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奴隷勇者の異世界譚~勇者の奴隷は勇者で魔王~  作者: Takachiho
最終章

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21-15.青天井

「これが昔ここにあったダンジョンなんですか?」


 仁が中空に浮かぶホログラムのような極薄のディスプレイを見つめていると、リリーが体と顔を寄せて一緒に覗き込んだ。自然と頬と頬がくっつきそうになるが、リリーはまったく気にしていないようだった。


「うん。確証はないけど、俺の記憶が正しければ」


 一度は霞がかって忘れかけてしまった記憶だが、再びこの世界を訪れたことで、ラストルたちと初めて潜ったダンジョンのことを思い出せるようになっていた。


 リリーが感嘆の息を吐く横で、仁はかつての出来事や仲間たちに思いを馳せる。結末は仁や皆が望んだものではなかったものの、その時の経験は仁の血肉や糧となって今も生きている。


 もしあの日々がなければ、仁はガウェインや帝国から玲奈を救えなかったかもしれないし、再召喚から、いや、送還された時から今までの日々がすべて違ったものになっていた可能性が高かった。


 戦う力はもちろんのこと、少なからずこの世界の人々の温かさに触れたからこそ、絶望だけでなく希望を抱くことができたのだ。もしそうでなければ、仁は本物の魔王に、この世界に破滅を(もたら)す存在と化していたかもしれない。


「それでジンさん。これを見ながら新しいダンジョンを造るんですか?」


 リリーはディスプレイに浮かぶ3Dモデルを眺めながら、大変そうだと(うな)る。


「うーん……。そうしようと思っていたんだけど、リリーの言う通り、大変そうだなー」


 もちろん一からダンジョンを構築するのもそれはそれで大変なのだが、過去のダンジョンを再現するのもかなりの時間と労力を要しそうだった。


「コピーできれば楽なんだけどなぁ……」


 仁は思わず愚痴をこぼす。これを見ながら再現するとなると、必然的にリリーを付き合わせてしまうことになってしまう。リリーは仁と一緒にいられると喜びそうではあるが、そうは言ってもリリーには別にやらねばならないことが山積みなのだから、甘えてばかりもいられない。今のうちにある程度記憶して参考程度に留めるか、一層のこと、一時的にダンジョンマスターを移譲してもらうべきかと仁は頭を悩ませる。


「あの、ジンさん。ちょっと試してみませんか?」

「うん?」


 仁がリリーの間近で首を傾げた。


「ダンジョン核ってすごい力がいろいろあるじゃないですか。それが複数存在するなら、ダンジョン核の中の情報を移したり、ジンさんの言ったように複製できたりしてもおかしくないんじゃないかなって」


 確かに一理あると思った仁はアイテムリングからもう一つのダンジョン核を取り出し、リリーに手渡す。本当にそんなことができるとしても、二つのダンジョン核のマスターが同一でなければ無理なように思えた。


「まだ誰も登録してないから、触れて魔力を通せばマスターになれるはず」

「わかりました。試してみますねっ」


 リリーは恭しく受け取ると、若干の緊張を孕んだ面持ちで手のひらを重ねた。直後、リリーの目が見開かれる。仁は自身が初めてダンジョン核に触れた時を思い出し、ダンジョンに関する情報の波がリリーの頭に押し寄せているのだと察した。リリーは既にこのダンジョンのマスターではあるが、二つ目のダンジョン核がそれを考慮しなくても不思議はない。仁はリリーの横顔を眺めながら、状況が落ち着くのを待った。


「ジ、ジジジジンさんっ!」


 カッと一層瞼を限界まで開いたリリーが仁の方を向き、震える声で呼んだ。焦燥というよりも興奮している様子のリリーに、仁は淡い期待を抱きつつ応じる。しかし、リリーは口をパクパクと動かすだけで、二の句が出てこない。


「リリー、落ち着いて」


 リリーは仁の言葉を受けて深呼吸を繰り返す。仁はリリーがある程度落ち着いた頃を見計らい、努めて穏やかな口調で何が起こったのか尋ねた。


「触れた瞬間、前みたいにいろんな情報が頭に流れ込んできたんですけど、これ、本当にすごいですっ」

「すごいっていうと、無事コピーできそうっていうことかな?」

「はい、それはもう」


 リリーはそう答えるなり、ディスプレイを手早く操作する。


「はいっ。これでできました」

「え、もう?」


 仁が驚きで目を丸くする。リリーが真顔で頷くのを見れば、それが冗談でもなんでもなく、事実なのだと理解できた。仁は改めてダンジョン核という恐るべき高度な魔法文明の産物に畏敬の念を抱く。しかし、リリーの表情は、それだけではないと語っていた。仁が生唾を飲み込んでリリーに先を促す。


「ジンさん」


 リリーが手にしていた新しい方のダンジョン核を仁に差し出す。仁が不思議に思いながら受け取ると、リリーは先ほどと同じように中空のディスプレイを迷いのない手つきで操作した。


「ジンさんっ。そのダンジョン核に魔力を流してもらっていいですか?」

「え、うん」


 旧ラインヴェルト王国のダンジョンのデータがコピーできたというのであれば、この新たなダンジョン核のマスターを仁に移譲するのは特段おかしなことではない。しかし、話の流れ的にはおかしいのではないかと仁は(いぶか)しく思う。


 とはいえ、リリーが意味のないことをさせるとは思えず、仁はその指示に従った。手のひらを添えて魔力を流すと、ダンジョン核が一瞬の輝きを放ち、仁の頭に情報の奔流が押し寄せた。仁が呆然とした表情を浮かべ、パチパチと瞬きを繰り返す。


「サブマスター……?」


 仁が呟くように言葉を漏らすと、リリーは大きく頷いた。


「わたしが二つのダンジョンのマスターになったことで、片方のダンジョン核の機能を使用できるサブマスターを任命できるようになったみたいなんですっ」


 リリーは試しにやってみただけで、このシステムを使うかどうかは仁に任せると続けるが、リリーはどこか気もそぞろな様子だった。仁はそんなリリーを見つめながら、無理もないと考える。なぜなら、仁もまた、先ほどサブマスターになった際に流れ込んできた情報の波の中に、決して無視することのできないとんでもないものが含まれていたことに気づいていた。


「リリー――」

「ジンさん――」


 仁とリリーは顔を見合わせ、どちらからともなく口を開く。


「「ダンジョン間転移」」


 二つのダンジョンのマスターになったことで解禁されたダンジョン核の新機能。それはこれまでマスターだけが使えたダンジョン転移のように、二つのダンジョン間を瞬時に移動できるというものだった。


 仁とリリーの思い付きから生まれた今この時。


 それは仁たちの手にした二つのダンジョン核の価値が、ただでさえそれを巡って戦争が起こるレベルのとてつもない価値が、途方もなく膨れ上がった瞬間だった。


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