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奴隷勇者の異世界譚~勇者の奴隷は勇者で魔王~  作者: Takachiho
第六章

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6-3.称賛

「ヴォルグさん……!」


 応接室に足を踏み入れたヴォルグは真っ直ぐにルーナの元へ歩み寄ると、床に片膝をついてこうべを垂れた。


「ヴォルグ。久しいですね」

「ハッ」


 ルーナリアはソファから立ち上がり、ヴォルグの前に立つ。


「あなたがわたくしのために力を尽くしてくれていたことには感謝しています。しかし、欲に塗れた卑劣な輩に手を貸し、他者の奴隷を力づくで奪い取ろうなど、言語道断です。ましてや何の罪もない子供たちを人質に取るなど、あなたのしたことは決して許されることではありません。あまつさえ、事情を知るあなたがジンに手を出すとは。恥を知りなさい」

「返す言葉もございません」

「本来ならば帝国の法に則って処断すべきではありますが、あなたの処遇はメルニールに委ねられました。二度と過ちを起こすことなく、職務に励みなさい」

「ハッ」

「では下がりなさい」


 ヴォルグは立ち上がって一礼すると、踵を返して応接室を後にした。ルーナリアがロゼッタに向き直る。


「ロゼさん。帝国貴族がご迷惑をおかけしました。カマシエ家にはわたくしから二度と手出しをせぬよう釘を刺しておきました。帝国に名を連ねる者として、どうか罪滅ぼしをさせてください」

「と、とんでもございません。幸いにもジン殿らのおかげで無事だったことですし、そのお言葉だけで十分でございます」

「ロゼさん……。どうやら、これ以上はわたくしの自己満足になってしまいそうですね。わかりました。でも、今後何か困ったことがありましたら、ぜひお力にならせてくださいましね」


 ルーナリアはロゼッタに微笑みかけると、続いて仁に向き直った。


「ジン。思うところはあおりでしょうが、わたくしを信じて、ヴォルグを護衛として雇うことを許してくださいませんか?」

「あの、それは構わないと言いますか、ヴォルグさんのルーナに対する忠誠心は俺も信用していますので、ルーナの護衛として最適だとは思いますが、その、帝国の方は大丈夫なんですか? 確かヴォルグさんはルーナの元を離れて第二皇子の部下になっていたはずですが」

「それは大丈夫でしょう。ヴォルグが兄に手を貸していたのはわたくしの地位の回復への助力を求めての内々のもので、公式にはわたくし付きの近衛隊長のままでした。そして今回のメルニール行きを受けて近衛隊は解散し、隊員はそれぞれの部署に配置換えになり、その際に犯罪者としてメルニールに捕らえられていたヴォルグは帝国騎士を罷免されています。メルニールに滞在している間、わたくしが私費で護衛を雇うことに何の問題がありましょう」


 仁はルーナリアの話に納得し、帝国騎士という職と地位を無くしたヴォルグに少しだけ同情心を抱きつつ、バランに視線を送る。


「子供たちの誘拐に関しても、ヴォルグが子供たちに危害が及ばないよう注力していたと子供たちから証言が得られている。メルニールとしてはあくまでもダサル・カマシエの罪として処理することになった」

「そうですか。それなら俺はとやかく言うつもりはありませんよ。ヴォルグさんなら腕も確かですし」

「そのヴォルグに何もさせずに打ち倒したお主が言うと、皮肉にしか聞こえんがな」


 バランが上機嫌で笑い声をあげ、釣られたように周囲にも伝播していく。仁は不満げに唇を僅かに尖らせた。


「さて。とりあえずはこんなところでいいだろう。屋敷に関しては後ほどエクレアに案内させるとして、そろそろ祝勝会を始めるとしよう」


 バランの言葉に、ミルがソファから飛び降りて目を輝かせた。ミルの尻尾がパタパタと揺れていた。




 ルーナリアと別れて冒険者ギルドを出た仁たちがダンジョン前の広場に戻ると、祝勝会の会場前で見知った顔が仁たちを迎え入れた。広場を囲うように設置されていた屋台が広場の中にも何本もの列を成して立ち並び、人々がその間を行き交っていた。


「よお。兄ちゃん。嬢ちゃんたちも。待ちわびたぜ。さあ、こっちだこっち」


 仁たちはガロンに先導され、屋台の間の道を進む。メルニール中の人が集まっているのか、辺りは人々で埋め尽くされていた。


「おーい、ちょいと通してくれ。英雄ご一行のお通りだ。通してくれねえと祝勝会が始まらねえぜ!」


 ガロンが大声を張り上げると、足を止めた人々の視線が仁たちに集まる。仁たちの周囲だけ祭りの喧騒が消え去った。


「ちょ、ちょっと、ガロンさん。いくらなんでもそれはないでしょう!」

「なんでだ? もうみんな待ちきれねえんだ。ほれ。周りを見てみな。我慢できずに食い始めてる奴はいても、まだ誰も酒に手は出してないんだぜ」

「いや、そういうことではなくてですね……」


 抗議する仁の言葉が小さく消える。仁はガロンの物言いがメルニールの住人から反感を受けるのではと恐る恐る周囲を見渡した。数えきれないほどの双眸が仁たちに向いていた。


「おい。あれが噂の魔王か?」

「いや、勇者だろう?」


 辺りからひそひそと話し声が聞こえた。ざわざわと囁きが広がっていく。


「勇者は主人の女の子だって聞いたぜ? で、その奴隷が魔王らしい」

「いや、奴隷も勇者って話だぜ?」

「奴隷勇者か」

「まあ、この際何だっていいさ。街を救った英雄には変わりない」

「そうだ英雄だ」

「黒髪黒眼に隷属の首輪。やっぱりそうだ。あいつが街を救った英雄だ!」

「おお! 英雄だ!」


 戸惑う仁たちを余所に、周囲の熱気が膨れ上がる。


「じゃあ、隣のかわい子ちゃんが英雄と共にあの化け物を倒した勇者様か」

「輝くようなあの黒髪、間違いないな」

「結婚してくれ!」

「んで、英雄の手を握ってるちっこいのが、小さな聖女様か?」

「ああ、そうだ。俺も治療してもらったから間違いねえ!」

「負傷者の間を跳びまわって回復魔法を唱え続ける愛らしい姿は語り草だぜ」

「結婚してくれ!」

「じゃあ後ろにいる別嬪さんが噂の白槍はくそうか!」

「内通者を打ち倒して街を救ってくれたらしいぞ」

「ああ。不幸どころか俺たちのために命がけで戦って勝利と言う名の幸福をもたらしてくれたんだ。白虎族の言い伝えなんて当てにならないぜ!」

「誰だよ。あんな美人さんが不吉だなんて言ってた奴は。あれか? ブス共の嫉妬か?」

「結婚してくれ!」

「おい! さっきから求婚してるやつ、全部同じ奴だよな。守備範囲広いな!」

「小さな聖女様はさすがにまずくないか? もちろん年齢的な意味で」


 どよめきとざわつきが噂話と共に広がっていく。


「男どもは何言ってるんだい。みーんな英雄様の御手付きに決まっているだろう」

「英雄色を好むって昔から言うしねぇ」

「私も抱いてくれないかしら」

「英雄くん、どんなにごつい男かと思っていたけど、案外可愛いじゃない」

「食べちゃいたいわぁ」

「結婚してくれ!」


 送られる称賛と掻き立てられる噂話に、仁たちは困惑の表情を浮かべて立ち尽くす。ミルは何がどうなっているのか理解できず、仁の手を握る手に力を込めた。


「ジンさーん!」


 ミルを安心させようと仁が空いた手をミルの頭に乗せるのと同時に、人垣を掻き分けて赤髪の少女が姿を現した。


「やっぱりジンさんだ。この一角がざわついていたから、もしかしてと思って飛んできちゃいましたっ」


 仁に駆け寄り、息を切らせてツインテールを上下させるリリーに、再び周囲の噂話に火が付く。


「あれって、マークソン商会のリリーちゃんじゃないか?」

「え。もしかして、あの子も英雄の毒牙に……?」

「あ。思い出した。戦争が始まる前、2人が仲睦まじくデートしてたって一部で噂になってたぜ」

「なんだと! 英雄のやつ、うらやまけしからんな! これぞまさに魔王の所業!」

「勇者様! ここに魔王がいますよ!」

「バカ! 勇者様は魔王の隣にいるだろ!」

「なんと! もう手遅れでしたか!」

「というか、英雄は魔王でも勇者でもあるんだろう? もう何が何だかわからんな」

「誰か結婚してくれ!」


 ますます盛り上がる周囲を余所に、リリーは仁の手を取る。


「さあ、ジンさん。早く行きましょう!」

「さぁ道を開けた開けた!」


 パンパンと手を叩くガロンに続き、仁たちは野次馬根性丸出しの群集に見守られながら歩みを再開した。しれっと玲奈から仁の隣を奪い取ったリリーが仁の肘に腕を絡ませる。仁たちに向けていつまでも絶えることなく投げかけられる言葉は、全て温かなものだった。


 仁たちが広場のほぼ中央に用意された席に辿り着くと、街の鐘が大きく鳴り響き、広場に集まった人々が勝利の雄叫びを上げた。メルニール中が大音響に包まれ、空気を震わせる。人々は手にしたグラスやコップを打ち合わせ、大口を開けて飲み下した。祝勝会の始まりだった。


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