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奴隷勇者の異世界譚~勇者の奴隷は勇者で魔王~  作者: Takachiho
第二章

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2-12.テント

その晩、仁と玲奈は、ある問題にぶつかっていた。


「テントどうしよう……」

「ご、ごめんね、仁くん」

「いや、玲奈ちゃんのせいじゃないよ」


 玲奈の案でテントを解体しないままアイテムリングに入れていた仁だったが、アイテムリングを隠している以上、テントを使用することができなかったのだった。他の物を出す時は魔法鞄マジックバッグである革袋に左手を入れて、その中で出し入れしていたのだが、魔法鞄マジックバッグはその入れ口を通る大きさの物しか入れられないため、組み上がったままのテントを出すなどあり得ないことだった。


「あれ? ジンさん、レナさん。どうしたんですか?」


 商隊や護衛が野営の準備をしている中、少し外れたところで途方に暮れている二人の元にリリーがやってきた。


「あ、リリー。えっと、何て言ったらいいか……」


 言いよどむ仁をリリーが訝しげに眺める。リリーが頭を傾けた。


「あ。もしかして、テントがないんですか?」

「えっと、その、実は……」

「えー! 今までテントもなしに野宿してたんですか? でもジンさん、昨日、宿屋でテント持ってるって言ってませんでしたっけ?」

「あー。それはその……」


 歯切れの悪い仁の様子を見て、何かに思い至ったのかリリーが手を打った。


「ジンさん。嘘付きましたね? もう。仕方のない人ですねっ。確か商隊用の予備があったはずなので、ちょっと見てきますね」

「ありがとう。一緒に行くよ」




 無事、商隊からテントを借りてテントを設営した仁と玲奈は商隊の人たちと一緒に夕食を取った。仁は元々自分たちの分は自分たちでと遠慮しようと思ったが、仁と玲奈の分もガザムの街で用意済ということで、誘いに乗ることにした。


「それで、お二人はどうしてメルニールに向かっているんですか?」


 食事を終えて一息ついているとリリーが話を振ってきた。リリーの顔が興味津々だと語っていた。


「俺は奴隷だからいいと言えばいいんだけど、玲奈ちゃんのこの国での身分証が欲しくてね。ある人から冒険者か探索者のギルドに登録するよう勧められたんだよ」

「ということは、しばらくメルニールに滞在するんですねっ!」


 キラキラとしていたリリーの瞳が輝きを深めた。


「それで、冒険者と探索者、どっちにするか決めてるんですか?」

「いや。冒険者はなんとなくわかるんだけど、探索者というものがどういう存在なのか知らなくて」


 かつてラインヴェルト王国に召喚されたときに、冒険者の知り合いがいた。冒険者というのは、いわゆる何でも屋のようなもので、個人個人で依頼を受けて報酬を貰って生活していた。ラインヴェルト王国には大陸で唯一、ダンジョンと呼ばれる迷宮があり、特に冒険者たちはダンジョン内への護衛や魔物の素材集めなどを稼ぎの柱としている場合が多かった。


 ダンジョンというのは、アーティファクトを多く生み出した古代文明の遺産と考えられていて、内部からは珍しいアーティファクトが発見されたりしていた。仁の持つアイテムリングも元々はダンジョンで発見されたものらしい。ただし、ダンジョンは迷宮の名に恥じぬ規模を誇り、容易に踏破できるものではなかった。内部には魔物も多く存在し、そのほとんどが外に住む魔物より強力で、更にはエリアボスと呼ばれる非常に強力な魔物の存在も確認されていた。それでもダンジョン内の魔物の持つ魔石は外部の物と比べて質がよく、冒険者たちの貴重な収入源ともなっていた。


「冒険者はギルドを介していろんな依頼を受けて報酬を貰う人たちで、探索者というのは、ダンジョンの探索、攻略を行う専門の人たちのことですよ」

「え。なんでメルニールに?」


 ダンジョンはラインヴェルト王国にしか存在しないはずだった。ダンジョンに潜るのが専門だという探索者のギルドがメルニールに存在する理由がわからなかった。リリーが仁に不思議そうな目を向けた。


「なんでって、メルニールにダンジョンがあるからですけど」

「え! メルニールにもダンジョンがあるの?」

「むしろ、メルニールの他にダンジョンがあるんですか?」

「あ、いや、風の噂で帝都の南西の方にダンジョンがあるって聞いたことがあるような……」


 仁は100年前に滅んだラインヴェルト王国の名前を出すのは不自然だと考え、誤魔化しながら訊ねた。


「うーん。わたしはメルニールのダンジョンが大陸で唯一のダンジョンだって聞いてますけど」


 リリーが首を傾げた。仁はラインヴェルト王国のダンジョンが今どうなっているのか疑問に思ったが、今は置いておくことにした。


「それで、探索者というのは、そのダンジョンの攻略を目指している人たちということでいいのかな?」

「基本的にはそうですね。ただ、探索者ギルドに登録するには試験に合格しないといけません。大した力もなくダンジョンに入るのは自殺行為ですし、それを防ぐための試験ですね。ジンさんやレナさんなら問題ないと思いますけど」


 かつての仁は力をつけるためにダンジョンに潜っていた。仁は今回もダンジョンで経験を積むことが自身や玲奈のレベルアップに最適ではないかと思索を巡らす。


「冒険者だとダンジョンには入れないのかな?」

「いえ。魔物の魔石や素材集め、探索者のパーティの補充要員などで、冒険者でもダンジョンにはけっこう入ったりするみたいですよ。ただし、C級以上の冒険者に限られますけど」


 また仁の知らない単語が出てきた。国が違うのもあるが、仁には100年で随分と変わっているように感じられた。


「そのC級というのは?」

「あ、それはですね、探索者の試験制度と違って、冒険者は犯罪者でもない限り誰でもなることができるんです。その代わりに実力や冒険者ギルドへの貢献度などでランク付けされているんですよ。それで、冒険者がダンジョンに入るにはC級以上が必要ということです。そのくらいの実力がないとダンジョンに入るのは危険だということでできた制度だそうです」

「なるほどね」




 その後、リリーからメルニールに関していろいろと教えてもらい、就寝するために玲奈とテントに向かった。別れの挨拶をした直後、慌てたように自身のテントに走って行くリリーを見送った。


「えっと。どうしよっか……」

「う、うん……」


 組み立てられたテントを前にして、仁は戸惑い、玲奈は俯き加減で頬を紅潮させていた。二人はまた新たな問題に直面していた。今までは交互で見張りをしていたために問題にならなかったのだが、商隊の客扱いで見張りを免除された現状、一緒に寝ないという選択肢が存在しなかった。


「私は、その、いいよ。結果的に昨日も同じような状況で寝ちゃってるし……。それに、仁くんのこと、信じてるから」

「いや、でも……」


 もちろん玲奈と一緒に寝るのが嫌なわけではなかったが、仁は昨日の眠れない夜を思い出した。憧れの人と狭いテントの中で二人っきりで寝るという幸せと、その状況で決して手を出せない生殺し状態の辛さと、その状態を玲奈に強いてしまう申し訳なさが仁の頭の中をぐるぐると回っていた。


「あ。やっぱり思った通りでしたっ!」


 テントの前から動けないでいた二人のところへ、先ほど別れたリリーが駆け寄ってきた。荷袋をリュックのように背負っている。仁は玲奈と顔を見合わせて互いに首を傾げた。


「今度はどっちがテントで寝るかって揉めていたんですよね。でも大丈夫。仕方がないのでわたしが一緒に寝てあげます! 二人っきりじゃなければレナさんも安心ですよねっ」


 そう言ってテントに入っていくリリーを、仁と玲奈は目を丸くして見送る。


「それに、もしジンさんが欲情して変態さんになっても、わたしがお相手してあげますから安心してくださいねっ!」


 リリーが振り返って、きゃっと両手で口を覆った。リリーは悪戯を企む子供のような笑みを浮かべていた。


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