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奴隷勇者の異世界譚~勇者の奴隷は勇者で魔王~  作者: Takachiho
第十七章

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17-18.様子見

「ジンさん、酷いですっ!」


 翌朝、結局テントで一夜を過ごした仁が自室に戻ると、ベッドで上半身を起こしたリリーが非難めいた目を向けてきた。


「ジンさんがベッドに潜り込んでくるのを今か今かと待っていたのに、朝まで戻ってこないとか、ずばり、ジンさんは放置プレイが大好きな変態さんなんですねっ!?」


 リリーが仁にビシッと指を突き付ける。仁はこの世界にも放置プレイなんて言葉があるのかと驚くが、きっと他言語理解の技能が似たニュアンスの言葉に変換しているのだろうと深く考えないことにする。


「わたしですか? ジンさんの汗と匂いの染み付いた毛布に包まれながら、いつ抱きしめてくれるのかとドキドキしてましたけどっ!? 相性抜群ですね。結婚しましょう!」


 仁は「きっと幸せな家庭が築けるはずですっ」と力説しているリリーの勢いに呑まれ、本当に寝ていなかったのか確認することができずに頬を掻いた。


「とりあえず、体調に問題ないみたいでよかったよ」

「プロポーズをまさかのスルーですかっ!? ジンさんは鬼畜ですか?」


 真に迫ったプロポーズであれば話は別かもしれないが、今のリリーからはノリで言っている雰囲気がヒシヒシと伝わってきていた。幾分かは本気成分も入っているであろうことは仁にもわかるが、そもそも仁は自分が結婚するということを上手く想像できない。


 この世界はともかく、仁は元の世界では適齢期には程遠く、女性とお付き合いしたこともないのに結婚しようと言われてもピンとこないのだ。


 それだったら“付き合ってほしい”とか、それこそ昨晩のように“抱いてほしい”と言われた方が余程、心に響く。


 仁は床に畳んで置いてあるコートを拾い、リリーのネグリジェ姿を直視してしまわないように気を付けながら手渡す。リリーは未だぶつぶつと文句を言っていたが、仁は何とか(なだ)めて部屋から送り出した。


 リリーは出ていく直前に「またお願いしますっ!」と言っていたが、とりあえず今は考えないでおく。魔法の修得が上手くいかなければ検討はするが、魔力操作の訓練を何度か繰り返せば使えるというものではない。リリーの体のためにも、何度も行うよりは諦めてもらう方がいいと仁は思っているが、それも今後、話し合っていけばいいことだ。


 仁は何となく先ほどまでリリーが寝ていた自身のベッドを眺めていたが、昨晩のリリーのあられもない様子を思い出し、ぶんぶんと頭を左右に振る。脳裏に浮かんだリリーのネグリジェ姿を何とか追い払い、代わりに今日の予定を思い浮かべる。


 いろいろとやるべきことが立て込んでいるが、どれも疎かにはできないと仁は気合を入れ直し、身支度を整えて部屋を後にした。




 朝食後、仁は夜を徹して里の外で警戒に当たっていたオニキスを労ってから、玲奈、ガロン、ヴィクター、セシルを集めて軽く打ち合わせをした。


 その結果、今日のところはガロン、ノクタ、ヴィクターの3人が戦乙女の翼(ヴァルキリーウイング)と一緒にダンジョンに潜ることになった。あまり大人数だと経験値が分散してしまうため、とりあえず様子を見ることにしたのだ。


「セシル。ダンジョンに行く前に昨日の件をアシュレイに話しておくから、セシルはリリーの魔法の修得練習を手伝ってあげてほしい」

「わかりました。コーデリア様にはファレスが付いていますから、問題ありません」


 仁はセシルにリリーとの顛末を簡単に話し、魔法を使える者としてアドバイスをしてくれるよう頼むことにした。本当は自分でやるつもりだったが、仁の体は残念ながら一つしかない。


 ちなみに、コーデリアによる魔法陣の研究だが、そちらはもう少し落ち着いてから行うことにした。というのも、ガウェインや魔王妃がメルニールを狙った理由の一つに魔法陣の奪取があったのではないかと、昨夜、コーデリアに指摘されたのだ。


 元の世界への帰還を望んでいる仁と玲奈に対して、魔法陣は人質よりも行動を縛る鎖になり得る。そうでなくても一度、仁は外ならぬコーデリアの手で再召喚されて奴隷となっているのだ。それに、仁たちへの対抗手段として新たな異世界人の召喚を企むことも考えられる。


 魔法陣がメルニールの屋敷にないとなれば、仁が持っているのではないかと簡単に推測されるだろうが、仁がアイテムリングに入れて持ち歩いているのと、エルフの里に置いておくのとでは危険度が違う。


 エルヴィナの遠隔監視魔法対策としてオニキスらの力も借りて里の周りをかなり広範囲で見張っているが、それで絶対に防げる保証がない以上、帝国が里を攻めるに足る理由を増やすべきではないというのがコーデリアと話し合った上での仁たちの出した結論だった。


 湖畔の城への移転が実行に移されれば、監視の目の届きにくい地下などで研究を行えるため、仁は移転計画にも力になれることがあれば協力したいと考えている。


 仁は玲奈やガロンたちにダンジョンに潜る準備をしてもらうように告げてからアシュレイの元へ赴き、それから一旦、一人でダンジョンに入ってマスタールームへ転移した。残念ながら隠し部屋の罠は復活しておらず、仁は落胆しつつも、どの辺りでパワーレベリングをするか当たりを付けてダンジョンを出る。


「ジンお兄ちゃん。準備万端なの!」


 ダンジョンから出てきた仁を見つけ、ミルがイムを引き連れて駆け寄ってきた。ニコニコと仁を見上げるミルの頭を軽く撫でてから、仁は少し離れたところで待機している皆の元に向かう。


「みんな、お待たせ」

「おう。兄ちゃん、今日はよろしく頼むぜ」

「ジンさん。よろしくお願いします」

「ジンくん。よろしくお願いするよ」


 仁が声をかけると、ガロンは厳つい顔に気持ちの良い笑みを浮かべ、ノクタは緊張した様子で頭を下げ、ヴィクターは真摯に応じた。


「仁くん。準備オッケーだよ」

「自分も問題ありません」


 仁は自然体の玲奈と気合十分といった表情のロゼッタに頷き返す。


「ジンさ~ん! 皆さ~ん! いってらっしゃ~い」


 仁が遠く声のした方を向くと、リリーが手をぶんぶんと大きく振っていた。その横でセシルが会釈をする。仁は小さく手を振り返し、円形に集っている皆に向き直った。


「じゃあ、玲奈ちゃん。よろしく」

「うん」


 玲奈が皆を見回す。


「これから第一回、日帰り合同合宿を始めます。皆さん、頑張りましょう!」

「「「おー!」」」

「グルゥ!」


 ミルが元気に拳を突き上げ、ロゼッタも槍を掲げる。仁も少しだけ恥ずかしく思いながらも二人に続き、イムが中空で一回転した。


 一拍遅れてガロン、ノクタ、ヴィクターも戦乙女の翼(ヴァルキリーウイング)の面々に倣い、7人と1匹はダンジョンへ向かって歩き始めた。


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