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奴隷勇者の異世界譚~勇者の奴隷は勇者で魔王~  作者: Takachiho
第八章

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8-12.縦穴

「いやぁ、兄ちゃんたちが来てくれて、ほんと助かったぜ」


 ダンジョン内の淡い光を反射して坊主頭を光らせているガロンが、厳つい顔に笑みを浮かべる。


「大荷物になると思っていたが、まさかほとんど手ぶらでいいとはなあ」


 ヴィクターたちの状況がわからないため、ガロンは様々な用意をしていた。そのため、リーダーのガロンと最大戦力である仁、小さなミルを除いたノクタかクランフスのどちらかが荷物運びを担当するという話になっていたのだが、仁がアイテムリングの機能を一部だけ明かし、そこに収納することになったのだった。その結果、ガロンたちはそれぞれの荷袋に最低限の荷物を入れて持つのみとなっていた。


「ミルの嬢ちゃんの回復魔法にも期待してるぜ」


 長大な斧を片手に、ガロンが空いた手でミルの頭をガシガシと乱暴に撫でる。ミルは眉の間に小さな皺を作ると、逃げるように仁の背後に回った。


「ガロンさんの手はごわごわしてて気持ちよくないの。ミルはジンお兄ちゃんの手がいいの」


 仁は小麦色の犬耳をピクピクさせて唇を尖らせているミルに苦笑いを向けながら、不死殺しの魔剣(イモータルブレイカー)の柄を握る右手に力を込めた。




 仁が玲奈とロゼッタを説得してから数時間後、それぞれの準備を終えて約束の時間に集まった捜索隊のメンバーはさっそくダンジョンに足を踏み入れた。崩落の原因等に関しては後続して出発することになっている探索者の一行が主だって調査することになっていて、仁たちは崩落に巻き込まれた可能性のある冒険者とサポーターの捜索を第一としている。仁たち捜索隊はガロンの先導で、まずは2階層の端にある崩落現場へ向かったのだった。




「ここか……!」


 ガロンが呟き、皆が言葉を失くして足元の大穴を覗き込む。洞窟型のダンジョンの2階層の端、行き止まりとなっている壁の前に、ごっそりとえぐられたように大きな穴ができていた。幅3メートルほどの通路が丸々失われていて、暗闇の底から風が吹き上げている。


「ど、どれだけ深いんでしょう……」


 底の見えない穴の深さに、長身のノクタが怯えたような声を上げた。隣で同様に覗き込んでいた仁は手近なところに落ちている小石を拾って落とそうとするが、もしかしたら底にヴィクターたちがいるかもしれないと思いとどまる。仁が小石から手を離して顔を上げると、クランフスが無造作に拳大の石を穴に投げ入れていた。


「あ。ちょ、ちょっとクランフスさん!」

「む。英雄殿、どうされた」


 慌てた仁に、クランフスは何事かといぶかしむ。


「し、下に人がいたらどうするんですか!」

「む。なるほど。その可能性がござったな。これは失礼いたした」


 全く頭になかったのか、クランフスが目を丸くして仁に向き直った。


「それはそれとして、衝突音から察するに、深さは相当の深さではあるが、まったくの縦穴というわけではなさそうですな」

「そ、そうですね……」


 穴の中から何度か断続的に聞こえていた小石の衝突音が遠のき、やがて聞こえなくなっていった。仁は素直に非を認めながらもきっちり聞き耳を立てているクランフスの抜け目のなさに呆れと感心の両方を感じながら、垂直に落下したのでなければヴィクターたちが無事でいる可能性が高まったと希望を抱く。


「ガロンさん。この辺りの下って、どうなっているんですか?」

「それなんだがな。来る前に下の階層の地図と照らし合わせて考えていたんだが、どうやら上層の他の階層とは重なっていねえみてえなんだ。ただ、真下に伸びてるわけじゃなさそうだし、はっきりしたことはわからねえな……」


 ガロンは薄明りの中で手元の地図と睨めっこしながら眉間に深い皺を作っていた。仁は顎に手を当てながら、頭を悩ませる。下の階層に通じていないというのであれば、崩落が起きた理由がわからなかった。仁は漠然と2階層の床と3階層の天井が抜けて繋がったというような話だと考えていたが、そう簡単な問題ではなさそうに思えた。


「ジンお兄ちゃん……」


 不安げに仁の服の裾を掴むミルの頭を、仁はポンポンと軽く叩く。


「大丈夫。きっと無事でいるよ。だから、俺たちも頑張って捜さないとね」


 何もわかっていない今、気休めにしかならない言葉だが、それでもミルは穴の中に目を向けてから深く頷いた。


「どうだ、ノクタ。降りられそうか?」

「正直、難しいと思います。穴の中はダンジョンの壁のように光を出していないので、照明の魔道具を使っても奥まで見通せません。先ほどの話から、ある程度降ればどこからか坂のようになっているかもしれませんが、そこまでほぼ垂直の岩壁をロープで降りることになります。その間、魔物の襲撃がないとは言い切れません」


 ノクタはがっしりとした体格の人が多い“戦斧バトルアックス”で唯一の細身で、ひょろっとした体格から弱々しい印象を受けるが、パーティーでは分析役のような立ち位置を確立しているようだった。


「そうか。わかった。兄ちゃんとミルの嬢ちゃん、それにクランフス。この穴を直接降りるのは避けて、無駄足になるかもしれねえが、とりあえず通常ルートで中層に向かおうと思う。それでいいか?」

「拙者はリーダーに従いまする」


 ガロンの問いかけにクランフスは即答するが、仁は即座に答えることができないでいた。仁は魔力感知を使って縦穴の内部を探るが、濃い魔素が満ちていて上手く探ることができなかった。


 この縦穴が中層に通じている保証はなく、もしまったく別の場所に繋がっているのであれば、それこそ致命的になりかねない時間をロスしてしまうことになるかもしれない。しかし、二次被害を避ける意味でも、ノクタとガロンの判断が間違っているとは仁には言えず、中層は上層よりもはるかに広いため、中層に通じているという可能性にかける道を選ぶ。ヴィクターも一角の冒険者だ。万一のために何の備えもしていないとは考えにくく、もしそうであるならば多少時間をかけてでも安全な道から向かうべきだと決断を下した。


「わかりました。もしヴィクターさんが本当に崩落に巻き込まれていたとしても、この穴を上ってくるのは難しいでしょうし。それに、中層から帰還途中の人から何か情報が得られるかもしれませんしね」


 仁が同意すると、ミルも横でこくこくと頷く。


「決まりだな。ここまでは俺が先導したが、ここから中層まではノクタに先頭を任せる。今更言うことでもないが、魔物の奇襲に気を付けてくれ」

「はい」

「その後ろに兄ちゃんとミルの嬢ちゃん。二人は魔物の気配を察知し次第、知らせてくれ。それから、ノクタの盾で止めた魔物への攻撃を頼む」

「わかりました」

「わかったの」

「最後尾は俺とクランフスが担当する」

「心得た」


 ガロンの指示に、捜索隊の面々がそれぞれ応じる。即席パーティと言えど、上層で手こずるようなメンバーではない。それでも焦りや不安で足をすくわれることのないよう、仁たちは気を引き締めた。こうして方針の決まった捜索隊はダンジョンの中層に向けて急ぎ足で出発したのだった。


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