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奴隷勇者の異世界譚~勇者の奴隷は勇者で魔王~  作者: Takachiho
第十五章

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15-29.お喋り

 時を少しさかのぼる。仁たちがまだ八脚軍馬スレイプニルと出会う前、リリーはメルニールの仁たちの屋敷の一室で、ココと過ごしていた。


 この世界では仁たちの元の世界と異なり、娯楽は大して発展していない。そのため、リリーとココはおしゃべりに興じることが多い。その日も、もう何度目かになる、お互いが仁に助けられたときの話などを、飽きもせず繰り返していた。


 リリーが今は離れ離れになってしまっている想い人が如何にかっこいいのか得意げに語り、ココが100%同意する。その次は話し手と聞き手を交代し、ココが、リリーが当事者ではない仁のエピソードを嬉しそうに語るのだった。


 その中にはリリーの知らない仁の屋敷での一幕も含まれていて、リリーは羨ましく思ったりもするが、まだまだ子供のココが恋愛的な意味で仁を好いているわけではないとわかっているため、変に嫉妬したりはしない。もっとも、後数年もしたらどうかわからないと密かに警戒することは忘れていない。


 そういう意味ではミルも油断できないが、なんとなく、何年経とうが、仁がミルを恋愛的な目で見ることはないように思っていた。


「やっぱり最大のライバルは玲奈さん。他にはコーディー様くらいかなぁ……。ルーナ様はちょっと違う気がするし、ロゼさんやアシュレイさんは大丈夫だと思う。セシルさんはちょっと怪しいけど……。むむむ」


 改めて考えてみると、皆がライバルになり得る存在かどうかはさて置き、仁の周りには見目麗しい女性たちが数多い。今挙げた他にも、仁を憎からず思っている女性が多くいることを、リリーは知っていた。


 その反面、仁と親しい男性はヴィクターとガロン、ノクタ、クランフスくらいのものだ。仁が玲奈に男を近付かせないようにしている節があるため当然ではあるのだが、リリーとしては、仁を敵に回すことになってしまう玲奈は無理だとしても他の女性陣を恋愛的な意味で狙う男性がいてもいいのにと思っている。もし上手く結ばれてくれれば、潜在的なライバルを減らすことにも繋がるのだ。


 リリーは今頭に浮かんだ男性陣をそれぞれ思い起こし、即座に「あ、無理だ」と諦める。ヴィクターは言わずもがなだし、ガロンはエルフの女性に気持ち悪いくらい憧れている上に、幼馴染のエクレアがいる。ノクタは如何にも人畜無害そうで毒にも薬にもなりそうにないし、クランフスに関してはココの叔母が気にしている風だったが、当のクランフスは武芸にしか興味を持っていなそうだった。


「リリーお姉ちゃん。どうかしたの?」

「あ、ううん。ごめんね。何でもないよっ」

「そう?」


 ココは僅かに首を傾けていたが、特に気にした風でもなく話を再開した。リリーもココがせっかく話してくれているのだから、ちゃんと聞こうと反省し、耳を傾ける。


「それでね、ミルちゃんと一緒にお兄ちゃんのベッドに潜り込んだときのことだけど――」

「むむ?」


 リリーが「それは聞き捨てならん! 羨ましすぎる!」などと思った瞬間、ココの部屋のドアがコン、コンと4回ほど控えめな音を立てた。


 顔を見合わせたリリーとココがドアの方を向いて一緒に返事をすると、遠慮がちに開いたドアの隙間から、シルフィが顔を覗かせた。


 リリーは一瞬、気を利かせたルーナリアかサラがシルフィを送り込んできたのかと思ったが、シルフィは仕事モードのままのように見えた。


「ココ様、リリー様。ご歓談中、申し訳ありません。ご主人様がリリー様に応接間までお越し願いたいとのことですが、お願いできますでしょうか」

「わたしっ?」


 まさかの指名に驚いたリリーが自分を指さす。当然冗談でもなんでもなく、シルフィは真面目な顔で頷いた。


「うん、わかった。ココちゃん、ごめんね。ちょっと行ってくるよっ」


 リリーがココに振り向いて手を合わせると、ココは快く応じた。


 リリーがシルフィに連れられて行った後、ココは再びメイドの仕事に戻ろうと腰を上げかけたが、リリーがすぐ戻ってくるかもしれないと思い止まり、しばらく部屋で待つことにした。




 あまり使われることのない仁たちの屋敷の応接間。三人掛けのソファーが重厚感を感じさせる木製の机を挟んで向かい合ったその部屋に、リリーは初めて足を踏み入れた。


「リリーさん。お呼び立てしてしまい、ごめんなさいね」

「いえ。それでその……」


 リリーはルーナリアの正面のソファーに座っている、ターバンのようなものを耳ごと頭に巻いた男性にチラリと目を向けた。


 てっきり来客は帰ったものだと思っていたリリーだったが、どうやら思い違いのようだった。ますます自分が呼ばれた理由がわからなくなり、リリーは困惑の表情を浮かべた。


 リリーはルーナリアに促され、着席する。リリーとしては男性側に座るつもりだったのだが、ルーナリアは自身の横に座るように告げ、リリーはちょこんと腰を下ろした。


 仁に屋敷を任されているルーナリアはともかく、リリーは客である自分がこちら側に座るのは場違いな気がして恐縮していたが、ルーナリアは気にした素振そぶりを見せず、ターバンの男性にリリーの紹介を始める。


 リリーが会釈をすると、男性は「あなたが……」と呟き、ターバンに手をかけた。


「あっ!」


 思わず驚きの声を上げてしまったリリーは、パッと手で口を塞ぎ、申し訳なさそうな顔で頭を下げた。


「リリー様、顔をお上げください。あなたが我々を差別するような人ではないのは、ジン殿やアシュレイ様より聞き及んでおります」


 リリーは勢いよく顔を上げると、身を乗り出した。


「やっぱり、アシュレイさんの里の人なんですか!?」

「ええ。申し遅れました。私は魔の森のエルフの里より参りました、イラックと申します」


 そう言ってほほ笑んだ男性の耳は細長く、先が尖っていた。リリーはエルフの男性を目にするのは初めてだったが、どこかアシュレイに似た、整った顔立ちをしていて、エルフ族は皆、美形だという説は本当なのではないかと思ったのだった。


「リリーさん。実は、イラックさんはジンからの手紙を持ってこられたのです」

「手紙ですか?」


 ついつい美形に見とれてしまいそうになったリリーは心の中で「ジンさんだって負けてないんだから」と謎の対抗心を発揮していたが、ルーナリアに話を振られ、気を引き締める。わざわざ自分が呼ばれたからには、何か理由があるはずなのだ。


「ルーナリア様。我らが英雄と親しくされておられるリリー様にお会いできたのは嬉しく思いますが、私はすぐにでも里に戻らねば……」


 イラックが整った顔に焦りの色を浮かべ、リリーは困惑の顔ににじませる。仁や玲奈たちの身に何か悪いことが起こったのではないかと、リリーの胸中に不安が満ちていく。


「あの、ジンさんに何か――」


 ルーナリアとイラックの双方に向けられたリリーの言葉が、ルーナリアの真摯な眼差しによって遮られた。


「リリーさん。イラックさん。あなた方にお願いがあるのです」


 リリーもイラックも、吸い込まれるような澄んだ碧眼から目が離せなくなっていた。


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