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1-3.勇者認定

 それまで物音ひとつ立てずに仁と玲奈を警戒の眼差しで見ていただけの騎士たちがざわつき、何やら小声で話し始めた。


「失敗か?」

「失敗……」

「やはりダメだったか……」


 理由はわからないが、落胆の感情が広がっているように感じた。


(失敗とはどういうことだ……? 召喚と別に、何か思惑が……?)


「静まりなさい!」


 ルーナリアの一喝で、騎士たちが再び彫像のように固まった。


「ジン様、確認のためにも鑑定石に触れていただけませんか?」


 仁は一瞬躊躇するも、ここで下手に渋ってはいけないと思い直す。奴隷は使役者の所有物扱いとなり、鑑定石を使っても名前や種族、使役者が誰か表示されるだけだったはずだ。召喚された直後とは思えないであろう本来のステータスを晒して余計な警戒心を持たれるより、よほど歓迎される事態だと思えた。


「は、はい。お願いします」


 奴隷という状況に戸惑っていると思われるように少し演技を加えて鑑定石に触れる。


「自分でステータスを確認した際と同じように、鑑定石に向かって念じてみてください。それで魔力が通るはずです」


 言われたとおりに実行する。少し不安げな演出も続けた。




名前:ジン・ハヅキ

種族:人族

年齢:18歳

職業:奴隷

隷属:レナ・サヤマ




「おっしゃる通り、ジン様はレナ様の奴隷になられているようですね……」

「そのようですね」


 周囲の騎士たちのため息が広がる。ルーナリアの顔に浮かぶ憐憫と落胆の中に、わずかに喜びの感情が混ざっているように感じられ、仁は警戒心を強めた。玲奈が何とも言えない表情を浮かべていた。


「続いて、レナ様もお願いします」

「はい」


 先ほどのやり取りを見ていた玲奈は、問題なく鑑定石の起動に成功した。




名前:レナ・サヤマ

種族:人族

年齢:17歳

職業:女子高生声優アーティスト

LV:1

HP:140/140

MP:150/150

力 :125

耐久:110

魔力:120

敏捷:160

技能:剣術(1)・弓術(1)・体術(1)・光魔法(1)・氷魔法(1)

使役:ジン・ハヅキ




「あれ? 自分で見たのと少し違うような……?」


 目の前に浮かぶ光の文字を見ていた玲奈が小首を傾げた。


「レナ様はおそらく特殊技能か称号をお持ちなのでしょう。鑑定石の性能によって表示できる項目に限界があるのです。称号まで表示させるにはアーティファクト級のものを用いなければならないでしょうね」

「そういうものなんですね」

「はい。それから、大体のニュアンスで理解されているとは思いますが、簡単に解説しますね。レベルというのはどの程度経験を積んでいるのか示す指標です。HPは俗に生命力とも言われ、傷を負ったりすると減少し、HPが0になると瀕死の状態だと思ってください。早急に手を打たないと命を落としてしまいます。また、首を切り落とされたり、心臓を潰されたりするなど、急所に大ダメージを負うと、HPとは別に即死しますのでご注意ください」


 突然の物騒な情報に、玲奈がビクッと体を震わせる。ゲームの世界のようにも感じてしまうこの世界が、現実に存在する世界だと認識したのかもしれない。それも、現代日本に比べて人の死というものが近くにある世界だということを。


「MPはその人の体内に内包する魔素量を示し、主に魔法的な行動を取ることで減少します。魔素というのは体を構成する重要な要素なので、MPの残りが極端に少なくなると衰弱状態になってしまいます。MPが0になっても死に直結するわけではありませんが、意識を失ってしまうので、こちらも十分注意してくださいね。力、耐久、魔力、敏捷についてはそのまま自身の能力を表しています」


 ルーナリアは一旦話を止めて、仁と玲奈の様子を窺い、話に付いてこられていることを確認してから続けた。


「技能は適正のあるものが表示されます。生まれつき持っていたり、訓練等で身に付けたりすると技能を修得します。例えば剣術を例に挙げると、技能を持っていなくても剣は扱えますが、技能があれば意識せずに効率的に剣を振るうことができます。剣の扱いが上達すれば剣術の技能レベルが上がり、技能レベルが上がれば剣をより上手く扱えるという、相互関係があります。魔法適正に関しては、技能がないと魔素をその属性の現象に変換するのに膨大な魔力を必要とし、現実的ではありません。逆に言えば、技能さえあればその属性に関しては効率よく魔法を行使できるということですね」


 ルーナリアの説明を、玲奈が真剣な表情で聴いている。ゲームと似たものであるので、理解するのは難しくはないように思う。うんうんと頷く玲奈の姿を、ルーナリアは満足げに眺めている。


「さて、一番大事なことですが、レナ様のステータスを確認したことで、レナ様が勇者であると断定できました」

「どういうことですか? 特にその、勇者、の要素はないように思うのですが」


 不思議そうに玲奈が首を捻る。


「レベルが1としてはかなり高い能力値と優秀な技能。そして、決定的なのが職業欄です。レナ様の職業は過去の勇者と同じく、わたくしたちには読めない幾何学模様が表示されているのです。これが、レナ様が勇者である証拠です」


 確かに仁がかつて召喚された際の中学生という職業も、こちらの世界の人には読めなかった。ルーナリアの言う過去の勇者というのが仁自身のことなのか、確認することはできない。ラインヴェルト王国やクリスがどうなったのか問い詰めたい気持ちも湧き上がってくるが、まだその時ではないと自分に言い聞かせる。玲奈の安全がある程度確保できるまでは不用意な行動は許されない。


「ルーナリア皇女殿下」


 それまで直立不動で油断なくこちらを窺っていた赤い甲冑の壮年騎士がルーナリアに近づいた。


「レナ殿が勇者であると無事認定されましたし、一旦この辺りで終えて、続きは明日にされてはいかがですか。そちらの奴隷は立っているのも辛そうですし」

「そうですね。ですが、こちらが勝手に召喚した上に、不手際で奴隷となってしまったジン様を、通常の奴隷と同じ扱いをするのは許しません。レナ様同様、わたくしの客人として接しなさい。他の者もいいですね」


 ルーナリアの視線を受け、騎士たちが敬礼を返す。


「これは申し訳ありませんでした。ジン殿、許されよ」

「いえ、気にしていません」


 ルーナリアの毅然な態度に好感を覚えつつ、奴隷扱いされないで済むかもしれないことに安堵していた。


 この世界の奴隷は地域によって扱いに差はあるものの、とりわけ当時のグレンシール王国での奴隷の扱いはひどかった記憶がある。使役者の所有物であるため、他の干渉で理不尽に命を奪われる危険性は少なかったが、人ではなく物扱いのため、人権なんてものは存在していなかった。良くも悪くも、使役者次第といったところか。そしてグレンシール王国では奴隷にとって良くないタイプの使役者が一般的だった。仁はグレンシール帝国の誰かではなく玲奈の奴隷だったことを幸運に思った。


「ジン様、不愉快な思いをさせてしまい。申し訳ありませんでした」

「頭を上げてください。私は気にしていませんし、ルーナリア様のお気持ちを嬉しく思います」

「ありがとうございます。それではお部屋へ案内させますね」


 ルーナリアは顔を上げるとずっと恐縮したように佇んでいた、皮の首輪をした小さな女の子を呼んだ。


「シルフィ、お二方を客室へ案内なさい。くれぐれも失礼のないように」

「かしこまりました」

「それではジン様、レナ様。後ほど食事の用意をさせますので、それまでおくつろぎ下さい」

「ジン様、レナ様、こちらへ」


 ルーナリアに会釈をし、玲奈と共にシルフィの後に続いた。赤い騎士の隣を通り抜けるとき、赤い騎士の鋭い目が自分に向けられているのを感じた。


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