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奴隷勇者の異世界譚~勇者の奴隷は勇者で魔王~  作者: Takachiho
第十三章

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13-21.証左

「まさか、あなたが変態魔王……?」

「……え?」


 カティアの思ってもみなかった反応に、仁は口を半開きにしたまま固まった。


「違うの?」


 フードの中から剣呑な空気が漂う。


「ちが……うけど、違わないかも……?」


 仁は反射的に否定しようとしたが、以前、カティアの主人からそう呼ばれたことがあるのを思い出し、言葉を濁す。まさか配下の奴隷騎士にまでそう伝わっているのかという知りたくもなかった事実を知る破目はめになったが、鑑定の魔眼の示した通り、カティアの主人が仁の知る人物である証左となったのは喜ぶべきかもしれない。


 この世界では一般的には神の祝福とも呼ばれるステータスは絶対的なものであり、それを偽ることはできないとされている。しかし、仁は何事にも絶対はないと考えていた。


 鑑定の結果が正しければカティアはコーデリアの奴隷であり部下でもある奴隷騎士で、仁にとっては敵ではないと言えるが、仁はカティアという名に聞き覚えもなければ、僅かに覗いた顔にも見覚えはないように思えた。


 もっとも、仁の知る奴隷騎士はそう多くはない上に、仁がイムの件でコーデリアの元を訪れたとき以降も随時隊員を増やしていたことはわかっているため、勝手に鑑定しておいて、自分が知らないからといって疑ってかかるのも失礼になってしまう。


「どっち……?」

「俺自身は違うと主張したいけど、不本意ながら、君の主人からそう呼ばれたことがあるのは認めるよ」


 仁が肩をすくめる。ついつい敬語ではなくなってしまったが、カティアは特に意に介すことなく、手にしていた仁のギルド証を仁に差し出した。カティア自身も元より敬語ではないため、仁は少しでも親近感を持ってもらえればと、このままの口調で話すことにした。


「とりあえず、これで俺たちが味方だと思ってくれるかな?」

「このギルド証が本物なら」

「俺も詳しくはないけど、そう簡単に偽造できるものじゃないと思うよ」

「それは、簡単ではない方法を使えば偽造できるかもしれないということと同義」


 仁は口を閉ざす。そう言われてしまっては、ギルド証では仁が仁本人であることを証明できなくなってしまう。仁は少しの間、顎に手を当てて考え込むと、斜め後方で待機しているロゼッタを見遣った。


「ロゼ。申し訳ないけど、フードを取ってもらっていいかな」

「わかりました」


 ロゼッタが槍を持たない方の手で灰色のフードを外す。白い髪と獣耳が顔を出し、朝の日差しを反射してキラキラと輝きを放った。


戦乙女の翼(ヴァルキリーウイング)所属の白虎族の槍使いの話は聞いたことがないかな。彼女も君の主人と面識があるんだけど」

「自分はロゼッタと申します。自分はあなたのステータスを鑑定する技能を持ってはいませんが、ジン殿とのやり取りから察すると、あなたはコーディー様の親衛隊も務める奴隷騎士隊の一員のようですね。だとするならば、ジン殿はあなたのご主人様の恩人であり、大切に思っておられる御方。あまり疑うのも失礼かと」


 ロゼッタが真剣な眼差しで見つめる中、カティアがおもむろにフードに手をかけた。そのまま持ち上げるように後方にずらすと、古ぼけたフードの下から薄緑のショートカットの髪が現れた。その緑の間、頭頂付近から猫のような耳が生えている。


「獣人……!?」


 ロゼッタが驚きに目を見開くが、仁は動じない。カティアが獣人であることは仁にとっては既知だった。


 コーデリアの奴隷で14歳の猫人族の奴隷騎士。それが鑑定の魔眼で得られた目の前のフードの少女の情報だった。


「どうやらあなたは本当に相手に触れもせず鑑定できる技能を持っているみたい」

「うん。君が猫人族なのはわかっていたよ。いくらコーディーと言えど、獣人の方を奴隷騎士に取り立てているとは思っていなかったから驚いたけどね。でも、どうして?」


 仁がなぜフードを取ったのか尋ねると、カティアはロゼッタに目を向けた。


「彼女は人族であるあなたを深く信頼している。それはあなたが獣人族だというだけで差別するような者ではないという証拠。現に、わたしを目にしてもあなたの目には侮蔑の色は浮かんでいない」

「ジン殿やその周りの方々は種族や偏見だけで物事を測るようなことはしません」


 ロゼッタが誇らしげに言うと、カティアは小さく頷いた。


「だから、わたしはあなたたちの主張通り、あなたたちが変態魔王とその四天王の白槍だと信じることにした」

「いや、俺は変態じゃ……」


 仁が狼狽ろうばいする斜め後ろで、ロゼッタが白く澄んだ頬をほのかに朱に染めていた。


「その、四天王というのはどこから……?」

「ご主人様は同じ四天王の小さな聖女様から聞いたと言っていた」

「ミル様……」

「いや、ロゼはいいじゃないか。俺なんて変態だよ、変態……」


 黒歴史を拡散されて項垂うなだれているロゼッタを尻目に、仁は深く肩を落とす。


「あなたたちがわたしの敵でないなら、わたしをすぐに解放してほしい」


 仁とロゼッタに意図せず精神的なダメージを与えた少女は二人の様子に構わず、舌足らずで平坦な口調で改めて主張した。仁は気を引き締め直し、すすで汚れた顔の少女に向き直る。


「俺たちは君を拘束しようだなんて思っていないよ。ただ、俺たちにも事情があってコーディーに連絡を取りたいんだけど、城の門番が取り次いでくれなくて。奴隷騎士の君がそんな格好で急いでいるのにも何か理由があるんだろうけど、どうか協力してほしい」


 仁の言葉に何か思うことがあるのか、カティアは視線を焚き火に向けて沈思黙考してから顔を上げた。


「今のわたしは奴隷騎士隊だと名乗れない。だから、あなたたちの力にはなれそうにない」


 名乗れないということはカティアが今現在何かしら秘匿性の高い任務に当たっているということだ。もしそうだとするならば、カティアがこの場所に現れたのにも納得がいく。


「なるほど。君は隠し通路を使って城を出て、夜を徹して街道まで出てきたのか」

「今のあなたの発言で、あなたが変態魔王である可能性が高まった」

「信じてくれたんじゃなかったの!? というか、変態はやめて!」


 カティアとしては仁が隠し通路の存在を知っていたからという理由なのだろうが、変態と言われると、カティアのちょっとした言動からこれまでの行動を推測した仁があたかもストーカー的な思考をしていると言われたように感じてしまう。


 仁は元の世界で玲奈がプライベートでどんな生活を送っているか妄想したことがないと言ったら嘘になってしまうが、ラジオ局などを見張って出待ちしてこっそり跡を付けるような真似をしようと思ったことはないし、クリスマスの日にブログを更新しなかったからといって彼氏と過ごしていたなどとのたまうこともしない。


 ちなみに、玲奈は毎年クリスマスを家族と過ごしているそうで、ブログを開設以降、クリスマスの日には母親と一緒に作った豪華なケーキや料理と綺麗に飾り付けられた部屋の写真を載せるのが恒例になっているが、だからと言って、それがアリバイ作りなどと思ったことはない。


 それに、仁は道端で玲奈とばったり会いたいと思ったことがないわけではないが、基本的に玲奈との接触はイベントのときのみと割り切っている健全なファンで、決して変態ではない。当然のことながら、生活圏が違うからストーカー的行為をしたくてもできないし、日常で遭遇することがないだけではいうツッコミは受け付けていない。


 仁は健全なファンなのだ。


「ジン殿が変態かどうかはさて置き、やはり城内で何か起こっているのは間違いないようですね」


 ロゼッタにさて置かれたのはさて置き、仁は横道に逸れた思考を元に戻す。カティアが皇族用の脱出路を使ってまで周りに知られないように城を出たということは、やはりカティアが何かしらの秘密の任務を帯びている可能性が高い。


 それはロゼッタの言う通り、城で何かが起こっていて、カティアの任務はそれに対するコーデリアの対応だと考えるのが自然だ。ならば。


「カティアさん。君の急ぎの任務に、俺たちで力になれることはないかな?」


 仁の申し出に、薄緑の髪が小さく揺れた。


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