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奴隷勇者の異世界譚~勇者の奴隷は勇者で魔王~  作者: Takachiho
第七章

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7-14.対話

 唖然とする仁の前に、ドラゴンが降り立った。4本の太い脚が巨体を支え、鋭い爪が大地を穿つ。土埃が濛々と舞い上がり、大地に細かな影を落とした。


『まさか斯様かような地で竜語を解す人族に会おうとはな』


 目の前のドラゴンが言葉を発しているのはもはや疑いようのない事実だった。仁はなぜドラゴンの言葉がわかるのか疑問に思ったが、おそらく自身の持つ他言語理解の特殊技能の効果だろうと当たりを付ける。異世界人である仁にとって、こちらの言葉は人族のものだろうとドラゴンのものだろうと、未知の言語であるという点で変わりはなかった。そのため、技能の効果で人族の言葉が理解できるのであれば、竜語を理解できたとしてもおかしくはなかった。思えば、記憶を失っているときに超古代文字で書かれた無属性魔法大全が読めたのも、同じ理屈だろうと仁は考えた。


 仁は気を引き締め直すと、ふらつく両足を叱咤し、そびえ立つ壁のような巨体を見上げた。仁の話す言葉がこちらの世界の人の言葉に変換されているという事実から、仁がドラゴンに伝えたいと思って話せば通じるのではないかと思い至った。


『俺の言葉がわかりますか?』


 仁が口を開くと、それまで興味深そうに仁を眺めていたドラゴンの目が鋭く細められた。


『人族風情が竜語を口にするな。そのような真似をせずとも、我には通じる』


 ドラゴンの口ぶりから、仁はドラゴンが人族を下に見ているように感じるが、交渉の余地が生まれたことを歓迎すべきだと考えた。短い時間ながらドラゴンと相対したことで、仁はラストルの言葉の正しさを思い知っていた。仁は帝都にいるはずの玲奈たちを助けようとコーデリアの許しを得て飛び出して来たものの、コーデリアとセシルの未来を守るためにはドラゴンをこのままにして帰るわけにはいかなかった。


 仁は焼け野原としか言いようのない、様変わりしてしまった帝都の街を見遣る。メルニール程の活気はなかったものの、名前も知らない大勢の人々がその日その日を精一杯生きていたはずだった。仁は唇を噛みしめながらも、これ以上被害を広げないことを最優先に定める。仁はゴクリとのどを鳴らし、ドラゴンの目を見ながら口を開いた。


「攫われた子竜を助けに来た火竜ファイヤードラゴンとお見受けしますが、間違いありませんか?」


 仁はてっきり囚われていた炎竜フレイムドラゴンの親竜が助けに来たものだと思っていたが、遠目にドラゴンの姿を確認した際に鑑定の魔眼を使ったところ、炎竜フレイムドラゴンではなく火竜ファイヤードラゴンと表示されたのだった。不機嫌そうにしていたドラゴンの瞳が鋭さを増す。


『貴様。なかなかに事情に詳しいようだな。竜語を理解できる人族に懐かしさを覚え、気まぐれに話でもしてみようかと思ったが、慣れないことも偶にはしてみるものだな。それで、卵は無事なのか?』

「はい。無事卵からかえられていて、先ほど不届き物の手から奪い返しました。今は子竜をお返しする準備を行っているところです。お怒りはもっともだと思いますが、このままお待ちいただければと思います」

『そうか。森に潜んでいた者らの様子から当たりを付けて来てみたが、大当たりだったようだな』


 仁が頭を下げると、頭上から落ち着いた声が降ってきた。出てしまった甚大な被害をなかったことにはできないが、このままドラゴンが大人しく帰ってくれるのであれば、今後起こったかもしれない被害をなくすことができると、仁は内心でホッと息を吐いた。


『では、滅ぼすのはこの街だけにしておこう』


 バッと仁が体を跳ね上げる。ドラゴンのワインレッドの瞳が妖しい輝きを放っていた。


「お待ちください! 卵を盗み出した者らは同じ人族の手によって必ず罰を与えます。もし自ら手にかけたいと言うのであれば、この場に連れてきます。ですので、これ以上何の罪もない人々の命を奪うのはお止めください!」

『全くもって勝手なことを言う。人族が先に約定をたがえ、我らの領域に手を出したのではないか。我は正当な報復を行っているに過ぎぬわ』

「報復する相手が違うと言っているのです。手を出した者だけに報復するのであれば何も言いません。自業自得なのですから。報復されたくなければ報復されるようなことをしなければいい。ですが、今この地であなたが殺し、これから殺そうとしている人々は、何の関係もない人たちです!」


 仁は必死に説得しようと試みるが、もはやドラゴンは仁を見ていなかった。仁がドラゴンの視線を辿ると、赤色甲冑を纏った上級騎士を筆頭とした一団が武器を手に近付いてきていた。


『面白い。群れるのが人族の特技だったな。我が数でどうこうなる存在だと思うたか』


 ドラゴンが巨大な翼を羽ばたかせると、ドラゴンの周囲に強烈な風が巻き起こった。仁は倒れそうになるが、足腰に力を込めて何とか耐える。真上に舞い上がったドラゴンは仁には目もくれず、近づく帝国軍に向けて飛び立った。


「くそっ」


 仁は悠然と飛び去るドラゴンの後ろ姿を見つめながら、やはり戦うしかないのかと覚悟を決める。今頃は帝都の外に逃げているであろう玲奈たちはともかく、このまま城が襲われれば、コーデリアやセシルの身にも危険が及ぶ。仁はアイテムリングから取り出した回復薬ポーションを煽るように飲み干すと、ドラゴンより遥か上空に目を向け、両手を伸ばした。


 仁は意識を集中させ、大気中に漂う魔素を上へ上へと辿っていく。硬く、重く。仁は両手の指のそれぞれから大気中に魔力を通し、イメージを固める。


 仁が遠隔魔法を発動させようとしている間、ドラゴンに襲われた帝国軍は散開して魔法や弩、弓で迎え撃つが、何の障害にもなっていなかった。ドラゴンは“魔封じの檻”のように魔法自体を無効化しているわけではなく、単純に火力不足。遠隔攻撃に魔法を用いるのが常識の世界では弩や弓は数も練度も足らず、また、上空を飛ぶドラゴンの鱗を貫くほどの攻撃力は有していなかった。ドラゴンが口から炎を吐く度に、帝国騎士や帝国兵たちは成すすべなくその命を散らしていった。


 仁が魔法の照準を合わせようとドラゴンの動きに目を向けると、唐突に炎の渦の中から3体の灰色の体を持った巨人がゆらりと姿を見せた。それは仁と玲奈がメルニールで戦った魔人(もど)きだった。仁は魔人擬きが火に耐性を持っていたことを思い出す。仮に魔人擬きがドラゴンを倒せたとして、その後、暴れるだけで制御のできない魔人擬きをどうするつもりなのか、仁はガウェインに問いただしたい思いだったが、それ以前の問題だった。魔人擬きが5メートルを超える巨人だろうと、それより高いところを飛ぶドラゴンには関係なかった。


 魔人擬きはドラゴンに向かって咆哮を上げていたが、ドラゴンが若干の警戒を孕んで上空から見下ろしていると、魔人擬きは諦めたのか、帝国軍の生き残りを襲い始めた。仁は思わず頭を抱えそうになるが、ドラゴンは自らの炎が効かなかったことにプライドを傷つけられたのか、魔人擬きに向かって突進を敢行した。ドラゴンは1体の魔人擬きを跳ね飛ばすと、前足で頭部を踏みつぶす。長い首をしならせ、ビクビクと跳ねる魔人擬きの体を焼き尽くさんと至近距離から火炎の吐息ブレスを放った。円状に広がっていく炎が辛うじて生き残っていた帝国兵たちを飲み込んだ。


 動きを止めたドラゴンの背に、2体の魔人擬きが飛び乗って歯を立てるが、竜鱗を貫くことはできず、苛立たしげに拳を叩きつけた。ドラゴンは煩わしそうに体を揺すると、空に飛びあがって魔人擬きを振り落す。ドラゴンの炎に焼かれていた魔人擬きは体を黒々とした灰に変えていた。


 地に叩きつけられた魔人擬きが空に向かって言葉にならない言葉を喚き続けていると、ドラゴンは急降下で近づき、強靭な尾の一撃を放った。極太の尻尾で脳天から押しつぶされるように左右に割られた魔人擬きが灰となって辺りに散り、残った最後の一体は獣のような咆哮を放ってドラゴンの首に飛びついた。ドラゴンは再び振り落とそうと上空に飛び上がるが、首にしっかりと腕を回した魔人擬きは先ほどのように簡単に落とされることはなかった。


 ドラゴンは煩わしそうに首を激しく振るが魔人擬きはしがみ付いて離れない。ドラゴンは大きく翼を広げ、顔を下に向けて火炎の吐息ブレスを放つ。怒りに任せた吐息ブレスが魔人擬きの背を焼く。


「今だ! 岩弾雨ロックレイン!」


 仁は上空でもがくドラゴンの翼目掛けて、遠隔魔法を発動させた。


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