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奴隷勇者の異世界譚~勇者の奴隷は勇者で魔王~  作者: Takachiho
第二章

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2-5.検証

 その後、日が傾き始める頃まで歩き続けた。その間、殺人兎キラーラビット一角兎ホーンラビットが散発的に襲ってきたが、仁が瞬殺していった。雷魔法、火魔法、闇魔法を用い、かつての感覚を取り戻す。試しに黒炎を鞭のように振るうと、玲奈が驚いていた。倒した魔物は街で売れるのを期待して、全てアイテムリングに収納した。


 最後は玲奈にも剣で殺人兎キラーラビットと戦ってもらい、戦闘というものを経験してもらった。ステータス的には玲奈が上回っており、戦闘行為への恐怖心と命を奪うことへの忌避感さえ克服できれば、負けるような相手ではなかった。玲奈は泣きそうになりながらも、危なげなく倒して見せた。こればかりは慣れてもらう他なかった。


 少し開けた場所に昨夜と同じように絨毯とテントを設置し、仁と玲奈が向かい合って座っている。サラの情報によれば自由都市メルニールまで街道を使えば徒歩でだいたい10日前後らしい。今回は森を通っていうためもう少し余分にかかるだろう。ある程度進んだら様子を見て街道に出てもいいかもしれない。街道が安全というわけではないが、森の中よりは魔物に襲われる可能性は大きく下がる。そんなことを考えながら、夕食として、ショートブレッド、干し肉、ドライフルーツを食べた。




「玲奈ちゃん。ここにお願い」

「うん」


 玲奈が氷球アイスボールを発動させ、仁がアイテムリングから取り出した鉄製のボールのような器に入れた。


「ねえ、仁くん。この氷球アイスボールだけど、私の手の上にあるときは冷たくないのに、なんで、こうして器に移すと冷たくなるの?」


 玲奈が器の中の氷塊を指先でつんつんと触りながら疑問を口にした。仁は小首を傾げる玲奈の様子を可愛く思いながら答える。


「それは、魔法を保持している状態だとまだ玲奈ちゃんの魔力と同一の存在だからだね。仮にその状態で俺が触れたら、俺には冷たく感じられるよ」


 玲奈は納得したような、納得いかないような、曖昧な表情で首を捻る。


「そもそも魔法は元の世界には存在しないものだから、元の世界の常識とか法則とかで考えてもあまり意味はないよ。でも、同じ法則も存在するから、それを利用しようと考えるのは無駄じゃないけどね」


 玲奈にはそれで納得してもらい、仁は氷塊に目を向けた。玲奈の視線も追従する。


「まだ手持ちの飲み水に余裕はあるけど、その氷、どうするの?」

「こうするんだよ。火球ファイヤーボール


 仁が拳大の火球ファイヤーボールを保持したまま器の氷に近づけると、氷塊は徐々に解けて水に変わった。そのまま火球ファイヤーボールを水の中へそっと放つと、仁は恐る恐る指を水に入れてかき回した。


「うん。丁度いいくらいかな」


 仁は顔を上げて玲奈を見る。


「汗かいたでしょ? このお湯で体を拭いてきなよ。はい、タオル。あと、これも」


 仁が預かっていた白いチュニックと赤のショートパンツを一緒に手渡すと、玲奈は顔を綻ばせた。


「ありがとう」

「お礼はいいよ。半分は玲奈ちゃんの魔法だしね。玲奈ちゃんがいてくれて本当によかったよ。後で俺も使いたいから、もう一度お願いね」

「うん。じゃあまた後でね」


 そう言ってテントに向かった玲奈が途中で振り向く。


「あの、覗かないでね?」


 今朝の事件が尾を引いているのか、玲奈は恥ずかしそうにしていた。


「の、覗かないよ。それに、また電撃味わいたくないしね」


 テントの入口から消える玲奈の姿を見つめる仁の脳裏には、玲奈のあられもない姿が浮かんでいた。




「玲奈ちゃん。まだMP大丈夫?」

「ちょっと待ってね」


 玲奈が一瞬だけ目を閉じた。


「うん。まだ大丈夫だけど、どうするの? また氷出す?」


 お湯で体を拭いて濃紺のチュニックに着替えた仁が首を振った。


「玲奈ちゃんの特殊技能の“特殊従者召喚”の検証をしておきたいんだ」

「私も少し気になっていたんだけど、仁くんにはどういうものかわかるの?」

「まだ仮説なんだけどね。それをちょっと試してみたくて」

「わかった。どうすればいいのかな?」


 仁は青い光に包まれて玲奈の部屋に瞬間的に移動したときのことを玲奈に話して聞かせた。


「そのとき、何か特別なことはしなかった?」

「うーん。怖くて目を瞑ってただけで、特に何かした記憶はないんだけど……」


 斜め上を向いて考え込んでいた玲奈が、唐突に頬を染めた。


「えっと。あの。強いて挙げれば、『仁くん、助けて』って心の中で叫んでたくらいかな……」

「そ、そうなんだ」


 小声でそう話す玲奈に、仁は照れ臭さを誤魔化すように頭を掻いた。


「じゃあ、ちょっと離れるから、そのときと同じようにしてみて」


 仁は絨毯を出て玲奈から5メートルくらい離れて立った。


「玲奈ちゃん。お願い」

「うん」


 玲奈は当時と同じように目を閉じた。しばらく待つが何も起こらない。


「ダメみたい」

「まだ諦めないで。もっと強く念じてみて」

「う、うん。やってみる」


 玲奈は目をキュッと瞑って、胸の前で手を組んだ。それでも何の変化もない。


「もっと! もっと強く俺を求めて!」


 仁の言葉に玲奈の頬が熱を持つ。玲奈の顔が朱に染まった。


「あ」


 仁の口から驚きの言葉が零れた。仁の体を青い光が覆っていく。次の瞬間、仁は玲奈の横にいた。


「やったよ、玲奈ちゃん。成功だ!」


 目を開けた玲奈が横に目を向けて、仁がすぐ近くにいるのを認識した。驚きで目を大きくする。


「どのくらいの距離があっても可能なのかとか、距離に応じて消費MPが増えたりするのかとか、いろいろ検証しないといけないことはあるけど、この技能はすごいね。これさえあればいつでも玲奈ちゃんの元に駆け付けられるし、何より、玲奈ちゃんに求められてる感じがすごくいい!」


 仁のテンションはうなぎ上りだった。


「この技能、恥ずかしいからあまり使いたくない……」


 頬に両手を当てた玲奈の呟きが仁に届くことはなかった。検証と称した特殊従者召喚の連続使用は、しつこく催促する仁に玲奈が首輪の電撃を発動させるまで続いた。


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