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奴隷勇者の異世界譚~勇者の奴隷は勇者で魔王~  作者: Takachiho
第十六章

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16-22.合流

 その後、仁たちは休憩と仮眠を挟んで魔の森を進み続けた。途中、ロゼッタと双角馬(バイコーン)が玲奈に召喚されていったが、双角馬(バイコーン)からおおよその位置を聞いていたオニキスが案内を引き継いだ。


 道中、オニキスを恐れてか野良の魔物はほとんど姿を見せず、たまに遭遇した魔物はオニキスが察知して即座に排除していったため、仁たちは休憩以外で足を止めることなく順調に進んでいった。


 魔王妃の眷属の能力を鑑みると油断はできないが、何事もないことが子供たちに良い影響を与え、休息を経たこともあって子供たちの足取りも出発時点よりも軽くなっているように仁は感じていた。


(あるじ)。そろそろ合流できそうです』


 一団の先頭を元気に歩くオニキスが首を回して念話を飛ばした。その念話は仁に向けられたものだが、普通の声と同じように周囲の者たちにも届き、子供たちがホッとしたような雰囲気を醸し出す。


 メルニールの孤児たちは当然玲奈を勇者、所謂強者と認識しているため、当然の反応と言えた。悪評が流布されてはいたものの、サポーターとして冒険者の情報に敏感な彼らが、一度目の帝国との戦争や殺人蟻(キラーアント)の氾濫時の戦乙女の翼(ヴァルキリーウイング)の活躍を知らないわけがない。


 仁はメルニールに流れていた玲奈に対する悪意に満ちた噂を思い出して(はらわた)を煮えくり返すが、この期に及んで悪評を鵜呑みにするような者はいないだろうと怒りを鎮める。仮に心の中で思っていたとしても、この状況で表に出すような真似をするはずがない。


 ただし、仁は孤児たちの生活と自立に責任を負うつもりだが、もし玲奈や仲間たちを悲しませるようなことがあればその限りではないと密かに考える。仁はそんな考えが杞憂に終わるよう願いつつ、大好きな仲間たちとの再会に向けて足を軽やかに動かした。




(あるじ)。着きました!』


 仁たち一行が避難所を出発した翌々日の昼過ぎ、まだ合流できないようならそろそろどこかで昼食を取ろうかと考えていた仁の視線の先に、大きなテントが見えてきた。その見覚えのあるテントに、仁はホッと安堵の息を吐く。


「みんな。あそこで昼食にしよう」


 仁が告げると、子供たちから小さな歓声が上がった。


 一行が近付くと、テントの周囲の警戒に当たっていたロゼッタと双角馬(バイコーン)が真っ先に気付き、ロゼッタが近くのカティアに一声かけてからテントの中へ消えて行く。


 慌ただしい気配が広がり、すぐにテントから何人か飛び出してきた。足を止めたオニキスの横に、仁が並ぶ。


「仁くん!」

「ジンお兄ちゃん!」


 タタタと小気味好(こぎみよ)い足音を響かせ、黒髪の少女と獣人の女の子が仁たちに向けて駆けてきた。二人から僅かに遅れて、赤いドラゴンが飛んでいる。


「仁くん、おかえり!」

「ジンお兄ちゃん、おかえりなさい!」


 玲奈が仁の目の前で足を止め、ミルはそのままの勢いで仁の腰に抱き着いた。


「玲奈ちゃん、ミル。ただいま……でいいのかな?」


 仁が僅かに首を傾げて笑顔で応じる。仁は自身に向けられる真っすぐな笑みと見上げる笑みに心を癒されながら、足に全身を密着させているミルの小麦色の頭を撫でる。懐かしい手の感触が、温かな熱となって仁の心に染み渡っていく。仁は気持ちよさそうに目を細めるミルを眺めながら、エイミーに言われた言葉を思い出した。


「グルッ」


 両方の口角を穏やかに吊り上げていた仁の頭の上に、赤いドラゴンが着地する。爪は立てられていなかったが、(おの)が存在を主張するかのような、確かな重みを仁は感じた。


「イムもただいま。ちょっと重くなった?」

「グルゥッ!」


 仁が目だけで頭上の様子を窺うと、仁の視界の外でイムの片脚が一瞬だけ仁の頭を離れ、即座に踏み下ろされた。仁の頭を衝撃が襲い、仁が肩を(すく)める。


「仁くん。女の子にそんなこと言っちゃダメだよ」

「ダメなの」


 玲奈の叱るような視線とミルの困り顔を受け、仁は「ごめんごめん」とイムの体を横からポンポンと叩いた。イムは仁のその行動を受け入れた後、仕方がないから許してやるとでも言いたげに一鳴きしてから飛び立った。ミルが仁から離れてイムに両手を広げると、小さなドラゴンはミルの腕の中に収まる。


 仁はミルに抱かれたイムを見下ろし、少し大きくなったように感じたがミルに重くないか尋ねることはしなかった。


「あ、子供たちを休ませてあげないとね」


 玲奈が仁の後ろで3人と1体のやり取りを見守っている子供たちに目を向け、パンッと手を合わせた。




 それから仁はメルニールから来た孤児たちとエルフの里出身のエルフ族の子供たちを引き合わせた。様々な種族の集うメルニールでもエルフ族は珍しく、また、生まれて初めて里から離れたエルフの子供たちにとっても仁たち以外の別種族と接する機会はほとんどなかったため、テントの外で相対し、お互いに探るような視線を向け合っていた。


 仁がどうしたものかと頭を悩ませていると、間にミルが入り込み、両者の仲を取り持ち始める。元気なミルに引っ張られるようにエイミーとラウルが率先して自己紹介を始め、エルフの子供たちも続いた。双方の子供たちの顔から緊張や困惑が抜けていく様を、仁や玲奈は温かな眼差(まなざ)しで見守る。


「大丈夫そうだね」

「うん」


 仁が安堵の息と共に言葉を吐き出すと、玲奈がニコニコ顔で頷いた。


「それで、仁くん」


 しばらく子供たちを眺めていた玲奈が体ごと仁に向き直り、表情を引き締める。


「ロゼに少し聞いたけど……」

「うん。ちゃんと話すよ」


 仁は周囲の警戒をオニキスと双角馬(バイコーン)一角馬(ユニコーン)に任せ、ヴィクターとロゼッタ、カティア、エルフ族の世話役の女性を呼び集めて、仁が玲奈たちと別れてからこれまでに起きた出来事と判明した事実などを、推測を交えて説明した。ヴィクターも仁がメルニールに着く前のことなどをいくつか補足する。


「リリーたちも無事だといいんだけど」


 一通り説明を終えた仁が遠くに目を遣ると、皆の視線も追従した。こうなるとやはりリリーたち一行が玲奈たちと遭遇できなかったことが悔やまれるが、こればっかりは誰が悪いという問題ではない。


「オニキスに少し休んでもらってから探してもらおう」


 話し合いの結果、仁たちはリリーたちを探しながらエルフの里を目指すということを今後の方針に定めた。玲奈の力があればメルニールに残った刈り取り蜥蜴(リープリザード)を倒すことは可能かもしれないが、雷蜥蜴(サンダーリザード)の存在と帝国軍本隊の不在が仁たちをメルニールの奪還の道から遠ざけていた。


 ヴィクターも、バランが撤退を選び、メルニールの戦力である冒険者や探索者たちが散り散りになっている今、すぐに動くべきではないと主張した。子供たちを送り届けて一旦腰を落ち着けた後、バランらと協力して機を窺うべきだとするヴィクターに、仁や玲奈たちは反対する意見を持ってはいなかった。


「ジン。ご主人様や隊長たちを助けてくれて感謝する」


 それまで口を出さずに聞き役に徹していたカティアが仁の前に歩み出て、頭を下げた。


「いや、俺の方こそコーディーに助けられたよ」


 コーデリアがメルニールの危機を言い当てていなければ、仁のメルニール到着が遅れ、守れた命も守れなくなっていた可能性があるのだ。仁はコーデリアと彼女に従う奴隷騎士たちを思い出し、無事にエルフの里に到着して受け入れられていることを祈った。


「カティアもいろいろ大変だっただろうけど、里に戻ればコーディーやセシルたちに会えるね」


 仁は願いを込めてそう告げる。


 相変わらずほとんど無表情のカティアだったが、仁の目には(ほの)かに微笑んだように映ったのだった。


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