3-3.魔力操作
仁は玲奈の思いに応えるべく、フェリシアの許可を得て、宿屋の庭の一角で玲奈の土魔法修得のための訓練を開始した。仁は玲奈に初めて氷魔法を使った時のこと思い出してもらって、同じように土の壁ができるイメージを高めてもらった。イメージを補強するために土を間近に感じられる屋外で行ったが、日が沈む頃になっても、玲奈が土魔法を発動することはなかった。
夕食後、仁は鑑定の魔眼を発動させて、部屋で瞑想を続ける玲奈の姿を視界に収めた。もちろん技能の欄に土魔法はない。仁が呼びかけると、玲奈が瞼を開けた。
「玲奈ちゃん。ちょっとやり方を変えてみようか。土魔法を直接発動させるんじゃなくて、先に魔力操作を修得しよう」
「魔力操作っていうのは?」
「体内の魔力の流れを把握して、それを制御する技能だよ。試しに氷球を使ってみて」
仁に言われるまま、玲奈が魔法名を呟き、すぐさま左の手のひらに氷球を出現させた。
「今、玲奈ちゃんはイメージすることで氷球を出したけど、体内を魔力が巡って、収束して氷球という現象を引き起こす過程を感じることはできていないよね」
玲奈が神妙に頷く。
「今は氷魔法の技能がその過程を無意識的に行わせている状態なんだよ。それを自覚して、意識的に行うことが魔力操作。それができれば、もっと効率よく魔法を発動できるようになるし、技能がない属性の魔法も使いやすくなる。もちろん自力で土魔法を発動できれば、土魔法の技能を修得できる可能性も高くなるよ」
真剣な眼差しで話を聞いている玲奈を見ていると、仁は中学生の妹に勉強を教えていたときのことを思い出し、微笑ましい気持ちになった。自然と頬が緩むのを感じた。
今回の召喚がかつての召喚と同じという保証はないが、元の世界に帰ることができれば、玲奈と握手をしているあの瞬間に戻り、何事もなかったように日常が続いて行くのだと思っているため、家族や友人たちの心配はしていなかった。
「じゃあ、その保持している氷球を消してみて」
「え。消す?」
「うん。召喚された日、ルーナが水球を消したのを覚えているかな」
魔法を初めて目にした時のことは強く印象に残っているのだろう。玲奈が思い出すそぶりを見せることなく頷いた。
「魔法を保持している状態では、まだ使用者の体内の魔力と繋がっているんだ。だから、その氷球を形どっている玲奈ちゃん自身の魔力を体内に還元することができれば、魔法は消えるんだよ。氷球が体内に吸収されていくようなイメージを思い浮かべながら、やってみて」
玲奈は目を閉じて小さく唸りながら試みるが、手のひらの氷に変化はなかった。仁は普段のように容器に氷を入れるように促した。
「すぐには難しいと思うけど、これから魔法を使うときは体内の魔力の動きに注目してみて。訓練するときは、そうして出した魔法を消せるように頑張ってみてね」
「うん。わかった。私、頑張るから、もう少しだけ待っててね!」
仁は再び真剣な表情で氷球を使う玲奈に、気遣わしげな視線を送った。責任感の強い玲奈が自分を追い込んでしまわないか、少しだけ心配だった。
それから3日間、午前中はダンジョンの1階層で魔物退治を、午後からは宿屋の庭で魔力操作の訓練をする日々が続いた。玲奈のレベルは少しだけ上がったが、訓練の成果は表れていなかった。
「レナさん、大丈夫かな……」
鳳雛亭に手伝いに来ていたリリーが休憩時間に庭に顔を出していた。玲奈の足元には氷の球が乱雑に積まれていた。リリーの視線の先で、また一つ氷の球が放られた。
「ジンさん。何とかしてあげられないんですか?」
リリーが縋るように仁を見た。
「試してみたいことがないわけじゃないけど……」
日に日に焦っていく必死な玲奈の姿は痛々しかった。きっとまた自分が迷惑をかけていると思い込んでいるであろう玲奈の背中には、悲壮感が漂っていた。仁は玲奈の笑顔が好きだった。いつも笑っていてほしいと思った。
仁は決断を下した。
「仁くん。いつでもいいよ」
鳳雛亭の自室のベッドの上で、玲奈が瞼を閉じて仰向けになっていた。両足を肩幅に開き、両腕を体の側部から拳1個分だけ離していた。ピンクのチュニックが捲り上げられ、縦長の小さな臍が覗いていた。黒のショートパンツが腰から臀部の半ばまでずり下ろされ、白い肌の面積を増やしていた。シミひとつない綺麗な下腹部を目の当たりにし、仁が生唾を飲んだ。ミュージックビデオやライブなどで臍を出している衣装の玲奈を見たことはあるが、それより際どく、何より目の前に存在するという事実が、仁の脳を揺らした。
「それじゃあ始めるよ」
仁は努めて平静を装ったが、仁の言葉に玲奈は全身を硬直させた。
「玲奈ちゃん。力を抜いてリラックスして」
玲奈はきつく閉じられた瞼を少しだけ緩め、全身を弛緩させようと試みるが、上手く行かないようだった。仁は仕方がないことだと諦め、下腹部に手を伸ばした。
「触るよ」
仁が玲奈の臍から5cm下の辺りに左の手のひらを乗せた。適度に張りのあるすべすべした玲奈の下腹部から、心地よい反発を感じた。玲奈の体がビクッと震えた。
「今から俺の魔力を玲奈ちゃんの体に送り込んで、玲奈ちゃんの魔力を強制的に動かすから、自分の体内の魔力の動きを感じてね」
「う、うん。お願い……」
「じゃあ行くよ」
仁は頭にチラつくやましい思いを追い出し、目を閉じて左手から感じる玲奈の体温に集中する。仁は自身の手と玲奈の肌が溶け合って一体となる様をイメージしながら、ゆっくりと魔力を玲奈の体内へと注ぎ込む。玲奈が小さく唸った。玲奈の体内で仁の魔力が玲奈の魔力に絡みつき、混じり合って玲奈の全身へと巡っていく。
「はぁはぁ……んっ」
玲奈が息を荒げ、白い肌に赤みが差した。玲奈の全身から汗が溢れだし、肌をしっとりと湿らせた。強制的に魔力を注がれ、無理やり動かされた玲奈の体内の魔力が出口を探して暴れ始める。その魔力がどちらのものなのか、もう誰にもわからなかった。段々と玲奈の息が荒くなっていく。
「はぁ……んっうんっ……あっ……はぁはぁ……んんっ……はぁっ、あぁっ!」
玲奈の足の指と手の指がベッドのシーツを掴み、全身を仰け反らせた。仁が名残惜しさを感じながら手を離すと、玲奈の体がぐったりとベッドに沈み込んだ。
「玲奈ちゃん、大丈夫?」
仁が玲奈の顔を覗き込んだ。頬を紅潮させた玲奈の呼吸はまだ整っておらず、乱れた吐息混じりに告げた。
「仁くん。私、わかった気がする」
玲奈が上気した顔に笑みを浮かべた。それは数日振りに見る、玲奈のすがすがしい笑顔だった。




