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奴隷勇者の異世界譚~勇者の奴隷は勇者で魔王~  作者: Takachiho
第四章

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4-8.契約

「本当にロゼッタでよろしいのですか?」

「ええ。ロゼッタさんがいいのです」


 仁は躊躇いなく答えた。仁の隣で玲奈とミルも大きく頷いた。


「わかりました。それではロゼッタを連れて参りますので少々お待ちください」


 パーラはそう言うと応接間を出ていった。


「ねえ、仁くん」


 ぽんぽんと肩を叩かれて、仁は横を向いた。


「そういえば、代金ってどうなってるの? パーラさんも何も言わないし、よくは知らないけど、たぶん奴隷ってその人その人で値段違うんだよね?」

「あ、そうだね。誰にしようかってことに頭が行って、すっかり忘れてた。マルコさんによれば余程高値の奴隷でなければ金貨200枚も予算があれば十分だって話だから、足りないってことはないと思うけど」


 その後の必要経費を考えると少しは手元に残しておきたいところではあるが、仁は多頭蛇竜ヒュドラーの素材を売れば当面の生活に困らないだけの資金は得られるだろうと考えていた。


「仁くんにばかりお金を出させてごめんね」

「いやいや。この資金は玲奈ちゃんの、“戦乙女の翼(ヴァルキリーウイング)”みんなのものだよ」

「でも、それって合成獣キメラの報酬だよね。合成獣キメラ倒したのは仁くんだし」

「いや。玲奈ちゃんの凍結フリーズがなければ素材が痛んで、もっと安くなってたと思うし、みんなのために使うのが一番だよ。それに、個人的な買い物がしたくなったら、そのときは相談して使わせてもらうからさ」


 仁と玲奈に挟まれたミルが合成獣キメラという聞き慣れない単語に首を捻っていたが、それを説明するより先に、パーラがロゼッタを連れて戻ってきた。


「お待たせしました」


 パーラは一礼すると、後ろに控えるロゼッタに場を譲った。


「改めまして、白虎族のロゼッタと申します。自分を選んでいただき、本当にありがとうございます。自分はレナ様の良き奴隷となることを誓い、非才の身ではありますが、粉骨砕身、皆さまに尽くす所存です」


 整った顔に喜色を浮かべたロゼッタが、直立不動で奴隷契約を受け入れる宣言をした。


「それでは意思確認も済みましたし、契約作業に移りますね」

「あ、待ってください」


 仁が声を上げると、パーラとロゼッタの視線が仁に向いた。ロゼッタの表情が僅かに曇った。


「ジン様。何か問題でもございましたか?」

「えっと、その。お恥ずかしながら、値段をお聞きするのを失念していまして」

「ああ。そのことでしたら心配なさらずとも大丈夫ですよ。万が一予算を超えるようなら超過分はマルコさんが支払うと紹介状に書いてありましたので」

「え」


 仁と玲奈はマルコにもう何度目かになる感謝の念を抱いた。ここまでよくしてもらうと何か裏があるのではと勘繰りたくなってしまうが、仁はマルコの善意を疑うような真似はしたくなかった。


「それに、紹介状によると若い新人冒険者だからと侮るなとのことですし、マルコさんの出番はないと思いますよ。ご購入いただくのもロゼッタですしね」

「ロゼッタさんだからというのは?」

「ロゼッタは特に特技や経験も持たず、非力さから戦闘や肉体労働にも適さず、既に成人しており、唯一の長所である外見は多くから疎まれる種族で打ち消され、物珍しさと歪んだ性癖から来る数少ない需要も性的な要求を本人が拒否する始末。まぁ最後に関しては同情の余地はありますが。ありていに言えば、売れ残りですね」


 淡々とパーラから語られる自身の評価の低さに、ロゼッタは今にも泣き出しそうな表情を浮かべていた。ロゼッタは事実なので反論できずにいるようだった。


「そういうわけなので、お客様にロゼッタをご購入いただけて、わたくしも肩の荷が下りた思いです。何分、ロゼッタはわたくしの父の代から買い手が付かず、日々の生活費だけが嵩んで行く始末。奴隷商ギルドの取り決めで簡単に放り出すわけにもいかず困っていたのです。最近になって、とある帝国貴族の目に留まったのですが、それはもう奴隷を人と思わない肥えた豚が人の皮を被ったような男でして。性奴隷としての購入希望だったため、ギルド規約を盾に追い払っておりますが」


 パーラはそこで一旦話を切って、口に手を当てた。


「あら、いけません。他のお客様の悪口のようになってしまいましたね。お客様方。聞かなかったことにしてくださいね」


 仁と玲奈は入店時の八つ当たりの原因だと思い至り、曖昧な笑みを浮かべた。


「それで、ロゼッタの代金なのですが、金貨10枚となります。本来ですとそれに手数料の金貨5枚をいただくのですが、今回はマルコさんの紹介状もありますし、なによりロゼッタをお買い上げいただけるということで負けさせていただきます」


 まるで厄介払いと言わんばかりの物言いだが、仁はパーラの言葉の裏に、ロゼッタへの愛情が隠されているように感じた。こっそり仁がロゼッタの様子を盗み見ると、嬉しいような嬉しくないような、微妙な表情を浮かべていた。


「わかりました。ありがとうございます。問題ありません」

「ね、仁くん。それなら私の所持金から払っていい?」

「それはいいけど、いいの?」

「私もこれから頑張って稼ぐよ。でも、どうしてもというときは、お小遣いちょうだいね」


 ニコッと気持ちのいい笑顔を浮かべる玲奈に、仁は苦笑いを浮かべた。


 それから代金の支払いを済ませ、玲奈を使役者としてロゼッタの奴隷契約が行われた。複雑な制約は設けず、主人やその仲間に危害を加えないこと、また自身に危害が及ばない限り主人や仲間たちの情報を洩らさないことの2つのみを課すことにした。


「ロゼッタ。ご主人様方の言うことをよく聞いて、迷惑にならないようにするんですよ。出戻りは許しませんからね」

「はい、パーラ様。長い間お世話になりました。ロゼッタは良い奴隷商の元、良い主人に巡り合えたことを幸運に思います」


 仁はパーラとロゼッタのやり取りから、単なる奴隷商と奴隷という以上の関係性を感じた。新たな仲間となったロゼッタを、玲奈とミル同様、大切にしていこうと仁は強く思った。


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