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奴隷勇者の異世界譚~勇者の奴隷は勇者で魔王~  作者: Takachiho
第三章

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3-13.仕事

 仁たちは看板の無い建物から出ると、ザムザたち兄弟と別れ、そのまま鳳雛亭への帰途に就いた。普段はスラム街の片隅で雑魚寝をしているというミルを、鳳雛亭に連れて行くことにした。姉妹のように手を繋いで歩く玲奈とミルを横目で見ながら、仁はザムザから聞いた、仕事の話を思い出していた。




「なに。そんなに難しいことじゃない。ダンジョンでちょっとした発見をしたんだけど、2人だと手が足らないことがあってね。道中の魔物は俺と兄貴が倒すから、あんたらはただ付いて来るだけでいいぜ」

「発見というのは?」

「それは行ってみてのお楽しみだな。あんたらを信用しないわけじゃないが、情報を漏らされても困るんでね。それと、当日はダンジョン内で合流だ。人目に付くと何かしら勘ぐる奴らが出てくるかもしれないからな」

「どの辺りまで潜るんですか?」

「それもまだ言えないな。あー。それから、そんときに金貨10枚は持って来いよ。面倒ごとはすぐ済ますたちでね。仕事を無事終えたらその場で取引といこうぜ」




「仁くん、どうしたの?」


 ザムザとの会話を脳内で反芻していた仁は、玲奈の問いかけで現実に引き戻された。


「なんでもないよ。それより、明日のために準備をしないとね」


 ザムザたちとの仕事は明日の夕刻から行うことになっていた。目的の階層は教えられなかったが、6日分の食料や水を用意するよう言われていた。ある程度はアイテムリングで持ち込むつもりだが、カモフラージュのためにも、ミルにサポーターとして荷物運びを手伝ってもらうことになった。当初、仁はミルを置いて行くつもりだったが、どうしても付いて行くと譲らないミルに押し切られてしまったのだった。


「あの人たち、何か企んでるように思うんだけど、大丈夫かな?」


 仁が感じた胡散臭さと同じものを感じているのか、玲奈が眉根を寄せた。


「もちろん警戒はするけど、念のため、一手打っておくよ」


 仕事に関してはザムザに他言無用だときつく口止めされていたが、仁は馬鹿正直に守るつもりはなかった。もちろん監視が付くことも想定して、表だって動くことはしない。勘ぐられて取引をなかったことにされるわけにはいかなかった。




 仁は夕食を終えると、宿屋でのアルバイトを終えたリリーに、手紙をガロンに渡してくれるようにお願いした。リリーは二つ返事で引き受け、笑顔で帰って行った。その夜、ミルは再び仁のベッドで寝ることになり、玲奈が羨ましそうに仁とミルを見ていた。


 翌朝、仁と玲奈はミルを連れて食料や水などの買い出しに向かった。そのまま屋台で昼食を取ることにしたが、ミルは買い食いをしたことがないらしく、赤紫の瞳をこれでもかと輝かせていた。小麦色の尻尾をパタパタと左右に振りながら、先日の給金である銀貨2枚を握りしめ、何を食べようか真剣に吟味していた。




 夕刻、3人でダンジョンへの入場受付を済まし、ダンジョンの2階層へ向かった。1階層をあっさりと抜け、2階層への階段を下る。初めて訪れた2階層は、1階層とさほど変わった様子はなかった。受付横で購入した2階層の地図を眺め、一番近い安全地帯を目指した。


 安全地帯にはザムザたちの他にパーティが1つだけいたが、取り立てて注目されるようなことはなかった。仁たちと入れ替わるように安全地帯を出て行くザムザたちを横目で眺め、少しだけ時間を置いてから出発した。


「よう。来たな」


 3階層への階段近くの安全地帯でザムザたちと合流した。時刻は夜半を回っているからか、この安全地帯には他のパーティの姿はなかった。軽く挨拶を済ませると、離れた場所にテントを張った。念のため、仁と玲奈は交互に寝起きして不測の事態に備えた。寝ている玲奈はミルとくっついて幸せそうだった。




 ダンジョンに入って3日目、遂に10階層に到達した。ダンジョンは10階層までの上層、20階層までの中層、30階層までの下層、それより下の最下層に分かれている。3階層以降、仁たちはザムザたちのすぐ後ろを付いて行くことになった。ザムザたちは襲ってくる魔物を淡々と屠りながら、歩き慣れた道筋のように迷いなく進んで行った。


 このまま10階層に存在する上層のボスに挑むのかと不安が鎌首をもたげたとき、ザムザたちは横道に逸れた。仁は地図を見て不審に思いながら後に続き、何もなさそうな行き止まりへ向かった。


「着いたぜ」


 仁は辺りを見回すが、何の変哲もない岩肌があるだけだった。


「ここに何があるんですか?」


 仁は警戒心を強め、ザムザとゲラムに訝しげな視線を送った。


「まあそう焦るな」


 ザムザは肩を竦めながら、岩肌を両手で探るように撫で始めた。


「ああ、ここだここだ。兄貴、そっちも頼みます」


 ザムザが一点で手を止め、少し離れた場所でゲラムが同じような行動を取った。ゲラムの手が岩壁の一点で止まる。


「見てな」


 ザムザとゲラムが頷き合うと、岩壁に当てていた手を強く押し込んだ。壁の中から何かがはまるような音が聞こえた。続いて、小さい地震のような揺れと共に重低音が辺りに響いた。目を見開いて成り行きを見守る仁たちの前で、行き止まりだった岩壁が、ぽっかりと口を開けた。


「中を覗いてみな」


 仁は玲奈とミルを制止し、ザムザに言われるまま、恐る恐る入口から内部を覗き込んだ。開いた口の先は半径50メートルほどの広い円形の部屋になっていて、岩肌はこれまでのダンジョン同様、淡い光を放っていた。部屋の中央に木箱が置かれていた。仁の目には、元の世界のテレビゲームでよく見るような宝箱のように見えた。


「どうだ。中に箱のようなものが見えないか?」

「ええ。ありますね」

「やはりな。これは隠し部屋だな。ダンジョンにはたまにこうした仕掛けがあって、中に宝箱があるのさ。宝箱の中身は貴重品が多くてな。こういった場所からはアーティファクトも出るって話もある。だが、ご覧の通り、俺たち2人はこのまま動けなくてね。そこで、あんたらの出番ってわけさ。俺らの代わりに宝箱の中身を取ってきてくれ。な。簡単な仕事だろ」


 手を岩肌に押しつけたままのザムザが、にんまりと口角を持ち上げた。


「仁くん。これって、罠とかじゃないのかな?」

「その可能性が高いだろうね。手を離したら仕掛けが解除されるかどうかも怪しいもんだよ」


 仁と玲奈は顔を寄せて小声で話した。ミルが不安げに見上げていた。


「なあ。早めに頼むぜ。ようやく念願が叶うんだ。もう待ちきれないぜ。もし本当に貴重な物だったら、短剣もただでくれてやるからさ。頼むよ」


 ザムザは仁たちが警戒しているのを感じ取ったのか、僅かに必死さをにじませながら懇願するように言った。ゲラムは相変わらずの仏頂面だった。


「わかりました。今から取ってきますね」


 仁はそう宣言すると、玲奈の耳元に口を寄せた。


「もしものときは、お願い」


 仁は玲奈が大きく頷くのを確認すると、ゆっくりと入口に歩を進めた。改めて内部を覗き込むが、木箱以外には何も存在しなかった。仁は隠し部屋へ足を踏み入れた。周囲に気を配りながら、部屋の中央を目指す。仁は宝箱を鑑定の魔眼の視界に収めるが、ただ木箱とだけ表示された。


 仁は木箱の前にしゃがみ込み、蝶番ちょうつがいで片側が留められた蓋に手を掛けた。意を決して蓋を持ち上げると、周囲の地面が小さく震え、木箱が地中に沈むように消えた。反射的に振り返ると、直前まで存在したはずの入口が消えていた。岩壁の向こうから玲奈の仁を呼ぶ声が微かに聞こえたが、すぐに別の大きな音にかき消されてしまった。おぞましい魔物の咆哮だった。


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