抱くっていうよ。そんな男でも?」
期待したのは、『最低ー』のはずだった。
紗依は軽くため息を吐き、
「彼氏だから、仕方ありませんね」
と笑う。
唖然と僕はした。
気が向いたら、後編書きます。m(__)m