表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奴隷勇者の異世界譚~勇者の奴隷は勇者で魔王~  作者: Takachiho
第九章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

178/616

9-4.集会

「というわけで、魔の森を出るまで、仁くんとの魔力操作の訓練は禁止!」


 夜番組と就寝組に分かれる前に、玲奈が一度全員を集めて言い放った。ロゼッタが絶望的な顔をしていたが、先ほどの仁と玲奈の喧嘩の経緯を聞いたために異論を唱えることはなかった。もっとも、ロゼッタの場合、余程のことがなければ主人である玲奈に逆らうことはないが、今回の件が余程のことかどうか判断が付かないでいた仁はホッと胸を撫で下ろした。


「――なんだけど、希望者は1度だけオッケーです」

「え、希望者?」


 仁の頭上にクエスチョンマークが並んだ。仁と玲奈の間では、この後、ミルとは訓練を行うということで話がまとまっていて、仁は玲奈がなぜ希望者という言い方をしたのかわからなかった。玲奈は仁の疑問を意図的に無視するように、首を傾げる仁に目を向けることなく話を進める。


「仁くんの負担も考えて1日に2人まで。それと、危険性の増す魔の森の深部に入る前までに済ませるようにしてください。今日明日中に済ませるのがオススメです。では、希望者は挙手!」


 玲奈が仁以外の皆を見回して宣言すると、ミルが真っ先に手を上げた。


「はい、ミルちゃん。さっきはごめんね」

「みんな仲良しが一番なの」


 ミルがニッコリと微笑みながら、仁と玲奈を見遣る。ミルは望み通り訓練が受けられること以上に仁と玲奈の喧嘩が終わったことに喜んでいるようだった。仁も釣られて笑みをこぼすが、誤解も解けて和解したはずの玲奈が意識的に自分と目を合わせないようにしている理由は、やはりわからないままだった。仁が頭を悩ませていると、ミルに続いてロゼッタが挙手をする気配を見せた。


「あ、ロゼは今日もしてもらったから、対象外ね」

「レ、レナ様ぁ……」


 ロゼッタが右手を中途半端に持ち上げたところで硬直して情けない声を上げるが、玲奈は気にした風でもなく残る一人に目を向ける。


「他にいませんか?」


 明らかに個人に向けられた玲奈の言葉に、セシルは困惑の表情を浮かべると、チラチラと仁を横目で何度も見ながら頬を紅潮させた。


「わ、私もしてほしい、です……!」

「セ、セシル!?」


 おずおずと手を上げながら瞳に決意を滲ませるセシルに、仁は驚きの声を上げた。セシルはビクッと身を震わせながらも、仁ではなく玲奈を見据えて口を開く。


「わ、私も皆さんのようにもっと強くなりたいです。それはコーデリア様の願いでもありますが、私は私の意思で強くなりたい。そのためならどんなに恥ずかしいことでも耐えて見せます。大切なものを守るために……!」


 セシルは挙げていた手を下ろし、胸の前で拳を強く握りしめた。自身をそっちのけで進んでいく話に、仁はもう何が何だかわからなくなっていた。セシルの口ぶりから、何やら仁が酷いことをするとでも思っているような印象を受け、仁は目を手のひらで覆った。そんな仁の心の内を知ってか知らずか、玲奈が満足そうに頷く。


「はい。じゃあ希望者はこの3人で決定しました」


 玲奈の宣言を受け、ミルがパチパチと拍手し、セシルが戸惑いながらもそれにならう。


「え。3人……?」


 手を額から退かして顔を上げた仁の口から疑問が吐いて出た。挙手をしたのはミルとセシルの2人のはずだった。集会が始まってから初めて仁と玲奈の視線が交わった。


「というわけで、仁くん。今日はミルちゃん。明日はセシルさんと私ということでよろしくね!」


 目を丸くする仁に、玲奈は顔を僅かに赤らめながら、悪戯が成功した子供のような笑みを向けたのだった。




 集会の後、早く早くと仁の手を引いてテントに向かったミルは再びショートパンツに手をかけたが、今度はミルが脱ぐより先に仁が制止し、ミルは不服そうに唇を尖らせた。仁はミルの頭を優しく撫でて服を着たまま寝かせ、少しだけずり下げて臍の下に人差し指を当てる。仁の意図を察して嬉しそうに微笑んだミルの体内に仁が指先からゆっくりと魔力を注ぎ込むと、ミルはくすぐったそうに身をよじった。ミルは終始きゃっきゃと笑い声を上げていたが、仁が魔力の注入を止めると、ぐったりとしながらも「わかった気がするの」と笑顔を見せた。


 余程疲れたのか、ミルはそのまま寝袋の上で眠ってしまったため、仁はアイテムリングから取り出した毛布をそっとミルにかけてから自身の寝袋に潜り込み、大きく溜息を吐いた。明日、セシルと玲奈とも同様の行為をすると思うと、仁は気が滅入る思いだった。


 セシルがどの程度まで訓練内容を知っているかは不明なものの、玲奈と一緒に盗み聞きをしていた以上、ある程度は察した上で参加の意思を表明したと思いたいが、それでもいざという場面になって拒絶されてしまったらと考えると、仁は泣きたい気分になった。


 それに、玲奈に関しても、再び玲奈に触れられることを嬉しく思う気持ちがある一方で、僅かながらでも恋愛感情を意識し始めた今の仁にとって、目の前で乱れる玲奈は毒以外の何物でもなかった。もし下心が漏れ出てしまい、それが玲奈に知られてしまったらと思うと、仁は気が気ではなかった。目を閉じると明日の玲奈との行為が瞼の裏に浮かんでしまうような気がして、仁は幸せそうなミルの寝顔を眺めながら、夜番の時間まで眠れない時を過ごしたのだった。




「ロゼ、ごめんね」

「いえ、ジン殿。確かに自分がここしばらくジン殿を独占していたのは事実ですので、自分が除外されるのは当然の話です」


 目尻をこれでもかと下げたロゼッタの表情と言葉の不一致に、仁は苦笑いを浮かべた。先ほど玲奈とセシルから夜番を引き継いだ仁とロゼッタは3張りのテントが見える場所に陣取っていた。5人という人数構成のため、この日は仁と魔力操作の訓練を行ったミルが夜番免除となっていた。


「そ、それに、大変お恥ずかしい話ではあるのですが、自分は訓練という言葉を隠れ蓑に、その、ジン殿の魔力が自分の体内で自身の魔力と混ざり合う感覚を楽しんでいたようにも思うのです」


 仁は若干の眠気を振り払うように小さく首を振ると、申し訳なさと気恥ずかしさの同居したロゼッタの告白に耳を傾ける。ロゼッタの透き通るような白い肌が薄桃色に色付いていた。


「初めは純粋に強くなるために身体強化の技能を身に付けたい一心からでしたが、その、何度か行っているうちに、ジン殿と一つになっているような安心感や充足感を得られ、何と言いますか、その、有り体(ありてい)に言えば、気持ちが良かったのです」


 他人に魔力を流し込んで同調させるという行為に、仁自身も相手に無条件で受け入れてもらっているというような安息感を少なからず感じていた。される側がどう感じているのか仁は実感としてはわからないが、少なくとも仁を心から信頼していなければ受け入れられない行為だということに今更ながらに思い至り、嬉しく思った。


「えっと。不快に思われてなくてよかったよ」

「ふ、不快だなんてとんでもない! 今はレナ様に禁止されてしまいましたが、この任務を終えて魔の森を出ればまたお願いしたいと思っています!」


 仁が素直な思いを伝えると、ロゼッタはカッと目を見開いて前のめりになった。予想はしていたものの、まだまだ続ける気満々のロゼッタに、仁は再び苦笑いを浮かべたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ