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奴隷勇者の異世界譚~勇者の奴隷は勇者で魔王~  作者: Takachiho
第四章

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4-2.隠し事

「さ。俺たちも再開しようか」


 ヴィクターたちを見送った後も、ミルは沈んだままだった。玲奈が心配そうな視線をミルに送っていた。玲奈がミルの肩に手を置く。


「ミルちゃん、行こう?」


 ミルは伏せたまま、小さく頷いた。


 その後、1階層と2階層を練り歩きながら狩りを続けた。時折、ミルが何か言いたそうに仁と玲奈を見ていたが、その度に顔を歪めて黙りこくってしまった。それでもサポーターの仕事自体は黙々とこなし、切り上げて地上に戻る頃には、ミルの麻の袋は小さな魔石でいっぱいになっていた。




「ジンお兄ちゃん。レナお姉ちゃん」


 その晩、仁と玲奈がそれぞれのベッドの上で思い思いくつろいでいると、ベッドの間に立ったミルが、俯き加減で仁と玲奈を呼んだ。仁と玲奈はすぐさま体を起こし、ベッドの端に腰かけた。


「何かな。ミル」

「ジンお兄ちゃん、レナお姉ちゃん。ごめんなさい……」

「ミル。ごめんなさいだけじゃわからないよ。ミルは何か俺たちに謝らないといけないことをしたのかな?」


 仁が問いかけると、ミルは小さく肩を震わせた。


「ミル、ジンお兄ちゃんとレナお姉ちゃんに隠し事してたの。せっかく仲間に入れてくれたのに、言えなかったことがあるの。だから、ごめんなさい……」


 ミルは唇を噛んで目をきつく閉じた。向かい合う形で座っている仁と玲奈が目を合わせた。玲奈が微笑を浮かべて小さく頷いた。


「ミル。ちょっとこっちにおいで」


 仁はミルを手招きした。ミルは怒られると思っているのか、赤紫の瞳にうっすらと涙を浮かべながら、おずおずと近寄る。


「ミル。見てて」


 仁はミルの鼻先に左手を持ってくると、薬指の指輪から一本の串を取り出した。仁は目を丸くしたミルの眼前に、ミルの大好物の焼き鳥を差し出す。焼き鳥からは湯気が立ち上っていた。


「はい。どうぞ」


 固まっていたミルが反射的に受け取り、呆けたように焼き鳥を眺めた。夕食にあまり手を付けていなかったミルの腹の虫が可愛く鳴いた。ミルの頬がほんのり桜色に染まった。


「はい。これもどうぞ」


 仁はアイテムリングから次々と焼き鳥を取り出し、ミルに手渡す。


「ジンお兄ちゃん、もう持ちきれないの……!」


 両手に焼き鳥状態のミルが困り顔を浮かべた。仁は真剣な表情でミルを見つめた。


「ねえ、ミル。いつも温かいままの屋台の食べ物が俺の革袋から出てくるの、おかしいと思わなかった?」

「ジンお兄ちゃんの革袋は魔法鞄マジックバッグだから、そういうものだと思ってたの」


 仁は小さく首を振った。


魔法鞄マジックバッグにそんな効果はないよ。あるのはこの指輪」


 仁はミルの眼前に左手の指輪を持ってきた。小さな青い宝石がキラリと光った。


「これは、アイテムリングって言われるアーティファクトなんだ」


 仁がアイテムリングの性能を話して聞かせると、ミルは驚きに目を見開いた。


「それから、ミル。俺の左目を見て」


 放心していたミルが反射的に仁の目に向いた。仁が鑑定の魔眼を発動させると、左目が青白い輝きを放った。


「俺の左目は鑑定の魔眼って言ってね、見た人のステータスを読み取ることができるんだ」


 仁の言葉の意味を理解するなり、ミルがビクッと肩を震わせた。ミルの可愛らしい顔が歪んだ。


「ミル、ごめんね。勝手に覗き見しちゃって」


 仁の視界にミルのステータスが浮かんでいた。


「ミルは回復魔法の技能を持っているの。今まで黙っていてごめんなさい……」

「ミル。俺もミルに隠し事をしていたし、お相子だね。ミルは隠し事をしていた俺に腹を立てたかい?」


 ミルはぶんぶんと首を横に振った。


「うん。ありがとう。俺もミルがちょっとした隠し事をしてたからって怒ったりしないよ。もちろん玲奈ちゃんもね」


 ミルは涙で濡れた瞳で仁を見上げた後、ゆっくりと振り向く。玲奈が優しく微笑んでいた。


「それに、玲奈ちゃんなんて、あんな可愛い顔して帝国のお尋ね者なんだよ」


 玲奈を見ていたミルの目が大きく開かれた。


「ちょっと仁くん。その言い方だと私が悪いことした人みたいじゃない! ミルちゃんが勘違いしたらどうするの!」


 玲奈が顔を紅潮させながら可愛く憤慨した。仁は肩を竦める。


「嘘は言ってないよ」

「そうかもしれないけど、それを言ったら仁くんだって一緒じゃない。むしろ、仁くんの方が第一皇子に嫌われてるよ!」


 わーわーと喚き合う仁と玲奈の様子を呆然と眺めていたミルが、小さな笑い声を上げた。仁と玲奈は言い争いを止め、ミルに視線を向けた。


「ジンお兄ちゃんもレナお姉ちゃんも、喧嘩しちゃダメなの」


 ミルがくすくすと笑いながら言った。


「ミルちゃん。もしかしたらまた危険なことに巻きこんじゃうかもしれないけど、私や仁くんと一緒にいてくれる?」

「もちろんなの。ミルはレナお姉ちゃんとジンお兄ちゃんの仲間なの!」

「ミルちゃん、ありがとう!」


 玲奈がミルに抱き付こうと一歩を踏み出すが、ミルの両手に握りしめられた焼き鳥を見て中途半端に動きを止めた。仁とミルはそんな玲奈の姿を見て、顔を見合わせて笑い合った。




 その後、焼き鳥数本を綺麗に平らげたミルから話を聞いた。


 ミルは生まれながら回復魔法の技能を持っていたが、幸いなことに活用する機会に恵まれず、両親がダンジョンで亡くなってから知り合った同じ孤児のファムが作ってきたすり傷をたまに治す程度だった。


 しかしある日、食うものに困ったミルは、回復魔法が使えるから雇ってほしいと一人の探索者に営業をかけ、一緒にダンジョンに潜った。その際、油断から小さくない怪我をしてしまった探索者を回復魔法で治療しようとしたところ、ミルの小さい魔力では痛みを少し和らげる程度の効果しか発揮しなかった。ミルはろくに回復薬ポーションも持ち込んでいなかった探索者を小さい体で必死に支えながらなんとか無事にダンジョンを脱出したが、その探索者から使えない奴だと罵られたのだった。


 そのことがあって以来、ミルはファム以外に回復魔法を使うのを止め、いくらサポーターの仕事が取れなくても二度とそれを売りにすることはなかった。


「だから、ジンお兄ちゃんもレナお姉ちゃんも、ミルの回復魔法は当てにしないで欲しいの」


 そう真摯に訴えるミルを、仁は静かに眺めた。仁は自身や玲奈の持つ勇者の称号の効果を思い出していた。勇者の称号には仲間の成長速度と成長率を高める効果があった。実際、かつての仁の仲間たちは本人たちの努力もあってのことではあるが、誰もが王国内でもそれぞれの分野で随一の使い手となっていた。


 獣人は総じて肉体的に優れる反面、魔法を苦手とするが、先天的に貴重な回復魔法の技能を持つミルの成長に、仁は密かに期待を抱くのだった。


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