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奴隷勇者の異世界譚~勇者の奴隷は勇者で魔王~  作者: Takachiho
第六章

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6-28.報告

「特に勇者が召喚されたといった話は聞きませんでした」


 リリーの報告に、玲奈の表情が沈む。マークソン商会の商隊が帝都に付いてから数日間、玲奈はミルやロゼッタと一緒に、マークソン商会の懇意にしている高級宿屋の一室で缶詰め状態になっていた。玲奈たちの身を案じたリリーやマルコの配慮によるものだったが、自らの足で仁の手掛かりを探すことができない現状に、玲奈たちはもどかしい思いを抱えていた。玲奈たちの代わりに情報収集に動いていたリリーは手元のメモ帳に視線を落としながら、真剣な表情で報告を続けた。


「ただ、それとは別に、ちょっと気になる噂がありまして」

「というと?」


 玲奈が続きを促す。ミルもロゼッタも、真剣な面持ちでリリーを見つめた。


「最近、帝国軍に奴隷騎士隊っていう新しい部隊が新設されたみたいなんです」

「奴隷騎士隊?」


 玲奈は首を僅かに左に傾けながらリリーに聞き返した。


「はい。仁さんが消えてから帝都周辺で起こった、それまでと変わったことを調べていたところ、最も世間で話題に上がっていたのが、それでした。帝都周辺での魔物被害の増加も騒がれていましたが、こちらは仁さんがメルニールから消える少し前から起こっていたようなので、あまり関係はないと思います」

「それはどういう部隊なの?」


 玲奈は魔物に襲撃された村で出会った青髪の奴隷の少女を思い出した。セシルは自身を帝国の準騎士だと名乗っていた。


「なんでも、奴隷だけで構成された部隊で、隊員は奴隷の身でありながら帝国騎士に準じる身分だそうですよ。主に近隣の村や街に派遣されていて、魔物の討伐をしているそうです。奴隷の扱いの悪い帝国ではとても珍しいことに、評判は上々で、実際に派遣された村々からは帝都に感謝状が送られてきているようで、帝都の一般市民の間でも話題になっていました。帝国がこれまで国内の魔物対策を怠ってきたことも影響しているようですが、特に、帝国騎士の身分でありながら、傲慢な態度を取らない点が好評なようです」

「騎士でも奴隷なんだから、謙虚で当然とは思われないのかな」

「そこはやはり、帝国騎士だという事実の方が強いんでしょうね。帝国騎士は一定の裁量権を持っているので、平民にしてみれば意見するだけでも命がけの存在ですし」

「なるほどね」


 玲奈は納得したというように相槌を打つが、徐々にその表情を真剣なものへと変える。玲奈の横で、ミルがそわそわと犬耳を小刻みに動かしていた。


「それで、その、リリーが気にするっていうことは、奴隷騎士隊と仁くんには関係がありそうなの?」

「それなんですけど、奴隷騎士隊が活動を開始したのが、ジンさんがメルニールから消えた二日後なんです」


 玲奈たち3人は同時に息を呑んだ。ルーナリアの推測が正しければ仁は帝国の奴隷となっている可能性が高く、そうであるならば同時期に設立された奴隷騎士隊と無関係である可能性は低いと思われた。


「ヴォルグさんの伝手を使って帝国騎士に探りを入れたところ、設立はその一日前。つまり、ジンさんがいなくなった翌日です。そして、隊長のジークという奴隷騎士が、その日のうちに上級騎士でもある帝国第一皇子と決闘を行い、あっさりと勝利したそうです」


 第一皇子という単語に、玲奈は両肩をビクッと震わせた。


「その場に居合わせた騎士によれば、第一皇子の顎を膝蹴りでかち割ったとか。余談ですけど、第一皇子は回復魔法ですぐ完治したものの、『顎が~顎が~』とうわ言のように繰り返していたそうです」


 まるでその目で見てきたようなリリーの名演技っぷりに、玲奈は思わず小さく噴き出した。怯える玲奈の目の前でガウェインの顎を蹴り上げた仁の姿が、今でも玲奈の脳裏に焼き付いていた。玲奈にとってガウェインとの出来事はとても辛い思い出だったが、仁との距離が近付いた大切な思い出でもあった。会ったことのないジークという奴隷騎士の姿が玲奈の脳内で仁に重なる。


「仁くんも、その奴隷騎士隊に所属してるのかな」

「それなんですけど、どうも、奴隷騎士隊は隊長のジークさんと見習い騎士1人の2名みたいなんです。増員の噂はあるみたいですけど」

「そうなんだ。そういえば、道中の帝国の村で出会った準騎士のセシルさんも奴隷だったけど、奴隷騎士の所属している部隊は奴隷騎士隊の他にもいろいろあるのかな? 確かセシルさんは遊撃騎士隊って言ってたけど」


 玲奈が小首を傾げる。リリーのパッチリとした瞳がキラリと光った。


「今のところ、奴隷騎士が所属している騎士隊は、奴隷騎士隊だけみたいですよっ」

「え。どういうこと?」

「レナさん。噂の奴隷騎士隊は通称で、遊撃騎士隊が正式名称なんですっ!」

「そ、そうなんだ」


 徐々にテンションを上げて勢い込むリリーに、玲奈は身を引きながら戸惑いの表情を浮かべた。


「あれ? 隊長がそのジークさんで、唯一の隊員がセシルさんなら、仁くんは関係ないっていうこと? セシルさんも2人だけの騎士隊だって言ってたし」

「レナさん、レナさん」


 リリーがうずうずと体を捩りながら、喜色を浮かべながら玲奈の名を連呼する。赤髪のツインテールが小さく揺れていた。玲奈はリリーの様子に、ますます戸惑いの色を強くする。


「それがですねっ、なんとっ、そのジークさんがっ、ジンさんなんですっ!」


 玲奈はリリーが何を言っているのか理解できず、目を丸くしたまま動きを止めた。それは隣で話を聞いていたミルとロゼッタも同様だった。そんな3人を前に、リリーは悪戯を成功させた子供のような、邪気のない得意げな笑みを浮かべていた。


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