第三話 祖母
家に着いた僕たちは時間を確認する。今日は少し早めの昼食をとり、ポン吉と話したりして家を出た時間が十三時ごろだった。
現在の時刻は十六時だから約二時間は外に出ていたということになる。
動物を探し回っていた時間もあったからこれが妥当な時間ではあるか。
「おい、ハル。お前さっき自分は何もしていないみたいなこと言っていたな?」
「あぁ、聞き込みもうまくできなかったし仲介屋としての仕事は何もできていないよ」
「初めてだから仕方ないだろ?」
「そうであったとしてもだよ! 仲介屋ってのは大切な仕事なんだろ? おばあちゃんがやってきた仕事なんだから僕もしっかりやらなくっちゃいけないだろ?」
「ハル、本当にそう思ってるのか?」
「当たり前だ! 僕はおばあちゃんの血を引いているんだ。初めてだろうとなんだろうと成功させなくちゃいけないんだよ」
「お前は責任感を持ちすぎだな。引き継ぐ気なんてないと言っていたお前がよく言う」
「……それは……」
何も言えなかった。
僕の中でも状況の整理ができていないことが何よりの証拠である。
どうして僕だった。
何でおばあちゃんは僕なんかに子の力を託したんだ。
考えれば考えるほど絡まって苦しくなっていく気がした。
「さっきも言ったが、初めから何もかもできるなんて俺は思ってない。何も分からなくていいし、何できなくっていい。誰がハルにそんなこと頼んだ? お前のばあさんだって何から何までひとりでやってたわけじゃないんだぞ? 歳だったしそれぐらい分かるだろ?」
「……それはそうだけど」
「お前が今やるべきことは流れを掴むことだ。この仲介屋って仕事は覚えても意味がない。書類とか書くわけじゃないんだからな。必要なのは状況把握と次の行動のとり方だ。さっきの聞き込みだってそうだ。俺とかムーは動物にしか話しかけられない。だが、ハルはどちらにも話しかけることができる。だからさっきも人間と話していたんだろ? 焔とだって話していたしな」
「でも、こんな足手まといがいたら……迷惑だろ?」
「馬鹿が……迷惑じゃない。むしろそれでお前が成長できるなら俺達にとってこの上ないほど嬉しいことだ。本来あるはずのない【仲介屋】って仕事がまた現れたというのは動物にとっては希望なんだよ。けど、それについての責任とかは感じるな。今言ったとおり、普通は仲介屋なんてないんだ。あるところは本当に幸せなところだ。だから、あんま言いたくはないが……」
ポン吉は何か言いづらそうにしていた。
何か大切なことをごまかそうとしているのかと僕は思い、
「言ってよ。大切なことなんでしょ?」
「チッ、ばあさんが死んだあと、お前が継ぐことになって俺達は本当に嬉しかったんだよ。何もできなかったとかそんな悲しいこと言うな。お前は頑張ってたろ?」
ポン吉は顔を真っ赤にしているみたいだったけど、すぐにそっぽを向いてしまった。
「…………ありがとうポン吉……僕のこと気にかけてくれてたんだね?」
「うるさい、お前がまだまだガキだからだよ。早く大人になって泣き虫治せ」
「うるさい……」
ポン吉の話を聞いて落ち着いたので冷蔵庫から麦茶を取り出し、コップに入れて自分の部屋へと持っていった。
ついでにお菓子を多めに……。
ポン吉も食べるんだし食べすぎになるということはないだろう。
てか、ポン吉がかなり多めに食べるだろう。
僕はそんな自分に対する言い訳を存分にして自室に戻った。
自室に入るとあろうことかポン吉が僕のベッドでぐっすり眠っていた。
このクソ狸……。
「僕のベッドが獣臭くなるだろうが!」
「うわっ、なんだ!? ハル、貴様か! 泣き虫が何に言ってんだ!」
「うっ、うるせぇ! 泣虫とお前が僕のベッドでぐっすり寝ている理由は関係ないだろうが馬鹿狸!」
「おっと、いいのか?それ以上お前が俺のことを侮辱するとやっちゃうよ?」
「は?」
「いいのかい? 今日一日お布団が使えなくなっちゃうよ?」
「お前、まさか……マーキング!? お前絶対そんなことするなよ!? したらもう仲介屋なんてやめてやるからな?」
「辞めてやるじゃなくて辞められない奴が何言ってるんですか?」
こいつめっちゃくちゃウザくなったな。
このクソ狸には弱みを見せちゃいけない。
僕はもっと強くならなくっちゃいけないんだな。
このとき僕は強くなると誓ったのである。
「閑話休題……さて、とりあえず現状の確認をしよう」
「さて、じゃねぇよクソ狸、お前僕のお菓子をほとんど一人で平らげやがって」
「今回一番働いているのは俺なんだから当然だろ? それよりも、作戦会議だ」
「作戦会議って言ってもここまできたら待ち伏せるしかないだろ?」
「それもそうだが、誰に待ち伏せをさせるかも重要だ。俺やハルが行ってもいいんだが、あんまり早すぎるとお前の両親に怪しまれる。今回は仲介屋ということを話さないと決めているのだから極力それは避けたい」
「だったら、近くの猫たちに頼めばいいんじゃないか?」
「さっきも見たろ? 犬がいた。目的はシーナ一匹だとしてもあの犬が厄介だ。一番楽なのはあの犬を大人が散歩させて、子供がシーナのリードを持つならいける」
「どうしてだ?」
「子供の力はまだまだ弱いからな。とっさの状況についていけないはずだ。その間に一斉に襲ってリードごと奪っちまうのがいいだろう。もちろん、この作戦にはお前は参加するな。俺やムーが【動物の状態】でやる。それじゃないとそれこそ罪に問われる」
「わかった。じゃあ、それでいこう」
作戦としてはなんとなく決まった。
しかし、これだけでいいのかという不安も正直かなりあった。
なにせ、思いついたとしても人間が簡単にできる作戦ではない。
それは動物であっても変わらないことのはずである。
それをやるのだから多少の覚悟はしなければいけない。
「どうして……」
「あ?」
「あっ、ごめん。どうしておばあちゃんは仲介屋をやっていたのかなって……」
「知るか」
この馬鹿狸には二度とこの質問をしない。
僕はそう固く決意した。
が、次の言葉に耳を疑った。
「ばあさんの祖母も仲介屋だったようだ」
「初耳なのですが」
「当然だ。俺は今までこの話を誰にもしていないんだからな」
「てことはそれを知っているのはポン吉だけ?」
「あぁ、そうだと思う」
先祖代々引き継がれるようなものなのだろうか……。
自分の血が繋がっていないと引継ぎができないとか?
おばあちゃんのおばあちゃんってことは一つ飛ばしでしか引継ぎができないってことなのか?
いろいろなことが頭を駆け巡っていると、
「頼まれたらしい」
「え?」
「ばあさんのばあさんが死ぬ間際に動物たちの力になってあげてくれってよ。っ宅、人間のくせに生意気だ。自分の命すらまともに引き伸ばせないってのに……」
「いい人だったんだね……僕のひいひいおばあちゃん」
「さあな。俺も会ったことはない。だが、ただの仲介屋じゃなかったらしい。この仕事をしていればお前もいつか会えるかもな」
「会えるわけないだろ? 何十年前の話だよ」
「さあな? いつか分かるさ。さて、今日の飯は何だ?」
「知らん、何が食いたい?」
「肉、魚、てんぷら、フライ、あとは……狸鍋?」
「お前共食いも大丈夫な狸なのかよ」
明日はいよいよシーナを取り返しに行きます。
僕の仲介屋としての仕事はうまくいくでしょうか。
今からどきどきです。




