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奴隷勇者の異世界譚~勇者の奴隷は勇者で魔王~  作者: Takachiho
第十七章

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17-2.計画

 翌朝、仁は里の滞在中に借りているエルフィーナの館の客間で簡単に身支度を整えると、玲奈やミル、ロゼッタ、イムと一緒に里の端の一角に向かった。


 そこにはテントがいくつも張られ、メルニールからやってきた皆が共同生活を送っている。初めは仁も一緒に暮らすつもりだったが、里への滞在が許されたばかりの者と、既にエルフの里のために働いて確固たる地位を確立している仁たちとでは立場が違うとリリーやエクレア、ヴィクターらに諭され、仁たちは今まで通り長老の館の客間を借りることになった。


 ちなみに、コーデリアとセシルは仁たち同様、館で暮らしているが、ファレス以下、奴隷騎士隊はメルニール組とは別の一角でテントを借りて共同で生活している。メルニール組と違ってそちらは監視付きとなっているが、奴隷騎士たちからは特に不満の声は上がっていないようだ。


 仁としてはエルフィーナやアシュレイと血の繋がりのあるシルフィはテント暮らしをする必要はないのではないかと思っていたが、シルフィはココと一緒にメルニール組の手伝いをすると言って聞かなかった。


 今のシルフィはメルニールを発つ前にルーナリアが奴隷契約を解除したために奴隷ではないものの、ルーナリアを主と仰ぐ意思に変わりはなく、特別扱いを受けるつもりはないとのことだった。


 そのことをエルフィーナに告げると非常に残念がっていたが、シルフィの好きにさせようとアシュレイに説得されていた。


「ジンさん、皆さん。おはようございますっ」


 いち早くリリーが仁たちに気付く。リリーはシルフィと共に女性陣をリードして朝食の準備をしていたが、一言断りを入れてから仁の元に駆け寄ってきた。仁たちが挨拶を返すと、里から借りた簡素な木製のテーブルに案内された。


「すぐ持ってきますねっ」


 そう元気に告げて離れるリリーと入れ替わるように、戦斧(バトルアックス)の面々がやってくる。


「ガロンさん。ダンジョンはどうでしたか?」


 ひとしきり挨拶をし合った後、仁が対面に座ったガロンに声をかける。ガロンたちは昨日の昼過ぎから夜半まで、再確認の意味も込めてダンジョンに潜っていた。その結果、2階層より下の階も、特に問題はなかったようだ。


 もっとも半日で行ける階層には限度があり、更にその下までどうなっているか確かめられたわけではないが、仁たちはおそらくメルニールと同じだろうという結論に至った。


 そもそも仁がこの地にダンジョンを設置するにあたり、ダンジョン核の中に記録されていたメルニールのダンジョンのデータをそのまま使ったため、普通に考えれば違いがあるはずがないのだ。ガロンに頼んだのは、念には念を入れただけのこと。


 完全に同じだと思い込んで万が一違いがあったときに戸惑わないよう、仁は今後ダンジョンに出入りすることになる子供たちに言い聞かせることにして、この件は終わりにすることにした。


 その後、仁はガロンたちの採ってきた魔物の肉を使った料理に舌鼓を打った。ルーナリアのメイドとしてサラと共に料理も担当してきたシルフィもだが、リリーも時々鳳雛亭の女将のフェリシアから料理を教わっていたようで、簡素な料理ながら馴染みのある味のように感じられた。


 ちなみに、肉を焼くときに使った香草など魔物肉以外の食材は、ガロンたちの持ち帰った魔物の素材を里の住人に交換してもらったそうだ。


 食卓に並んだ料理は男女問わず子供たちにも大人気で、この後ダンジョンに潜るヴィクターとサポーターの女の子たちに期待が集まっていた。ラウルを筆頭に冒険者を志す子供たちはガロンたちからある程度指導を受けてからダンジョンに挑戦することになっている。子供たちの用いる武具に関しては、仁が奴隷騎士隊に渡したのと同様に過去の遺産の一部を提供した。


 それほど質の良いものばかりではないが、初心者も初心者な子供たちには十分な代物だった。




 朝食を終えた仁たち戦乙女の翼(ヴァルキリーウイング)の面々はエルフィーナの館に戻ると、板張りの大広間に向かった。広間には招集をかけたアシュレイの他に、既にコーデリアとセシル、ファレスの主従が集まっていた。


「今朝、調査に出ていた者が帰ってきた」


 仁たちが円形に座するのを待って、アシュレイが口を開いた。仁がゴクリと喉を鳴らす。


「報告によると、コーデリア殿からの情報通り、ラインヴェルト城は放棄されたままだった」


 重々しくも静かに告げられたアシュレイの言葉に、仁は息を呑んだ。


 ラインヴェルト城。それは亡国ラインヴェルト王国の王城だ。ラインヴェルト湖の(ほとり)に築かれた白亜の城で、仁がかつて召喚され、そして送還された地でもある。


「私は姫がグレンシール王国の王都、今の帝都に移送された後、一度、里の者に頼んでラインヴェルト城とその城下町の様子を探ってもらったことがある。確かに王都ラインヴェルトは今の帝国の支配下に入っていたはずだ。しかし――」


 アシュレイの後をコーデリアが受け継ぐ。


「私がルーナリア姉様から引き継いだ資料の中に、かつての戦争とその後に関する資料があったわ」


 コーデリアはエルフの里に辿り着いてからエルフィーナやアシュレイに、そして数日前に合流した仁にもした話を再び繰り返す。


 コーデリアによると、一度は占拠された王都ラインヴェルトだったが、しばらくして湖の(ぬし)とその(しもべ)が暴れ出し、被害を受けた帝国軍は城と街の放棄を決めたそうだ。


 その際、王都の民の大半は最後まで魔女と魔王に組した罪人として奴隷に落とされ、戦争奴隷となった王都以外の王国民同様に帝国各地に連れられて、残りは奴隷商人に売られたようだ。そして、奴隷としての価値のない老人たちは王都から放逐されたとのことだった。


 仁は俯いて目を閉じ、改めて守れなかった者たちの末路に心を痛める。仁の瞼の裏に、自身を慕ってくれた人々の様々な表情が浮かんでいた。仁が元の世界に帰還してからのことは想像でしかないが、それ以前の彼らは苦難に満ちた表情の中にも信念を乗せ、仁に笑顔を見せていた。


「仁くん……」


 強く握りしめた仁の拳を、隣に座る玲奈の柔らかな手が包み込んだ。


「玲奈ちゃん、ありがとう。大丈夫」


 仁は手から力を抜き、横を向いて玲奈に笑みを見せた。強がりだということはきっと玲奈には伝わってしまうだろうが、それでも仁は最後まで笑顔を絶やさなかったかつての仲間たちのように、心を強く持ちたかった。


 仁は真摯な表情でアシュレイに向き直る。


「それで、街と城の状態は?」

「一部崩壊している箇所もあるが、まったく住めない状態ではないようだ」


 長期に渡って人の手が入っていないため、いろいろと手直しは必要だろうが、廃墟化してしまっているわけではないとアシュレイは報告を受けた通りに答えた。


「我々の時代には存在が語り継がれるだけであった湖の(ぬし)が実在し、帝国の者どもの手に負えないほど暴れたというのが気がかりだが、それも含めてこのまま調査を進めたいと思っている」


 仁の目を見て告げるアシュレイに、仁は大きく頷いて返す。


 この時より、亡国ラインヴェルト王国の王都跡への移住計画が、本格的に動き始めた。


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