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奴隷勇者の異世界譚~勇者の奴隷は勇者で魔王~  作者: Takachiho
第四章

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4-11.忠告

「来たか」


 冒険者ギルドの職員に案内され、仁は応接室でバランと対面していた。目で促され、ソファに腰を下ろす。


「ダンジョンの隠し部屋の件、大変だったな。お主らのおかげで今後出たであろう被害を防ぐことができた。冒険者ギルド、メルニール支部長として礼を言う」


 深々と頭を下げるバランを仁は制止した。


「俺は自分たちに降りかかる火の粉を払っただけですので」

「それでも、お主らの行動が少なくない冒険者や探索者を救うことに繋がったのは確かだ。ダンジョンの罠を処刑場などと称して自らの手を汚さずに欲望を満たす犯罪者共は、儂の名に懸けて断罪してくれよう」


 鋭い瞳に強い意志を宿らせるバランは、頼れるギルド長としての姿を体現しているようだった。


「それで、くだんの探索者らにお主らの殺害及び身柄の確保を依頼した者だが、帝国第一皇子の手の者で間違いないようだ。依頼の失敗を悟ってすぐにメルニールを離れたようで、こちらから手を出せぬのが口惜しい限りだ」

「そうですか。でもそいつは命令に従っただけでしょうし、第一皇子の仕業だとわかっただけで十分ですよ」


 仁の中ではルーナリア一派以外の帝国は敵という認識だったが、玲奈に迫る第一皇子の姿を思い出し、その思いを一層強くした。表情を険しくする仁を、バランの鋭い視線が射抜いた。


「お主らと第一皇子との間で、何があった。それに、お主は一体何者だ。幼生体とはいえ、多頭蛇竜ヒュドラーを単身で撃破するなど、常人にできることではない。それに、勇者であるお嬢さんよりも従者であるお主の方が強いというのはどういうことだ」


 仁はしばらくバランの目を見つめた後、大きく溜息を吐いた。仁は玲奈と一緒に異世界から勇者として召喚されたこと、帝国の召喚失敗で玲奈の奴隷となっていたこと、玲奈が第一皇子に目を付けられて帝都を脱出したことを話して聞かせた。既にバランには半分は知られてしまっているようなものであり、仮にバランが帝国と繋がっていたとしても、既に帝国は知っていることだった。


「それでは、お主は勇者の従者であり、そして自身も勇者だということか」

「いえ。俺は勇者召喚に巻き込まれただけで、帝国の定義するところの勇者ではありません。召喚された時の俺の職業は奴隷ですからね。俺は勇者玲奈の奴隷ですよ」

「詭弁だな。職業欄が記号だというのは初代様の口伝にもあるが、今にして思えば、それは勇者が異世界から召喚された者だということを示すものに過ぎぬ。だとするのならば、お主も勇者だということになる。差し詰め、奴隷勇者といったところか」


 どうにも玲奈のみならず仁も勇者としたい様子のバランに、仁は肩を竦めた。


「それで、現時点で俺が玲奈ちゃんより強いと思われているのは、経験の差ですね。俺の方が玲奈ちゃんより少しだけ経験が豊富なだけです。多頭蛇竜ヒュドラーを倒せたのは俺の持つ技能と相性が良かったのと、借り物の魔剣のおかげですよ」

「それはガロンからも聞いているが、それだけで楽に倒せるほど、多頭蛇竜ヒュドラーは生やさしいものではないのだがな」

「冒険者の手の内を探るのはマナー違反ですよ。ギルド長」

「ふむ。それもそうだな」


 バランは口の端の片側を吊り上げ、声を上げて笑った。


「少々横道に逸れてしまったな。今日お主を呼んだのは、先ほど冒険者ギルドに押しかけてきた貴族についてだ」


 表情を引き締めるバランを前に、仁は居住まいを正した。


「あの貴族はダサル・カマシエと言ってな。古くから帝国よりこの辺り一帯を領地として与えられ、代々伯爵位を継承している生粋の貴族だ。初代様がメルニールを築く際に一悶着あったようで、メルニールを快く思っていない一族でな。ダサルも水面下では度々難癖を付けて来ていたのだが、こう表立って動くとは、余程その白虎族の奴隷に熱を上げているようだな」

「大筋はガロンさんから聞きましたが、その貴族は俺たちを探してどうするつもりなのでしょう」

「それは、おそらくお主らに白虎族の奴隷を手放すように持ちかけるのだろう。レヴェリー奴隷館の女主人にはていよくあしらわれていたようだが、新人冒険者なら権力を笠に脅せばどうとでもなると考えているのだろうな」


 バランは鼻を鳴らした。


「勇者のお嬢さんとその白虎族の奴隷契約は奴隷商ギルドの定めた奴隷法に則って正式に交わされたもので、何人なんぴとたりとも異を挟むことはできないとレヴェリー奴隷館の女主人が証言している以上、あやつにできるのは奴隷の主人から奴隷の移譲契約を取り付ける他ないからな」

「ということは、これからもその貴族に付け狙われるわけですか……」


 仁はこれからの生活を思い、顔を顰めた。


「もちろんお主らにその気がなければ断るだけでいい。それで納得しないようであれば、メルニールとしてカマシエに正式に抗議するつもりだ。お主らがメルニールにいる限り、ダサルの思い通りにさせるつもりはない」


 どこまで信用できるか測りかねてはいるものの、仁はバランの言葉を心強く感じた。


「直接的な手を使ってくるとは思いたくないが、件の探索者たちの例もある。十分注意するようにな」

「ええ。忠告ありがとうございます」




 仁は冒険者ギルドを後にし、マークソン商会の店舗で黒いフードつきのマントを購入した。既に仁たちの情報が知られてしまっているため、どの程度効果があるかわからないが、仁はロゼッタの白髪と白耳、白い尻尾を隠してもらうつもりだった。


 仁が鳳雛亭に戻ると、受付に座っているリリーが出迎えた。気遣わしげな様子のリリーに感謝を告げ、仁は借りている部屋へ急いだ。


「ただいま」


 仁が鍵を開けて部屋に入ると、ミルが走り寄ってきた。仁は腰の辺りに抱き付くミルの頭を撫でながら、ベッドに腰を下ろして床の一点を見つめているロゼッタに近寄る。


「ロゼ。ダンジョンへの道中や屋台で昼食を取っているところを目撃されただけで、パーラが俺たちの情報を貴族に売ったわけじゃないよ。ギルド長の話だと、パーラは俺たちに非がないことを証言してくれているみたいだよ」


 仁の言葉にロゼッタはパッと顔を上げるが、端正な顔を歪ませて再び顔を伏せた。


「どうして自分は白虎族として生まれたのでしょう。両親と同じ虎人族なら捨てられることも蔑まれることもなく、売れない奴隷としてパーラ様の手を煩わせることもなく、何より、レナ様やミル様、ジン殿に迷惑をかけることもなかったでしょう」


 がっくりと肩を落とすロゼッタを、玲奈とミルが沈痛な面持ちで見つめていた。


「ロゼ。迷惑をかけているのは貴族で、ロゼじゃないよ」

「それでも、自分は白虎族なのです。きっとこれからも周囲に不幸を撒き散らすのでしょう。いっそのこと、自分がいなくなれば――」

「ロゼ!」


 仁の強い声に、ロゼッタが肩を震わせて言葉を止めた。


「ロゼ。それからミルも。まだ話していなかった俺と玲奈ちゃんの事情を話すよ。玲奈ちゃん。いいよね?」

「うん。私たちの方がミルちゃんやロゼに迷惑をかけることになるかもしれないしね」


 仁はどこまで話すべきか脳内で思考を巡らせながら、目を丸くするミルと、いきなりの展開に放心するロゼッタの姿を眺めた。仁とロゼッタの視線がぶつかり、ロゼッタが喉を鳴らした。


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