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奴隷勇者の異世界譚~勇者の奴隷は勇者で魔王~  作者: Takachiho
最終章

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21-16.ダンジョン間転移

「これは本当にすごいことですよっ!」


 興奮したリリーの視線が仁の手のひらの上のダンジョン核に注がれる。


 転移自体は魔の森の石灯籠(いしどうろう)型アーティファクトのように、超古代文明の時代においてはそれほど珍しいものではなかったのかもしれない。しかし、その遺物が僅かに残るのみとなった現代ではその価値は計り知れない。


 詳しいことは調べてみないとわからないが、少なくともダンジョンマスターが離れた場所にあるダンジョン間を瞬時に行き来できるというだけでも、その恩恵は凄まじいものがある。


「ジ、ジンさん。わ、わた、わたしがこのままマスターでいいんでしょうかっ!?」


 期待と不安を()い交ぜにしたような目をしたリリーが、ずいっと顔を仁に近づけた。


「え、えっと……」


 仁としては二つ目のダンジョン核のマスターを誰に任せるか決めていたわけではないので、特にそれで問題があるわけではない。複数のダンジョンのマスターになることでそれまでになかったメリットが生まれるのであれば尚更だ。しかし、手放しで喜んでばかりもいられないリリーの葛藤も、何となくではあるが仁にも理解できた。


 なぜなら、ダンジョン間転移の恩恵に最もあやかることができるのは、リリーのような商人なのだ。仮に仁がマスターだったとしても、二つ目のダンジョンを設置した場所との移動が楽になるくらいの恩恵しかない。


 しかし、これがマークソン商会に属するリリーだった場合、高性能の魔法鞄(マジックバッグ)を用いれば、遠方との商品の輸送を危険なく即座に完了できることになる。もちろんダンジョンを設置した街間に限る話ではあるが、それはこれからラインヴェルトに支店を開こうとしているマークソン商会にとっては垂涎の的に他ならない。


 故に、リリーは期待し、そしてそれと同時に、自分がその恩恵を得られることに罪悪感のようなものを抱いているのだろうと仁は推測する。


 いくら利に(さと)い商人気質のリリーと言えど、棚から牡丹餅としか言いようのない状況を嬉々として享受できるほど、誇りを持たないわけではない。


 もともとリリーがダンジョンマスターになったのは商売とは無縁の事情で仁から譲られただけであり、二つ目のダンジョン核も仁のものだ。いずれ仁がこの世界を去ることになれば誰かの手に渡ることになるだろうが、それがリリーでなければならない理由はない。


 とはいうものの、ダンジョン間転移の(もたら)す恩恵に、商人としての心が躍るのは仕方がないことだと仁は思う。


「俺としてはリリーに任せてもいいと思う。ただ、多少なりともラインヴェルトとメルニールに還元してくれると嬉しいけど」

「は、はいっ! それは当然です!」


 リリーが喜びと安堵の同居した瞳で頷く。


「ジンさんに軽蔑されるようなことはしませんっ」

「うん。それは心配してないよ」


 使いようによってはラインヴェルトの商業活動を牛耳られるだろうが、おそらくリリーは、マークソン商会はそのようなことはしないだろうと仁は信じられた。仁と玲奈を利用するようなことをせず、また、私財を持ち出しでメルニール近郊の避難所設営に尽力するマークソン商会が、ラインヴェルトの発展を阻害しかねないような暴利を貪るとはとても思えなかった。


 もちろん、すべて公平に利益を分配しろという話ではない。リリーがダンジョンマスターという責任を負う以上、対価としてマークソン商会を優遇するのは当然だ。ただ、やりすぎないことと、ラインヴェルト、メルニール双方の発展に寄与してほしいというだけだ。


 幸いと言い切っていいのかは微妙なところではあるが、ダンジョンの扱いに関してはアシュレイから自由にしていいとお墨付きをもらっている。


「ちなみに、サブマスターの方で得られた情報だと、マスター権限でマスター以外を別のダンジョンに移動させることができるかわからなかったんだけど、リリーはわかる?」


 マスター自身が自由に転移できるのもとんでもないことだが、もしそれが可能であれば、やりようによっては、実質転移用アーティファクトとしても運用できるということだ。ダンジョンにはある程度自由に安全地帯を造ることができるのだから、転移用の部屋を造るなどということも可能になる。


もっとも、ダンジョンマスター、ないしはサブマスターが付きっきりとなってしまうので常時運用は難しいだろうが、それでも人と物の移動に革命が起こるのは明らかだった。


「うーん」


 リリーが斜め上方を見つめて記憶を辿ってから、残念そうに首を横に振った。ダンジョン間転移ができるのだから理論上は可能なように仁は思うが、そればかりは試してみないとわからないようだった。マスター登録時に得られる情報がすべてではない。便利なようで不便なところもあるが、それはおそらく情報量が膨大になるからだと仁は推測していた。


「とりあえず、早めに検証してみないとだね」


 もし可能だった場合の運用方法はアシュレイやゲルトたちとも協議した方がいいだろうと仁が提案すると、リリーは迷いなく頷いた。あまり大々的に公にしてしまうとマスターについての情報も知られてしまうため(さじ)加減が難しいが、ラインヴェルトとメルニールが連携していく上で、これほど有用なものはないだろうことは間違いなかった。


「近いうちに試せるように、仮のダンジョンを組んでおくよ」


 一度設定してしまうと容易に変更できないものもあるため適当に造るわけにはいかないが、リリーにコピーしてもらったひな型を使えば、基本部分を造るくらいはそれほど時間がかかるわけではないだろうと仁は考えていた。


「場合によっては、とりあえずメルニール以外の場所に設置することになるかもしれないし」


 仁の脳裏に、マルコと帝国の皇女姉妹の顔が浮かんだ。帝国の目を逃れてメルニールより遠くからラインヴェルトまで商隊を組んで移動するのは容易なことではないが、仁がオニキスで飛ばしてマルコと合流できれば、そこからマルコらをラインヴェルトに転移することができる。オニキスもダンジョンに入れるのなら、皆を転移させた後、ダンジョンを回収してから仁自身は玲奈に召喚してもらえばいい。


 そして、もし皇女派が強硬手段に出るのなら、例えば帝都の近く、それこそ帝都内に潜り込んでダンジョンを設置し、そこから軍勢を送り込むことだってできてしまうのだ。


 ある程度まで完成した段階ですぐに実験することを約束し、仁とリリーはダンジョンを出る。既に日は落ちていた。


「送っていくよ」

「はいっ。ありがとうございます!」


 リリーが仁にぴったりと寄り添い、揃って歩を進める。


「あれ? リリー、どこ行くの?」


 少し進んだところでリリーがマークソン商会ラインヴェルト支部への道から外れ、仁は首を傾げた。どこかに用事があるのかと仁が考えていると、リリーは、さも不思議そうに瞬きを繰り返す。


「どこって、ジンさんたちのお宅ですけど」

「え?」

「準備は万端ですっ」


 リリーが肩から下げた魔法鞄(マジックバッグ)を揺らして主張する。尚も戸惑っている仁に、リリーは「今夜はわたしの番ですからっ」と月明かりの下で満面の笑みを浮かべた。


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