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奴隷勇者の異世界譚~勇者の奴隷は勇者で魔王~  作者: Takachiho
第二章

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2-11.騎士

「もう。お二人とも、いい年して何やってるんですかっ」


 呆れた様子のリリーを前に、仁と玲奈が小さくなっていた。今、3人はメルニールに向かうマークソン商会の商隊の馬車に揺られていた。向かい合わせになった壁際の長椅子に座ったリリーが、対面の仁と玲奈をジト目で見ていた。同じ馬車内にはマルコと商会所属の商人の男女がいた。


「せっかく宿屋に泊ったっていうのに、二人して床で寝るとか、考えられないですよ。休めるときにはちゃんと休んでおくのが旅の鉄則ですよっ!」

「いや、でも、そうは言うけど、女の子を差し置いて男がベッドで寝る方があり得なくない? それに、俺、奴隷だし」

「そういうときだけ奴隷持ち出さないでよ! それに、奴隷っていうなら私の言うこと聞いてくれればよかったじゃない!」


 ぎゃーぎゃーと言い合いを始める二人を前に、リリーの目がさらに細められた。リリーにはとても仁と玲奈が奴隷と主人であるようには見えなかった。謎が深まるばかりだった。リリーが諦めたように深く息を吐く。


「やっぱり、わたしがレナさんに部屋を代わってもらって、ジンさんと一緒のベッドで寝れば良かったかなぁ……」


 呟いた言葉は馬車の揺れる音にかき消され、二人の耳に届くことはなかった。




「後ろから帝国騎士が2人、馬でこっちに向かって来てるぜ」


 しばらく進んだ頃、先頭馬車の横の窓からガロンがマルコに告げた。仁が目を鋭くし、玲奈が一瞬肩を震わせた。


「お爺ちゃん……」


 仁と玲奈の様子に気付いたリリーが心配げにマルコを見た。マルコが大きく頷く。


「ジン殿、レナ殿。事情はわかりませんが、ご安心ください」


 マルコの指示で仁と玲奈が馬車の奥の席に移動し、商会員の男女が陰を作った。


「ガロン殿、騎士がこの馬車に近づく前に足止めしてください。ワシが話を付けます」

「おう。任せとけ」


 ガロンが馬車から離れ、後方へさりげなく移動していく。帝国騎士が最後尾の馬車に接近した。


「我らは帝国騎士である。そこの商隊。止まれ!」


 護衛の冒険者がガロンと目配せし、先頭へ向かった。


「帝国の騎士様が商隊に何の用ですかい?」

「うむ。帝都から逃げた犯罪者がメルニールに向かっている可能性があるのだ」

「犯罪者ですかい? そいつらは何をやらかしたんですかい?」

「それは国家の大事に関わる故、我らには知らされておらぬ」


 騎士はそう言うなり、窓から止まった馬車の中を覗き込んだ。


「これは騎士様。ワシはマルコ・マークソンと申します。マークソン商会の会長をしております」

「何? あのマークソン商会か?」


 騎士の目が少しだけ見開かれた。


「あの、というのが何を指すのかは分かりかねますが、この辺りに同じ名の商会はなかったと記憶しております」

「ふむ。まぁ良い。それでは犯罪者がいないか調べさせてもらうぞ」


 騎士はマルコから前方の馬車へ視線を移した。


「騎士様、お待ちください。ワシらはメルニール公認の商会です。騎士様は、そのワシらが帝国の犯罪者を匿っていると難癖を付けられるのでございますか?」


 難癖という言葉に、騎士が眉根を寄せた。


「そういうわけではないが、我らも本国から相手が誰だろうと馬車も例外なく探せと命令を受けているのだ。そう時間は取らせん」

「それは帝国側の理屈にございます。あなた方が本当に犯罪者を探しているという証拠はおありですか? 帝国の息のかかった商人に情報を流すためにワシらの扱っている品を検分しようとしているのではないですか?」

「そんなわけがあるか! 我らは犯罪者捕縛のめいを受け――」

「ですから、証拠をお出しください」

「この! 我ら帝国騎士を嘘つき呼ばわりするか!」


 マルコの強気な態度に、騎士の一人が腰の剣の柄に手を持っていく。


「おっと。そこまでにしといた方が賢明ってもんですぜ。あんたが剣を抜いたら、護衛の俺らはあんたらを排除しないといけなくなる」


 騎士が周囲を見渡すと、ガロン他4人の冒険者が騎士たちを囲んでいた。


「犯罪者がメルニールに向かっていると言うのであれば、ワシらに構わずメルニールに急がれてはいかがですか? メルニールには犯罪者を暴くアーティファクトがあるのはご存じでしょう。その方が確実なのでは? 犯罪者ならば門を潜れず途方に暮れているかもしれなせんよ」


 そう言われてしまっては騎士に返す言葉はなかった。


「犯罪者は黒髪黒眼の若い男女で、男は奴隷だ。道中見かけたら帝国に知らせてくれ」


 騎士たちは唇を噛みながら、馬車を追い越して行った。通り過ぎるとき窓からチラチラと中を見ていたが、仁たちに気付くことはなかった。


「やっぱりあの二人のことだったか。犯罪者には見えねえけどなぁ」


 騎士を追っていたガロンの視線が、先頭の馬車に向いて止まった。


「何か事情がおありなのでしょう。それに本当に犯罪者かどうかはメルニールに着けばわかることです。それに、仮にお二人が犯罪者だとしても、恩人なことに変わりはありません」

「違いねえ」


 マルコはガロンと目を合わせて笑い合い、先頭の馬車に戻った。マルコの号令で商隊は再びメルニールに向かって進み出した。




「マルコさん。ありがとうございます」


 あの後、元の席順に戻ったが、なぜかリリーが仁の左隣に座っていた。


「いえ。お礼には及びません。こんなことではとてもご恩返しにはなりませぬよ」

「そうだよ。お爺ちゃんの言うとおり。お二人は、わたしたちの命の恩人なんだから!」


 リリーが仁の肩を景気よくはたいた。


「ジン殿、レナ殿。帝国はどうやらお二人を犯罪者だとして探しているようでした」

「そんなの嘘に決まってるよっ!」


 憤慨するリリーをマルコが宥めた。


「ジン殿とレナ殿はご存じないかもしれませんが、メルニールでは入場の際にアーティファクトを用いて犯罪者かどうか検査されるのです。そこで犯罪者だと認定されるとメルニールへの入場は叶わず、場合によっては捕らえられてしまう場合もございます。孫同様、ワシもお二人が犯罪者だとは思っておりませんが、万が一、罪を犯しておられるのであれば、何か手を考えねばなりませぬ」

「大丈夫です。俺たちは犯罪者ではありません」


 仁の脳裏に簀巻きにされたガウェインの姿が浮かんだが、あれは玲奈を守るための正当な行為だと信じることにした。マルコは満足げに笑みを浮かべた。


 メルニールまで馬車で後2日の距離だった。


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