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奴隷勇者の異世界譚~勇者の奴隷は勇者で魔王~  作者: Takachiho
第九章

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9-13.宴

 その後、仁たちはエルフィーナやアシュレイたちと様々な話をし、情報の交換を行った。それにより、仁はいくつかの疑問を解消し、またいくつかの疑問を新たに抱いたのだった。


 まず、エルフの里は魔物除けの結界に守られているだけではなく、魔の森の奥地でも特に迷いの森と呼ばれる地域にあり、正確な場所を知っていても辿り着くことが困難であるということ。そのため、魔の森にいくつか設置されている石灯籠型のアーティファクトから転移するのがエルフの里を訪れる最も適切な方法となっている。そして、その石灯籠はエルフにしか起動することができないため、現状では亜人たちの襲撃を受けずに済んでいた。


 迷いの森と言うのは深い森の中でも一層木々が密集した地域で、地面も不規則な凹凸が多く、真っ直ぐ進むことが困難なために迷いやすくなっている。ただし、魔法的な何かで迷わせる類のものではないので偶発的な発見は防げず、また、しらみつぶしに探られてしまえば、いつまでも隠れたままでいられる保証はなかった。


 次に、転移のアーティファクトを日常的に用いているエルフなら異世界勇者召喚について何か知っているかもしれないと考えて尋ねたところ、意外な情報を得ることができた。仁はまったく知らなかったことだが、あの召喚魔法陣は元々このエルフの里に伝わっていたものだそうだ。長い歴史の中で運用方法は失われていたが、それをクリスティーナが復活させ、かつての仁の召喚に至ったのだった。


 そして驚くことに、ラインヴェルト王国の祖の正室となったのがエルフの英雄とされるシルフィーナであり、代を経る毎に薄くはなっているものの、クリスティーナにもエルフの血が流れていたというのだ。ラインヴェルト王国の血脈は残念ながらクリスティーナの代で途絶えてしまったが、それまでラインヴェルト王国とエルフの里で友好関係が結ばれていたのにはそういう理由があったのだった。また、魔法陣の起動にエルフの血が必要だということも納得できる話だった。




「ちなみに、私の祖先はシルフィーナ様の妹に当たるから、私と姫は遠い親戚ということになる」


 アシュレイは遠くを眺めるような目をしていた。仁にやるせない思いをぶつけたことで少しは気が晴れたのか、アシュレイはエルフィーナに似た穏やかな微笑を浮かべていた。クリスティーナや仲間を失った悲しさ、守れなかった悔しさ、帝国を恨む気持ち。アシュレイの中からそれらがなくなったわけではないが、一時とはいえ、以前の厳しくも優しい仁のよく知るアシュレイが戻ってきた気がして、仁は嬉しくなった。


 仁たちは今、エルフィーナの屋敷で開かれたささやかな歓迎の宴に参加していた。色とりどりの山の幸をふんだんに使った料理に舌鼓を打ちながら、アシュレイやエルフィーナと話を続けている。仁たちやアシュレイたちの他にも森で出会った黒装束のエルフたちが何人か参加しており、酒の勢いも借りてロゼッタやセシルたちと打ち解けあっているようだった。仁はメルニールの祝勝会を思い出してロゼッタに酒を飲ませて大丈夫かと若干心配していたが、この場にはクランフスのように腕試しにやってくるようなものはおらず、杞憂に終わった。


 エルフたちは当初イムの存在に怯えを見せていたが、イムがミルや玲奈、セシルたちとじゃれあっているのを見て、徐々に警戒心を解いていった。玲奈とセシルがイムを頭に乗せる芸を披露して盛り上がりを見せていたが、やはりミルの頭には乗りたがらないようだった。


 仁も玲奈も、元の世界では未成年であるということを理由に酒を断っていたが、笑顔に満ちた空間を楽しんでいた。仁の頬も自然と緩む。


「あ、そうだ」


 仁はミルやイムたちの元に集まっている黒装束のエルフたちを眺めながら、疑問に思っていたことを思い出す。


「アシュレイ。エルフたちの黒装束のことなんだけど――」

「お! やっと気付いたか」


 仁が疑問を口にすると、アシュレイが、ずいっと身を乗り出した。アシュレイは頬をほんのり桜色に染めながら、上機嫌で口を開く。


「昔、ジンが言っていただろう。ジンの世界の諜報員、確か、ニン……ニン……」

「忍者?」

「そう、ニンジャだ。話に聞いたニンジャというやつを再現してみたんだ。なかなか様になっているだろう?」

「え、うん。そ、そうだね……」


 仁はやはりそういうことだったかと納得すると共に、自分の言動がこの世界の人々に多大な影響を与えてしまったのではないかと不安を抱いた。元の世界とこちらの世界では元々似通った点が多く、もしかしたら日本に似た文化を持つ国もどこかにあるかもしれないが、それでも元の世界の文化を持ち込んでこちらの世界に影響を与えるようなことはしたくなかった。


「心配するな。元々いつか故郷のこのエルフの里にも諜報と戦闘に特化したものたちを育てるつもりだったんだ。その際にお前の話を思い出して参考にしただけで、エルフの文化を壊したわけではない」


 仁が難しい顔をしていると、仁の考えていることはお見通しだと言わんばかりにアシュレイがバンバンと仁の背中を叩く。仁は苦笑いを浮かべながら、右手の人差し指で頬を掻いた。




「ジン殿。少しよろしいですか?」


 仁がアシュレイに酌をしていると、微笑を湛えたエルフィーナが近付いてきた。


「はい。何でしょう」


 エルフィーナは仁から少し離れたところでイムとじゃれ合っているミルにチラッと視線を送った。


「ミルがどうかしましたか? あ、イムの名付けの件でしょうか」


 ミルがイムの主になっているかもしれないということが今後どう影響してくるのか、未だ仁は判断できずにいた。そのことが人と竜の橋渡しになればという思いはあるが、卵を火竜に預けて巣を発った炎竜が戻ってきたとき、火竜は討たれ、卵から孵った子供が見知らぬ獣人から名を授けられていたと知ったらどう思うのか。予想外に大事になるかもしれない問題が仁の心に重く圧し掛かる。仁はどうしたものかと眉間に皺を寄せるが、エルフィーナは小さく首を横に振った。


「いえ。そちらに関してもお話したいことはありますが、今私がお尋ねしたいのは、ミル様の持つ魔剣についてです」

血喰らいの魔剣(ブラッドイーター)ですか?」


 既に仁たちの武器は返却され、それぞれが手元に置いていた。焼いた肉を頬張っているイムの小さな頭を撫でているミルも、魔剣を革の鞘に収めた状態で腰の背面に回していた。


「やはり、あの魔剣は血喰らいの魔剣(ブラッドイーター)で間違いないのですね。ミル様がそれをどこで手に入れられたのかお聞きしても?」

「えっと。元々あの魔剣はミルの父親が使っていたもので――」


 仁はミルと出会ってから魔剣を取り戻すまでのことを掻い摘んで話した。ミルの両親が心無い探索者の卑劣な罠で命を落としたところまで話が及ぶと、エルフィーナは柔和な微笑を痛ましいものに変えた。


「そうでしたか。そんなことが……。ジン殿はミル様のご両親について、何か知っていることはございますか?」

「そうですね。獣人の国からメルニールに流れてきたと聞きましたが、それ以外のことは……」


 仁は魔剣についてマルコに相談したときに聞いた話を思い出す。リリーが生まれた頃ということなので、14、5年くらい前の話になるだろうか。


「そうですか……」


 エルフィーナは逡巡するように瞑目し、ゆっくりと目を開いて仁と向かい合った。


「ジン殿。ミル様について、お話ししたいことがあります」


 エルフィーナの真剣な眼差しを受け、仁はゴクリと喉を鳴らしたのだった。


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