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奴隷勇者の異世界譚~勇者の奴隷は勇者で魔王~  作者: Takachiho
第三章

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3-17.帰還

「玲奈ちゃん。これを貰ってくれるかな?」


 仁は多頭蛇竜ヒュドラーの隠し部屋の宝箱から入手した不死者の指輪(イモータルリング)を玲奈に差し出した。指輪に嵌った未知の宝石が黒々と輝いている。


「これって宝箱に入ってたものだよね。仁くんが使わなくていいの?」

「うん。俺はこれを貰ったし、ミルにはお父さんの魔剣があるからね。だからこの指輪は玲奈ちゃんに貰ってほしいんだ」


 仁は腰の魔剣に手を当てながら言った。これまで女性に指輪を贈った経験などなく、仁の心臓はバクバクと音を立てた。仁は玲奈に緊張がバレないように祈っていた。


「わかった。そういうことなら貰うね。仁くん、ありがとう」


 玲奈の顔に笑顔の花が咲いた。それを目にしただけで幸せな気分が仁の心を満たしていくが、まだこれで終わったわけではなかった。


「うーん。どの指ならサイズ合うかな……?」


 玲奈が指輪を手に取ってまじまじと眺めながら、可愛らしく小首を傾げた。


「その指輪は魔道具、いや、たぶんアーティファクトだから、どの指に嵌めてもぴったりのサイズに変わると思うよ」

「あ、そうなんだね。それじゃあ、ここにしようかな」


 玲奈は左手で指輪を掴むと、右手の小指にそっと嵌め込んだ。指輪が一瞬だけ淡い光を放つと、玲奈の指にちょうど良いサイズへと変化した。仁は心の中でこっそりため息を吐いた。左手の薬指に嵌めてほしかったなんて、口が裂けても言えないことだった。


「どうかな。似合う?」


 玲奈が仁に右手の小指を見せてきた。


「う、うん。とっても似合ってるよ」

「ありがとう。ねえ、仁くん知ってる? 右手の小指には願いを叶えるっていう意味もあるんだよ」


 玲奈は笑顔でそう言うと、体を伸ばして、そっと仁の耳元に顔を寄せた。


「無事に帰れるといいね。もちろん二人揃って、ね」


 玲奈はすぐに離れて仁の目を見て柔らかく微笑んだ。玲奈はそのまま離れたところで出発前最後の荷物整理をしているミルに指輪を見せに行った。周りに聞こえないよう小声で囁かれた言葉は、仁の脳内を麻薬のように駆け巡った。


「なあ兄ちゃん。腰の剣と嬢ちゃんに渡した指輪、さっきの宝箱のやつなんだよな? 鑑定士に見せる前に装備しちまって大丈夫か?」

「あ、はい。呪いのアイテムではなさそうですので大丈夫だと思います」


 ガロンは目を丸くするが、すぐに納得したように大きく頷いた。


「そうか。まあ兄ちゃんが嬢ちゃんの身に危険が及ぶようなことをするはずないしな。きっと大丈夫なんだろう。それより」


 ガロンの厳つい顔に、ニヤリといやらしい笑みが浮かんだ


「指輪を受け取ってもらえてよかったな、兄ちゃん。緊張してたのがバレバレで、ついつい見入っちまったぜ。いやー、初々しいねえ」


 ガロンの言葉に、仁は自分の顔が熱くなっているのに気付いた。


「そ、そんなんじゃないです! からかわないでください!」


 仁はついつい声を荒げてしまうが、ガロンは笑い飛ばした。


合成獣キメラ多頭蛇竜ヒュドラーを一人で倒しちまう兄ちゃんも、嬢ちゃんのこととなると形無しだな。人間味があって、俺は好きだぞ」

「ガロンさんみたいな厳つい坊主頭に好かれたって嬉しくありません!」

「ああ、ああ。わかってるって。嬢ちゃんに好かれたいんだよな」

「だから、俺と玲奈ちゃんはそういうんじゃないですからっ!」


 仁とガロンはここがダンジョンであるということも忘れて盛り上がっていた。それは遠巻きに二人を見守っていた皆が、そろそろ出発しようと集まってくるまで続いた。その間、幸いなことに、魔物に襲われることなく、“戦乙女の翼(ヴァルキリーウイング)”とガロンのパーティの一行は地上を目指し、隠し部屋を後にした。




 猿轡をして両手を後ろで縛ったザムザとゲラムを連れての道中は困難を極めるかと思いきや、ザムザは仁に恐怖心を抱いており、ゲラムも仁が一人で隠し部屋の魔物を退治したことを知って大人しくなった。あの部屋を処刑部屋と称して犯罪に利用している仲間に関しては口を濁していたが、仁の殺害と玲奈の捕縛を依頼した相手は帝国の手の者で間違いないようだった。仁と玲奈を殺害すれば金貨50枚、玲奈を殺害ではなく捕縛することができれば追加で更に50枚の金貨の報酬を約束されていたようだ。仁はガウェインが玲奈を捕らえてどうするつもりだったのかを想像し、はらわたが煮えくり返る思いだった。


 ザムザとゲラムは初めから仁と玲奈を罠に嵌めるために近づいたが、血を吸うしか能のない短剣に金貨10枚も出すと言ってきた仁をいいカモだと思ったそうだ。ザムザたちは一時期巷で話題になっていたミルの父親の短剣を罠にかけて奪ったが、仲間の鑑定士に見せたところ、ただ血を吸う短剣ということしかわからず、それ以上の価値があるとは思っていなかったようだった。




 3日後、一行は無事地上に辿り着いた。道中、仁と玲奈はガロンの仲間たちと協力して魔物の排除に努め、ミルは短剣を使って、生き生きと魔物の解体に勤しんでいた。


「それじゃあ後のことは頼みます」

「ああ。任せときな」


 頼もしく胸を張るガロン一行にザムザとゲラムを託し、仁と玲奈はミルを連れてしばらくぶりの鳳雛亭への帰途に就いた。


「ジンさん、レナさん! それと、ミルちゃん! おかえりなさいっ!」


 鳳雛亭の入口をくぐると、受付のリリーがこれ以上ないというくらいの笑みを浮かべて3人を歓迎した。


「リリー。ただいま」

「これまでこんなに宿を空けることがなかったですし、手紙を読んだガロンさんが慌てた様子だったから、心配しちゃいましたっ」

「ありがとう。おかげさまで無事帰って来られたよ」

「何があったかはわかりませんが、あまり無茶なことはしないでくださいねっ」


 仁は曖昧な笑みを浮かべた。仁はわざわざ一人で多頭蛇竜ヒュドラーと戦ったことは内緒にしておうと思った。


「ジンお兄ちゃんは一人で多頭蛇竜ヒュドラーに勝っちゃったの。心配無用なの」


 仁が慌ててミルの方を向くと、ミルは小さく胸を張っていた。リリーの瞳が大きく見開かれた。


「え。多頭蛇竜ヒュドラー? 多頭蛇竜ヒュドラーって、A級の冒険者パーティでも倒せるかわからないって言われてる、あの?」

「えーっと、多頭蛇竜ヒュドラーって言っても、まだほんの子供だったんだよ」

「子供でも、こーんなに大きかったの。ジンお兄ちゃんはすごいの」


 ミルが両手を限界まで広げて、多頭蛇竜ヒュドラーの大きさをアピールしていた。リリーは危険なことはしないでくださいと頬を膨らませていたが、受付カウンターから身を乗り出してミルの話を聞き、最後には、さすがジンさんですと、うっとりとした表情を浮かべていた。


「それで、ミルも一緒に泊まることになったんだけど、3人部屋に移れないかな? もちろん追加料金は支払うよ」

「いいえ! 料金はお爺ちゃんが払うから心配しないでください。ただ、申し訳ないのですが、3人部屋に空きがないんですよ」


 どうしたものかと仁と玲奈は顔を見合わせた。


「ミル、ジンお兄ちゃんと一緒に寝るから、2人部屋のままで大丈夫なの」


 ミルの発言に、リリーの目が僅かに細められた。


「ジンお兄ちゃんは、ミルと一緒じゃ、いや?」


 ミルは不安げに赤紫の綺麗な瞳を揺らして仁を見上げた。仁の答えは決まっていた。こうして仁と玲奈の暮らす鳳雛亭の二人部屋に、住人が一人増えたのだった。


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