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奴隷勇者の異世界譚~勇者の奴隷は勇者で魔王~  作者: Takachiho
第四章

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4-5.奴隷商

 遅い朝食を済ませた後、仁たちはマルコの元を訪れた。信頼できる奴隷商に心当たりはないかと尋ねたところ、わざわざ紹介状を用意してくれた。既に十分に恩返しをしてもらったと仁は思っているが、マルコはまだ不足していると感じているようだった。


 紹介された奴隷商の店は、ダンジョンの入口の塔を挟んで逆側のエリアにあるようだった。初めて足を踏み入れた区画には奴隷商の店舗や大きなテントのような移動式の販売所が多く集まっていた。仁たちは商人や奴隷、客たちが引っ切り無しに行き来する通りを縫うように進んだ。


「ここみたいだね」


 仁は灰色の壁に掲げられたレヴェリー奴隷館の看板を見上げた。小ぢんまりとした石造りの建物だった。道を挟んで反対側に見えるレンガ造りの大きな館と比べると若干みすぼらしい印象を受けるが、入口前の道は綺麗に清掃されていて、訪れる客への気配りが感じられた。


「いらっしゃいませ」


 開け放たれた扉を潜って建物内に足を踏み入れた仁たちを、褐色肌の美女が出迎えた。年の頃20代中盤辺りの意志の強そうな目をした女性が、見事な営業スマイルを浮かべていた。肩甲骨の辺りまで伸びた薄い金髪が綺麗に切り揃えられている。褐色美女の目が一瞬だけ仁の首の隷属の首輪を捉えた。美女はすぐに仁から視線を外し、玲奈と向き合った。


「レヴェリー奴隷館へお越しいただき、大変ありがとうございます。本日はどのようなご用件でしょうか」

「あ、はい。えっと、奴隷の購入を検討していて、条件に合う人がいれば、購入したいと考えています」

「そうなのですか。てっきりこの奴隷をわたくしどもにお売りになって、向かいの大商館で代わりをお探しになるおつもりなのかと」

「じ、仁くんは売りものじゃないです!」


 玲奈が慌てて否定し、その斜め後ろでミルが尻尾をピンッと立てた。美女の茶色い瞳が僅かに細められた。


「そうですか。それは残念です。当館では現在、男の性奴隷が不足していまして。この奴隷なら黒髪黒眼の珍しさもありますし、高値で買い取りさせていただきたいと思ったのですが。どうかご検討いただけませんか?」

「だから、仁くんは売りものじゃないんです! いくらお金を積まれても仁くんを手放すつもりはありません。私には仁くんが必要なんです。仁くんは私の大切な、大切な、大切な、大切な……」


 玲奈の言葉が尻すぼみになり、仁の仄かに高まった気持ちも沈んでいく。玲奈は首を回して仁の顔を眺めた。


「大切な、何だろう? 私のファン……?」

「いや、それを俺に聞かれても……。まぁ確かに大ファンだけど」


 小首を傾げた玲奈に、仁は脱力して肩を落とした。褐色美人の顔から作り笑いが消え、自然な笑みが浮かんだ。


「これは大変失礼をいたしました。“ふぁん”というものが何かわかりませんが、どうやらお客様は随分とこちらの奴隷の男性を大切にしていらっしゃるご様子。わたくしは当館の館長をしておりますパーラ・レヴェリーと申します。お客様のご来館を心より歓迎いたします。さあ、どうぞこちらへ」


 美女は振り返ると、そのまま館の奥へと進んで行った。仁たちはパーラの一変した表情に混乱する気持ちを抑え、慌てて後を追った。パーラの纏ったドレス風の赤い衣装の背中がばっさりと三角に開いていた。




「先ほどの無礼をお許しください。近頃、奴隷を物扱いする不逞の輩が増えておりまして、少々お客様を試させていただきました」


 応接室でそれぞれソファーに腰を下ろしたところで、パーラが深く頭を下げた。


「もし、玲奈ちゃんが俺を売るって言っていたら、どうされるおつもりだったのですか?」

「はい。当館から叩き出し、向かいの商館でも紹介するつもりでした」


 事も無げに言うパーラの様子に、仁は頬を僅かに引きつらせた。


「あ、ああ、そういえば」


 仁は空気を変えるようにポンッと手を打って、床に下ろしていた革袋から羊皮紙の手紙を取り出した。


「マルコさんに紹介状を書いていただいていたのでした」


 仁がパーラに手紙を手渡した。


「拝見いたします」


パーラは紹介状の封を解き、目を通した。読み終えると、パーラは肩を竦めた。


「もう。お客様も人が悪いですよ。先に渡していただければ、試すようなことはせずに済みましたのに」

「え。そんな暇はなかったような……?」


 仁の横で玲奈がなんとも言えない曖昧な表情を浮かべた。仁と玲奈に挟まれるようにちょこんと座っているミルが、こくこくと小さく頷いている。


「それで、先ほどのことはマルコさんには内緒でお願いしますね。マルコさんの恩人に無礼な真似を働いたと知られたら、何を言われることか……」


 一転して笑顔を引っ込めたパーラが、ぶるぶると体を小刻みに震わせた。


「え、ええ。こちらも実害を被ったわけではありませんし。ね、玲奈ちゃん」

「う、うん」


 仁と玲奈は温厚そうなマルコの微笑顔を思い浮かべ、パーラの様子を訝しく思った。パーラは仁と玲奈の言質を取って安心したのか、整った顔に、再び笑顔の花を咲かせた。


「それもこれも、あの肥えた豚のせいですね。あの者さえ来なければむしゃくしゃして八つ当たりすることもありませんでしたのに……」


 笑顔のまま小声で毒を吐くパーラに、仁は思わず腰を引いた。


「え。豚? 八つ当たり? え、え?」

「あ、いえ、こちらの話ですので。お気になさらずに」


 戸惑う玲奈を、パーラはとても良い笑顔で黙らせた。ミルが目を白黒させていた。


「それで、ご用件は奴隷の購入でしたね。どのような条件でお探しなのですか?」

「はい。まず絶対条件は女性であること。ダンジョンで戦う意志のあることです。次に、玲奈ちゃんの奴隷となることを望んで受け入れ、玲奈ちゃんやミルと守り合える関係を築く心づもりのある人ですね。俺は男ですが、もちろん性的な行為を強要するつもりはありません。そもそも俺は奴隷なのでそのような権限を持ってはいませんが、他者とのそのような行為を玲奈ちゃんが命じることはありません。後は、年齢はあまり上過ぎなければ問題ありません」


 仁の言葉を、玲奈が肯定するように深く頷く。


「ミルはどんなお姉さんがいいか、希望はある?」

「ミルは優しいお姉さんがいいの!」


 間髪入れずに答えるミルを、仁や玲奈、パーラが微笑を浮かべて優しく見つめた。


「それではご希望に添える者をリストアップして参りますので、こちらでそのままお待ちください」


 パーラが席を立つと同時に、応接室のドアから年配の女性が入れ替わるように入ってきて、仁たちの前にお茶を差し出した。仁は紅茶で喉を潤しながら、ニコニコと尻尾を左右に揺らしているミルの頭に手を置いた。ピクピクと小さく動く犬耳を眺めながら、小麦色の髪を梳くように指を動かした。仁は、良い人が見つかればいいなと、心から思った。


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