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奴隷勇者の異世界譚~勇者の奴隷は勇者で魔王~  作者: Takachiho
第十七章

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17-21.失敗

「どうしてこうなった……」


 ダンジョンを出た後、仁は奴隷騎士隊の面々を見送りながら頭を抱えた。息も絶え絶えなセシルとカティアを、ピンピンしていたエリーネと他の奴隷騎士の少女が支えて遠ざかっていく。


「個人的にはジンさんに仲間だと思われていたことを嬉しく思いますよ。レナさんとは出会ったばかりですし、気になさらないでください。今後のためにも、交流する機会を増やしていただければと思います」


 ファレスは少し辛そうにしながらも至って真面目にそう言い残し、一礼してからセシルたちの後を追っていった。


 日帰り合同合宿の第二ターンにおける想定外の結果。それは即ち、共にダンジョンに潜った奴隷騎士隊の面々の内、何名かのパワーレベリングに失敗したことだ。


 具体的はセシルとカティアには十分以上の効果が見られ、ファレスは二人ほどではなく、エリーネ他2名の奴隷騎士の少女には全くと言っていいほど経験値が入っていなかったのだ。


 この結果は仁にとって想定外だったが、ファレスは事前に予想していたのか、去り際のファレスの言葉は、その理由を的確に言い当てていた。


 計画が半分失敗に終わった理由は、単純明快。勇者の称号を持つ仁と玲奈の二人と、奴隷騎士隊の面々の親しさにある。


 既に仲間として共に行動したことのあるセシルとカティアは“仲間の成長を促進する”という勇者の称号の効果を問題なく受けることができたが、玲奈と顔合わせをしただけのファレスは仁の分の効果しか得られず、二人の奴隷騎士に至っては仁ですら交流というほどの交流をしていない。


 エリーネに関しては他の二人よりは仁と接点があったが、今もぎくしゃくしていることからわかるように、とても手放しで仲間と呼べる関係ではない。


「ジン殿もレナ様も、元気を出してください。ガロン殿たちやセシル殿とカティア殿には効果は見受けられたわけですし、自分は完全な失敗というわけではないように思います」

「それはそうなんだけどね……」


 気遣わし気に声をかけてきたロゼッタに、仁は苦笑いを返す。確かにロゼッタの言う通りではあるのだが、仁は「皆を育成するんだ」と息巻いていた自分を恥ずかしく思った。


 この調子では、今後、手を貸すつもりだった他の奴隷騎士たちにも効果がないだろうし、下手をすれば戦斧(バトルアックス)の残りの面々も、ということもあり得ない話ではない。もちろん他の奴隷騎士ほど交流がないわけではないし、仁としてはガロンやノクタ同様に信頼できる相手だとは思っているが、二人ほど個人的な付き合いがあるわけではないのもまた事実。


 勇者の称号の効果の及ぶ“仲間”の範囲が、仁や玲奈が仲間だと思っていればいいのか、相手からも思われていないといけないのか不明ではあるが、どちらにせよ、逆説的に、効果が及ばなければ仲間ではないということになりかねない。


「まったく、どんな踏み絵だよ……」


 仁は溜息交じりに(こぼ)し、自身の浅はかさを呪う。とはいえ、このまま腐っているわけにもいかず、ガロンたちの様子を見に行くことにした。




「この辛さは強くなるための近道を選んだ代償だって思って諦めていたが、実は兄ちゃんや嬢ちゃんの仲間の証だってことか。そう思えば苦しみ甲斐があるってもんだぜ」


 ガロンが「なあ」と振ると、隣に座り込んでいるノクタが頷いて同意を示した。


「そうですね。もし自分に効果が出ていなかったらと思うと気が気じゃないですけど……」

「ちげえねえ」


 ガロンは普段のように豪快に笑い飛ばそうとするが、体が痛んだのか、笑みを引っ込めて顔を(しか)めた。


「まあ、実際に気が気じゃなくなるのは、後でこの話を聞いたあいつらの方だろうけどな」


 ガロンが視線を向けた先では、ガロンとノクタを除いた戦斧(バトルアックス)のメンバーがラウルと数人の孤児たちに稽古をつけている。


 二人はダンジョンから戻ってテントでしばらく休んだ後、稽古の様子を見に来ていたのだった。そこに仁たちが訪れ、先ほどの一件を話して今に至る。


 仁は何も知らずに少年たちに稽古をつけている馴染みの冒険者たちを眺めながら、もし効果が出なかったらどうしようと思い悩む。


「そういや、ラウルの坊主が、兄ちゃんに鍛えてもらってる俺らを羨ましがってやがったけどよ、どうやら無理そうだなあ」


 ガロンが苦笑いの中に僅かな優越感を滲ませる。仁は頬を掻きながら、ラウルがパワーレベリングを願い出ないことを祈った。仁としてはラウルの成長に手を貸すのは(やぶさ)かではないが、無駄に子供たちを傷つけるのは本意ではない。


「まあ、それはそれとして、確かエクレアのやつがギルドの用具一式を持ってきているはずだから、奴隷騎士隊の姉ちゃんたちにも冒険者登録してもらって、パーティを組めばいいんじゃないか? 短時間にあの数の魔物を倒すんだから、称号の効果は得られなくてもかなりの経験値が稼げると思うぜ?」


 仁は、その手があったかとハッと息を呑む。かつてのセシルのように戦乙女の翼(ヴァルキリーウイング)の一員として仮登録をしてもいいし、ギルド証にはパーティに入らなくても一時的にパーティメンバーと同様に経験値の分配を受けられるようにする機能がある。


 それを用いれば、最速のパワーレベリングとは行かずとも、一定以上の効率は出るはずだ。


「ガロンさん、ありがとうございます!」

「おう。だからよ、兄ちゃんも嬢ちゃんも、もしあいつらに称号の効果が出なくても、気にする必要はないぜ」


 ガロンが僅かに表情を歪めつつもニカッと笑い、仁は少しだけ気持ちが軽くなったように感じた。もちろん実際に称号の効果が出なければ申し訳なく思うだろうし、効果が出るに越したことはないが、仁はその時はその時でやれるだけのことをしようと前向きになれたのだった。


「そういえば、リリーがどこにいるかわかりますか?」


 仁は尋ねながら辺りを見回すが、この一帯にリリーの姿は見られなかった。


「リリーなら少し前までその辺で悪戦苦闘してたが、気分転換にお友達の皇女殿下のところに行くって言ってたぜ」

「そうですか。ありがとうございます」


 仁はガロンとノクタの体を労わってからその場を辞し、玲奈たちと連れ立って長老の館へ向かった。


 館に到着した仁は自室に戻る玲奈たちと別れ、一人でコーデリアの部屋を訪ねることにする。仁が報告に行くと告げると、責任を感じている風の玲奈は一緒に行くと主張したが、仁は「コーディーには皮肉の一つも言われるかもしれないけど、一応妥協できる解決策は見つかったし、怒られるわけじゃないから一人で大丈夫」と玲奈を諭した。


 仁はコーデリアと一緒にいるというリリーの練習の成果も聞くつもりだったが、それも仁だけで問題のない案件だった。リリーの魔法の修得が芳しくない場合は玲奈にも協力を仰ぐかもしれないが、今すぐというわけではない。


 玲奈が申し訳なさそうにしながらも仁の主張を受け入れて自室に入っていくのを見届けた後、仁は目と鼻の先のコーデリアの部屋の前に立った。仁がノックをして入室の許可が出るのを待っていると、すぐにドアが開き、中からファレスが顔を出した。


 セシルやカティアほどではないにしてもパワーレベリングで体に負担がかかっているだろうにもかかわらず、ファレスが休んでいないことに仁は驚くが、ファレスはファレスでコーデリアに先ほどの一件を報告に来ていたのだろうと一人で納得する。


 元気なままだった部下に報告を任せない辺り、ファレスのコーデリア好きは相変わらずだなどと思いながら、仁は自身の来訪を聞いたコーデリアの許可を待って入室する。


「ジンさんっ!」


 ガロンの話の通りコーデリアの部屋にいたリリーが、仁の姿を見て歓喜の声を上げる。テーブルを挟んで向かいに座るコーデリアは、笑みを湛えて仁を招き入れた。


「ジン。話は聞かせてもらったわ」


“にやり”という言葉が相応しいような、どこか含みのある笑みを浮かべるコーデリアに、仁は嫌な予感を覚えずにはいられなかった。


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