4-19.再会
ミルとロゼッタが魔物との戦いに加わった。玲奈の小盾の毒で弱らせた相手で経験を積んだ後、上の階層に戻りながら戦闘を続けた。最初の内は緊張して体を固くしていたが、徐々にそれも解け、ぎこちなさは残るものの、徐々に自然体で戦えるようになっていった。ミルには回復魔法の使い手としての役目もあるため、あまり前に出過ぎないように注意してもらった。
玲奈が最前線で敵を引き付け、その後方からロゼッタがリーチを生かして攻撃を加え、ミルが隙を突く。3人での連携も様になってきていた。仁は3人のフォローをしながら、人目のないところでは遠隔魔法の訓練を続けた。土壁で敵を分断したり、闇霧で瞬間的に視界を奪ったり、いろいろな使い道を模索した。
「うん。こんなところかな。みんな、疲れも溜まってきているだろうし、一旦地上に戻ろうか」
「ミルはまだ大丈夫だよ」
仁の提案に、6階層の大蜘蛛に止めを刺したミルが声を上げた。ロゼッタも同意見のようだった。
「2人とも、戦えるようになって心身ともに充実しているように感じてるかもしれないけど、自分で思っている以上に見えないところで疲弊していると思うよ。今回限りってわけじゃないし、一度戻ってゆっくり休もう」
「うん。私も仁くんに賛成かな。私もライブの最中や終わった直後はアドレナリンがいっぱい出てるから疲れを感じなくて、もっとやれる、もっとやりたいって思ったりするんだけど、ベッドに入る頃になるとやっぱり疲れてたんだって実感が湧いてくるからね」
ミルとロゼッタは玲奈の言葉の中に意味の分からない単語が混ざって首を傾げるが、言いたいことはなんとなく伝わったようで、渋々ながら了承の意を示した。
「もちろんまだ6階層だし、ミルとロゼにはダンジョンを出るまでまだまだ戦ってもらうつもりだから、頑張ってね」
仁はミルとロゼッタが頷くのを確認し、地上を目指して歩き始めた。
「わぁ。やっぱり日の光は格別だね」
合宿の終了を決めてから2日後、地上に出たところで、玲奈が片手を庇のように額に付けて太陽を見上げた。
「そうだね。あれから1週間くらい経ったはずだし、ほとぼりが冷めてるといいんだけど」
仁の言葉に、ロゼッタが黒いフードを深くかぶり直した。仁が周囲に注意を向けると、ダンジョンの入口から少し離れたところで木にもたれかかっていた男が、仁たちに近付いてくるのがわかった。男の視線がチラッとロゼッタに向いた。
「やあ、奴隷くんとお嬢さん。ミルも元気そうだね」
「ヴィクターさん、こんにちは。今日は女の子たちと一緒じゃないんですね」
「あ、ああ。今日はダンジョンに入る予定はないからね」
ヴィクターの目が僅かに泳いだのを仁は見逃さなかった。それならばなぜこの場にいるのかと仁は怪しく思った。
「それで、俺たちに何かご用ですか?」
「あ、ああ、それなんだけど、ちょっと奴隷くんに話があってね。どうだろう。僕に少し付き合ってくれないかな」
仁たちは帰還予定日を誰にも告げていなかった。フェリシアとリリーには少し長く潜るとは話していたが、だからこそ、偶然ではなく待っていたようにこのタイミングで話があると言い出したヴィクターには裏があるように感じた。
「それは構いませんが、先に冒険者ギルドに寄ってもいいですか? エクレアさんに帰還報告もしたいですし」
ヴィクターが頷くのを確認し、仁は3人を促して冒険者ギルドに向かった。ヴィクターは3人の後ろを沈んだ表情で歩いている。ダンジョンから戻った冒険者が担当の受付嬢に無事の報告をすることは珍しいことではなかった。冒険者ギルドに近付いた仁たちは辺りの様子を窺うが、貴族のいる気配はなく、無事に辿り着いた。ヴィクターに入口付近で待ってもらい、仁たちはエクレアの前の待機列に並んだ。
「ヴィクターさん、何か様子がおかしくない?」
「うん。何か事情がありそうだね」
仁と玲奈は周りに聞こえないように小声で話す。裾を引かれて目を遣ると、ミルが仁にしゃがむように要求していた。
「ジンお兄ちゃん。ヴィクターさんはミルにも優しくしてくれるいい人なの。何か困っているなら助けてあげてほしいの」
仁の耳元でミルが囁く。ミルは入口で佇むヴィクターに、チラリと心配そうな視線を向けた。
しばらくして順番が来た仁は、受付嬢のエクレアにギルド長への面会が可能かどうか尋ねた。エクレアがすぐに確認に向かうと、快く応接室に通された。仁は万が一に備えて、仁が別行動をとる間、バランに玲奈たちを匿ってもらうことにした。仁はなんだかんだ言ってもバランのことを一定以上には信用しているのだと気づいて、こっそりと自嘲気味に笑った。バランが帝国や貴族と繋がっているのなら、もっと他にやりようがあるという思いもあった。
仁は3人に一旦の別れを告げ、入口で待つヴィクターと合流した。無言で歩くヴィクターの後を付いて行く。ヴィクターは何度か口を開きかけるが、目的地に着くまで声を発することはなかった。
「奴隷くん。すまない。僕を恨んでくれて構わない」
スラムの奥まった行き止まりにある広場に辿り着いたところで、ヴィクターは仁に向き直って頭を下げた。顔を上げたヴィクターの視線が仁を通り越す。視線を追うように仁が振り向くと、スラム特有の雑多なものを組み合わせて作られたみすぼらしい家々や積み上がったゴミの山に囲まれた広場の入口から、灰色のフードとマントで全身を覆い隠した大柄の男が姿を見せた。その偉丈夫はマントで隠しようのない大きな剣を背負っている。ごつごつと盛り上がったマントは、その下に甲冑を着込んでいることを如実に示していた。
「久方ぶりだな」
仁の正面にゆっくりとした足取りで歩み寄った偉丈夫が、どこか聞き覚えのある声音を発した。眉を顰める仁の目の前で、男が自身の纏うフードとマントを剥ぎ取り、投げ捨てた。マントの中から現れた甲冑は、赤色だった。




