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奴隷勇者の異世界譚~勇者の奴隷は勇者で魔王~  作者: Takachiho
第五章

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5-23.実力

 玲奈はミルの回復魔法で動けるようになった冒険者たちにエルヴィナの拘束と手当てを任せ、ロゼッタと闇の超越者ダークネス・トランセンダーの槍使いの戦いに目を遣る。ロゼッタはB級冒険者であるマークハルトと一進一退の攻防を繰り広げていた。互いの槍が打ち合わさるたびに小気味いい音が辺りに響く。玲奈はロゼッタに加勢すべく、ミルと共に駆け寄った。ロゼッタはマークハルトと勢いよく切り結ぶと、後方に飛びずさって一旦距離を取り、玲奈たちと合流を果たす。


「レナ様、ミル様。ここは自分に任せてガロン殿に加勢を。今はまだ相手が手を抜いてガロン殿を弄んでいるようですが、それがいつまで続くかわかりません。それに一武人として、このまま一対一で決着を付けたく思います」


 玲奈としてはすぐさまロゼッタに加勢してマークハルトを一気呵成に撃破し、ガロンと共に全員でザフィーダを相手取るつもりだったが、ロゼッタの真摯な瞳で見据えられ、その意志を尊重することにする。


「わかった。でも、絶対に負けちゃダメだよ。もし負けたら、初めてのお仕置きだからね」

「はい。レナ様の一番の奴隷……はジン殿に譲りますが、言いつけは必ず守って見せます」


 ロゼッタは端正な顔に汗を滲ませながら、微笑を浮かべた。玲奈の目には、ロゼッタの表情が心なしか楽しげに映った。玲奈は再び戦いに身を投じるロゼッタの背中を見送り、しゃがみこんでミルと視線を合わせる。


「ミルちゃん。さっきはありがとう。ミルちゃんのおかげで吹っ切れたよ。絶対みんなで生き延びようね」

「みんなでジンおにいちゃんにお帰りなさいするの!」

「うん、そうだね。じゃあ行こう!」


 玲奈は立ち上がり、腰の剣も抜かないまま易々とガロンの攻撃をなしているザフィーダに目を向けた。必死な表情で大斧を振りかぶったガロンの渾身の一撃が空を切る。黒鉄の斬撃を紙一重で躱したザフィーダの拳がガロンの脇腹を突かんと小さく動いた。


「そこ! 氷弾アイスバレット!」


 鋭く回転する氷の弾丸がザフィーダの顔面を狙う。ザフィーダは手を止めると、体を後ろに大きく反らして高速で飛来する拳大の氷塊を回避する。その避けた先に、玲奈は次々と氷弾アイスバレットを放ち続けた。ザフィーダは片足を軸にして円を描くような回避行動を取り、最後の一発まで全て避け切った。その間にガロンが距離を取って態勢を整え、玲奈とミルはその隣に並ぶ。


「ガロンさん、加勢します」

「ああ。助かる。情けない話だが、一発当てるどころか、奴に剣を抜かせることすらできねえ」

「私が前に出ます。ガロンさんとミルちゃんは隙を突いて攻撃してください」


 ガロンとミルが頷くのを確認し、玲奈はザフィーダに左手を向けて氷弾アイスバレットを放つのと同時に駆け出した。





「もう終わりか?」


 数分後、玲奈たち3人は涼しい顔のザフィーダを前に、肩を激しく上下させていた。


「つ、強い……」


 呼吸の整わない玲奈の口から、思わず言葉が零れる。ガロンが坊主頭に玉のような汗を滲ませながら膝をつく。


「3人がかりとはいえ、この私に剣を抜かせたんだ。誇っていいぞ。だが、そろそろお遊びの時間も終わりか」


 ザフィーダの視線が玲奈たちを通り越し、マークハルトに向く。ザフィーダの視線の先で、マークハルトが地に伏していた。その前でロゼッタが槍を地に突き立てて、倒れ込みそうになる体を支えている。


「結局、あいつらも私の強さの域には達していなかったか。まあ、わかっていたことではあるが」


 ザフィーダは玲奈たちに背を向けて、門に足を向ける。


「くそっ。行かせねえぞ……!」

光矢ライトアロー!」


 疲労困憊の体に鞭を打って立ち上がったガロンの太ももを、振り向きざまにザフィーダの左手から放たれた光の矢が貫いた。ガロンが地に崩れ落ちる。ザフィーダの手のひらが光ったと思った次の瞬間にはガロンを穿っていた光矢ライトアローに、玲奈は驚愕の表情を浮かべた。玲奈は氷魔法を好んで使っていたため光魔法はそれほど得意ではなかったが、それでも魔法の実力でも格の違いを思い知らされた。


「元同門のよしみだ。命は奪わないでおいてやるが、そのまま地に這いつくばって自らの無力さを思い知るがいい」


 ガロンが首だけ動かしてザフィーダに目を向けた。ザフィーダは嘲笑を浮かべて歩みを再開する。その足取りはガロンに見せつけるかのようにゆっくりとしたものだった。玲奈はザフィーダの背を見つめながら特殊従者召喚を使って仁の力を借りるべきか悩むが、仁の現在の状況がわからず決断することができない。ザフィーダが門前に迫る。


 そのとき、ザフィーダの頭上から黒い塊が落下し、ザフィーダは歩みを止めて真後ろに飛び退く。ザフィーダの鼻先を掠めて轟音と共に大地に突き刺さった黒塊の正体は、漆黒の戦斧だった。ザフィーダが不敵な笑みを浮かべて門の上に視線を向けると、城壁から人影が飛び降りた。再び辺りに轟音が響き、衝撃が地面を伝う。巻き上がった砂埃の中から姿を現したのは、強面の中年の男性だった。男は大地に刺さった戦斧を引き抜く。


「バランさん!」

「よく耐えてくれた。ガロンを頼む」

「はい!」


 玲奈はミルと共にガロンを左右から抱え、後退する。玲奈はザフィーダの動向を窺うが、既にこちらに対する興味を失ったようで、気にもかけていない様子だった。


「ようやくお出ましか。雑魚の相手をしてまで待った甲斐があったな」

「ザフィーダ。引く気はないか」

「何を寝ぼけたことを。ようやく本気のあんたと戦える機会が訪れたんだ。こんなチャンスを逃すわけがないだろう」


 ザフィーダは喜色を浮かべながら剣を構える。


「では仕方がない。帝国兵をメルニール内に入れるわけにはいかん。メルニールのために戦って傷ついた者たち、また、今も戦い続けている者たちのために、儂が全力をもってお主を止めよう」

「メルニールがどうなろうと私には関係ないが、それであんたが全力を出せるというのならそれでいい」

「儂の元を出て行ったときから何も変わっておらぬようだな」

「私は変わったさ。あんたよりも強くなった」


 バランはゆっくりと首を振る。ザフィーダの顔に嘲りの色が浮かんだ。


「相手の実力も見抜けないほど耄碌したか。ああ、触れられなければステータスを盗み見られないのは変わらずか。まあいい。すぐにわかることだ」


 ザフィーダが地を蹴って一気にバランとの距離を埋める。ザフィーダの持つ魔剣とバランの漆黒の戦斧が激突し、衝撃が風圧となって砂塵を散らした。玲奈たちの見守る中、元A級冒険者と現A級冒険者の師弟の凄まじいまでの剣戟が幕を開けた。


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