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奴隷勇者の異世界譚~勇者の奴隷は勇者で魔王~  作者: Takachiho
第四章

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4-15.部屋主

 日を跨ぎ、仁たちは10階層に到着した。辺りに人気ひとけがないのを確認し、隠し部屋のある側の通路へ足を向ける。隠し部屋への入口は隠されたままになっていた。仁と玲奈は以前の記憶を頼りに岩壁に隠された仕掛けを押し込み、隠し部屋への入口を開く。入口から内部を覗き込むと、前と同様に木箱が置かれていた。


「玲奈ちゃん。もしこっち側に魔物が現れたら、俺の合図を待たずにすぐに召喚してね」

「うん、わかった。仁くんも気を付けてね」

「とりあえずは何が出てくるか確認するだけだから大丈夫だよ。じゃあよろしくね」


 玲奈が頷くのを確認し、仁は隠し部屋に足を踏み入れ、木箱の蓋に手を当てる。仁の身を案じる視線を背後に感じながら、仁は蓋を持ち上げた。金属製の蝶番が軋んだ音を立てるのと同時に、入口が閉じられた。仁が視線を部屋の奥に送ると、以前と同じように地面が盛り上がり、中から魔物が姿を現した。それは頭頂に赤い鶏冠とさかを有する、青い大蛇のような姿だった。体長10メートル程の蛇の胴体には8本の蜥蜴とかげの足が生えていた。


 仁は左目に力を込めて鑑定の魔眼を発動させた。仁の青白く発光する左目と、蛇の魔物の真紅に輝く瞳が視線を交差させた。


(まずい!)


 仁の視界の端に魔眼の読み取った魔物の情報が表示されるのと同時に、仁の足が地面と一体となって動かすことが出来なくなった。仁が感覚を失った足元に視線を向けると、足首から下が石に覆われていた。石は徐々に上へとせり上がっていく。仁は慌てて左手から黒炎の球を作りだし、真横の壁に向かって射出した。3連射された黒炎弾は岩壁を抉り、轟音を響かせた。仁の膝の辺りまで石に包まれたとき、仁の全身を青い光が覆い、視界が暗転した。


「仁くん!」


 仁の視界が晴れると、玲奈が大きな目を見開いていた。


「あ、足が石になってるよ!」


 仁が足元に視線を送ると、石化は膝の上で止まっているようだった。仁の周りに集まったミルとロゼッタの顔が心配そうに歪んでいる。


「大丈夫。足は動かないけど、それだけだよ」


 心配する3人を落ち着かせようと、仁は肩を竦めて見せた。


「ミル。状態異常を回復する魔法は使える?」

「昔、おかーさんが使ってるのを見たことがあるから、やってみるの」

「できなくても回復アイテム使えば治るから、無理しないでね」


 強張ったミルの表情が僅かに和らぐ。ミルの小さな左手が仁の石化した足に触れた。ミルは目を閉じ、意識を集中させる。辺りは静まり返り、玲奈とロゼッタの視線がミルの手の先に集まった。


「おかーさん、見ててね。体を蝕む悪いものは外に出て行け――治療キュア!」


 ミルが詠唱を終えると、ミルの左手から溢れ出した黄色い光が仁の石化した足に広がっていく。仁の足の石は光と溶け合うように消え去る。黄色い光が全て消えたとき、仁の足は元通りになっていた。


「ミル、ありがとう」


 仁がミルの頭を撫でると、ミルは気持ちよさそうに目を細めた。尻尾がパタパタと揺れた。


「仁くん、治ってよかった。ミルちゃん、すごい!」

「ミル様、お見事です」


 仲間からの賛辞を受けて、ミルは嬉しそうに身を捩らせた。




「それで仁くん。何があったの?」


 玲奈に問われ、仁は蛇の魔物の真紅の瞳を思い出した。


「正確にはわからないけど、おそらく、石化の魔眼の効果を受けてしまったみたい」

「石化の魔眼?」

「そう。推測だけど、自身の目を見たものを石にする魔眼だね。石にされた部分の感覚がなくなったから、体の表面を覆われるだけじゃなくて、体の中まで石化しているようだね。どうやら視界から逃れると石化は止まるみたいだけど」

「ということは、多頭蛇竜ヒュドラーじゃなかったんだね」

「うん。隠し部屋の主は多頭蛇竜ヒュドラーじゃなくて毒蛇王バジリスクだった。今度も幼生体だけどね」


 元の世界のバジリスクはヨーロッパの想像上の化け物で、見ただけで相手を石にする目を持ち、口から炎を吐き、極め付けには体内に猛毒を持ち、槍で触れただけで毒を逆流させられるとも言われている。


 毒蛇王バジリスクと聞いてミルが身を震わせた。


「ジンお兄ちゃん。毒蛇王バジリスクはおとーさんがしてくれた昔話に出てくる、すごく強い魔物なの。危ないの」

「レベル自体は前に戦った多頭蛇竜ヒュドラーの幼生体より低いんだけどな」


 心配そうに仁のチュニックの裾を掴むミルを眺めながら、仁はどうやって戦ったものか頭を悩ませた。




「じゃあ、もう一回行ってくるよ」

「仁くん。本当に大丈夫? 無理に倒さないで、冒険者ギルドに報告した方がよくない?」


 心配そうに眉根を寄せる玲奈に、仁は笑顔を返した。


「もしものときは玲奈ちゃんの技能で召喚してもらって、ミルに治してもらうから大丈夫だよ。それに、勝ち目がないのに挑むほど、俺は命知らずじゃないよ。玲奈ちゃんたちを残して死ぬわけにはいかないからね」


 仁の瞳に迷いがないのを見て取った玲奈は、大きく溜息を吐いた。


「無理だけはしないでね」


 3人に見送られ、仁は再び隠し部屋の中へ歩を進めた。




 先ほどの焼き直しのように、部屋の奥から毒蛇王バジリスクの幼生体が姿を現す。仁は毒蛇王バジリスクの目を見ないように気を付けながら、左手を突き出した。


闇霧ダークミスト!」


 仁の左の手のひらから大量の黒い靄が溢れだし、毒蛇王バジリスクの頭から体の半分を覆い尽くす。毒蛇王バジリスクは上半身を持ち上げて頭を振るが、靄は霧散することなく、付いて回った。鬱陶しそうにうめき声を上げた毒蛇王バジリスクあぎとを大きく開き、靄を焼き尽くさんと火炎を辺りに巻き散らかす。仁は自身を掠めるように迫った真紅の火炎を右手の不死殺しの魔剣(イモータルブレイカー)で捌き、左手に黒炎刀を作りだした。


「黒炎斬・乱舞!」


 仁が踊るように黒炎刀を振るうと、赤黒い刀身から三日月状の斬撃がいくつも放たれた。毒蛇王バジリスクの上半身に向かって乱れ飛んだ斬撃は、毒蛇王バジリスクの蛇の胴体を切り刻み、隠し部屋の岩肌に多くの残痕を刻んだ。残された下半身が力を失って地に倒れ伏し、地響きを引き起こす。


黒炎地獄ダークインフェルノ!」


 仁は黒炎刀を触媒にして、黒炎で再現した黒炎地獄ダークインフェルノを放った。黒い炎の塊は毒蛇王バジリスクの体の中央に着弾すると、着弾点を中心に、轟音と共に赤黒い炎の渦を広げた。円状に広がった黒炎は、地面ごと毒蛇王バジリスクを燃やし尽くした。


 念のために黒炎地獄ダークインフェルノを放ち、もう大丈夫だろうと仁が毒蛇王バジリスクの上半身に目を向けると、そこには半ば溶解した細切れの肉塊が広がっていた。下半身に視線を移すと、焼けただれた残骸からぷすぷすと煙が上がっていた。


「仁くん!」


 玲奈の声が背後から聞こえ、仁が振り向くと、開かれた入口から玲奈とミル、ロゼッタが笑顔で駆け寄ってきているのが見えた。仁は部屋の中央に現れた金色の宝箱をうきうきした思いで視界の端に捉えながら、ミルに毒蛇王バジリスクの解体をお願いした。


毒蛇王バジリスクの毒は魔法的なものだと思うから、ミルの短剣なら問題ないと思うよ。もし異変があったらすぐ言ってね。そもそも死んでいれば体内の毒も無害になると思うけど。ん? どうしたの、ミル」


 仁の目の前で、ミルが毒蛇王バジリスクの死骸に目を向けて固まっていた。死骸とはいえ、毒蛇王バジリスクの姿が怖いのかと仁が考えていると、ミルがゆっくりと仁に向き直った。


「ジンお兄ちゃん。無事なのはよかったけど、ちょっとやり過ぎなの。これじゃあ素材が取れないの」


 赤紫の瞳が、仁には少しだけ虚ろに見えた。


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