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仲介屋 ハル  作者: 梅谷 雅
3/4

第二話 依頼内容と偵察

「ムー、取り戻してくれっていうのはどういうことだ?」

「実は数日前に娘とはぐれてしまって……」

「居場所は分かっているんですか?」


 取り戻してくれというぐらいなんだからすでにムーの娘さんのいるところはわかっているということになるはずだ。

 危険が及ぶところだったら仲介屋の出番というよりも専門の業者を僕が呼んで助けてもらったほうがいいかもしれない。


「ある一軒家にいます」

「あぁ、そういうことか。ハル、この仕事めんどくさいぞ」


 ポン吉はすぐにそのことに気づいたらしい。

 僕はまだ状況についていけていない。

 しかし、


「めんどくさいって言っても仕事だろ? それに、ムーさんの力になりたい」

「いいんだな?」

「うん、やってみる」

「……分かった。ムー、俺から一つ条件をつけてもいいか?」


 ポン吉は少し考えてからそう言った。

 取り戻してくれというのはやはり難しいのだろうか。

 仲介屋としての経験が浅い僕にはまだ想像ができないことだった。


「なんだい?」

「ハルの人間関係に問題が起こりそうになったらこの依頼はやめさせてもらう。こいつはばあさんと違ってまだ人間とのかかわりを捨てていいやつじゃない。ハルの両親も薄々だが能力に気づいてきている」


 依頼内容よりこっちのほうがびっくりした。

 僕の両親が気づいている? 

 おばあちゃんみたいに僕もいろんな人から変な目で見られるようになるということ?

 僕の頭の中はそんなことで駆け巡っていた。


「ハル、安心しろお前の両親はお前の味方だ。しかも、頼りになりすぎるぐらいにな」

「え? どういうこと?」

「お前の両親はばあさんが俺達と話せるということに気づいていたんだが、俺達はあの二人と会話することができない。だが、あの二人のすごいところはそれでもばあさんの手伝いをしようとしていたことだ」

「まって、おばあちゃんのこと嫌いだったんじゃないの? 避けてたんじゃないの?」

「違う、それだったらお前のことを預けたりなんかしない。むしろばあさんからお前に伝えられることを全て伝えてもらおうとしていたぐらいだ」


 なんだよそれ。

 僕だけが知っていると思ったことは実は父さんも母さんも気づいていて……それでも僕をおばあちゃんに近づけていた?

 何のために?

 まさか【仲介屋にするため】に?


「おっと、変なこと考えているようだね。ハル君、あなたのご両親はそんなひどい人じゃないよ。大切な人を大切な人に預けようとしていたんだ。それが信じられないかい?」

「ムーさん?」

「たく、仲介屋が依頼人の世話になりそうになってんじゃねぇよ。安心しろ、ムーの言うとおりだ。お前が生まれる前にばあさんがお前の両親に話してたことがあるんだよ」


“お前たち二人は私のことを心底信じてくれてる。本当に嬉しいことだよ。でも、私のためにお前たちの立場まで悪くする必要なんてない。これからお前たちの子供も生まれるだろ? その子にまで迷惑かけちまうよ”


「ってな」

「でも、僕はこうして仲介屋を継いでるじゃないか!」

「それは自業自得だ。自分で動物と話せるようになりたいなんて言ったんだからな。お前の両親も仲介屋にする気はなかったみたいだぞ?」


 葬式のとき、僕がポン吉が喋っていると知り、大声を出した。

 親戚一同は僕に冷たい視線を送っていたのを覚えている。

 こうして仲介屋を継ぐことになり、ポン吉からおばあちゃんの話を聞くたびに思うのだが、どうして何も悪くない人が苦しまなければいけないのだろう。

 おばあちゃんは何も悪いことをしていない。

 むしろ、動物たちの力になれるような優しい人だった。

 そんな人を軽蔑していたんだ。

 でも、あのとき……葬式のときの両親の目は他の人たちとは違っていた気がする。

 あのときの父さん、母さんはなんというか……悲しそうな目で、何かを決意したような目で……。

 そうか、


 父さんと母さんは僕が【仲介屋を引き継いだ】ことをあのとき知ったんだ。


 だから、他の人とは違う目をしていたんだ。

 きっと悲しそうな目は僕にこれから起こる可能性を考えたからだ。

 決意したような目は僕を守ると決めたからだ。

 だったら、僕は……


「父さんと母さんにはこのことを話しちゃ駄目?」

「ふふっ、お前が私の依頼をクリアしたらいいよ。本来は言ってもいいと言う所だけど、今のハル君がいうと余計な心配かけるよ」

「わかった、やるよ。ムーさん。娘さんが何をしているかとかは分かる?」

「ペットとして飼われているんだよ」

「え?」


 ムーさんは話を続けた。


「数日前にあの娘のために食事を取りにいってね。ちょっと帰りが遅くなっちまったんだよ。そしたら、あの娘、棲家にいなくてね。うん、どこに行ったかもそのときは分からなかったの。近所の猫とか散歩中の犬に声をかけてみたりはしたんだけど見つからなくてね。次の日も探し回ったんだけど見つからなくて、その日の夜に私のところに近所のネコさんが走ってきてくれて【人間の子供が私の娘を攫って行った】って言うんだよ。私はそれ聞いてすっ飛んでいったの。そしたらあの娘ったらとても怯えていて……私だってあの娘の幸せを考えているからもしあの娘がその家で住むのがいいって言ったらそれも致し方ないとは思うけど、庭まで行ってあの子がわたしのところに走ってきて【お母さん助けて】って言うの。母親として助けなくちゃいけないと思ったわ。近所の猫さんたちにもそのことを話して協力してもらったの。え? あれよ、その家の庭に行ってみんなで抗議デモ。それも駄目だったわ。なんか猫よけ? とか言うのだったり、私たちが苦手なグッズをたくさん用意して……私たちはあの家に近づけなくなっちゃったの。そこで頼るべきは仲介屋さんだったんだけど、おばあさんお亡くなりになってしまって……でも、鳳雅がお葬式に参列したときに二代目らしき人がいたっていうから来たってわけよ」


 この猫さっきまでとキャラ違くない?

 こんな饒舌なおばさんキャラだったの?

 抗議デモとかさらっと迷惑なこともやってるし……。

 でも……デモ……でも! 自分の娘が知らぬ間に人間に飼われていたってことを考えると今回は人間が悪いってことになるのか。


「ポン吉、前にムーが言ってた理不尽なことっていうのはこういうこと?」

「……そうだな、これも一つだ。俺は今回の依頼はもっとひどい可能性があると考えていた。それに比べるとまだましだな」

「どんなことだったの?」

「人間は人間でも【ペットとして飼うわけ】ではなく、【保健所】っていう動物の施設に連れて行かれることだ。場合によっては殺処分される。まぁ、アプローチの難しさで言ったら今回のほうがおそらく難しい。まずはその家の人間と親しくならなくちゃいけないからな」


 アプローチの仕方。

 確かにポン吉の言うとおりだ。

 保健所のような施設であれば電話ないし直接行って交渉という方法もあったかもしれない。

 未成年どころか小学四年生の僕にはできる限界があるが、まだ何とかなりそうな気がした。

 しかし、場所が分かったとしてもその家がまったく知らない人であった場合、僕はどうアプローチをかければいいんだろう。

 外から猫が見えてかわいいと思ったので触らせてください?

 それでもし仮に願いが叶ったとしたら、次の問題、【どうやって連れ帰ってくるか】に直面する。

 ムーさんの娘さんがその時点で逃げ出してくれれば別だが、もし逃げられなかったら?

 また新たな手を考えなければいけなくなる。


「ムー、ここにいても始まらない。まずはその場所に案内してくれ」

「わかったわ、ついてらっしゃい」


 そう言ってムーは来たときと同じように僕の部屋の窓から出て行った。

 猫というだけあってやはり高いところから飛び降りるのは難なくこなせるらしい。

 ただ、そのあとに僕らの方を向いて早く飛んでらっしゃいといっていたが、それはできない。

 僕はしっかりと戸締りをしてムーさんの後を追いかけることにした。


「まったく、どうして俺がまた人間なんぞに化けなっくちゃいけないんだ。さっきのままでも十分だったではないか」

「そういうなよポン吉。周りの人から見たら狸と猫についていく怪しい子供みたいなワンシーンになっちゃうんだよ」

「人間は本当に人目を気にする生き物だな。あんまり考えすぎない方が将来幸せになれるぜ?」

「…………うん、きっとその通りなんだろうね」

「どうした? 何かあったか?」

「ううん、なんでもないごめんよ」


 僕の家から徒歩で10分ほど歩いた家だった。

 決して大きいといえる家ではなかったが、一軒家のお家でちゃんと庭もある。

 日当たりもよく、洗濯物がよく乾きそうなお家だった。

 外から見た限り、娘さんがいるようには見えなかったけど、カーテンのところから動物の影が見えた。


「あの影が娘さん?」

「待ってろ、俺がちょっと行ってくる」

「ポン吉、お前が待て。今のお前は狸の姿じゃないんだよ。人間のまんま入ったら不法侵入になるだろう」

「……………………違う」

「「え??」」

「ちょっと待ってて」


 ムーさんはそう言うと庭付近まで行ってその場に座り込んでしまった。

 猫除けがある影響だろうか?


「私の娘はそこにいますか?」


 ムーさんは大きな声を出した。

 人間がその大きさを出したら軽く騒ぎになるといってもいいぐらいの大きさだ。

 人間では仲介屋しか聞えない声。

 どうしてか少し悲しくなった。

 仲介屋にしか聞えないということはこのムーさんの悲壮に満ちた声は人間には届かないのだ。

 人間には決して届くことのない声。

 名前も分からない、家の中にいる動物には届いているはずだ。

 その動物はなんと答えてくれるだろう。


「誰だ?」


 家の中からそんな声がした。

 少し低めの声でけったるそうな声だった。


「昨日この家には小さな猫がいたと思います。その子は私の娘なんです。どうか、私の元に……」

「あぁ、彼女か。いないよ」

「え?」

「悪いが、今日の朝どこかに連れて行かれた。病院と呼ばれるところか俺も初め思ったんだが、違うみたいだ。里親? ってのが見つかったとか言っていたな」


 僕はその声もしっかり聞えていた。

 里親が見つかったということはここに娘さんが帰ってくることはない。

「…………」

「ポン吉?」

「急いだほうがいい。とにかく情報を集めるんだ。長引くとこっちの世界には帰ってこれなくなってしまう」

「ちょっ、それってどういうこと?」


 ポン吉は僕の質問には答えず狸の姿に戻りとっととどこかへ行ってしまった。

 帰ってこれなくなるって……。


「ムーさん!」

「あぁ、ハル君。娘は……どこへ行ってしまったの?」

「……探しますよ。仲介屋として、必ず」

「ムーさん、まずは情報収集です。ポン吉は先に行きました。僕たちも行きますよ」


 ムーさんは力なさげに僕とは反対方向へと進んでいった。

 せっかく見つけた娘さんの居場所がまた分からなくなったんだから当然か。

 早く見つけてあげないと。

 と言っても、野良猫だったり、野鳥だったりはどうでもいいときは意外といるように感じるが、探しているときは見つからないものだった。

 かれこれ20分ほど探しているが一匹も見つからない。

 仲介屋って大変だな。

 おばあちゃんはどうやってこんな情報収集とかしていたんだ?

 年齢も当然若くはないので老人がやる仕事としては向かない仕事である。

 それなのに続けていたのはやっぱり自分しかできない仕事だっていう使命感みたいのだったのかな?

 そんなことを考えていると僕の前を一匹の狐が通った。


「狐!?」

「うわっ、何だお前!」

「あっ、脅かしてごめん。二代目仲介屋をやっているハルといいます。ムーさんという猫の娘さんを探しているんですけど何か知りませんか?」

「ムー? まさか、猫のムーさんか?」


 え? ホントにその名で通る猫なの?

 訴えられても知らないよ?

 でも、知っているんだったら話は早そうだな


「そうです、その猫です。何か知っていることありませんか? 昨日はここら辺の家にいたという情報があったのですが今日来てみたらどこかに里親に出されたっていう話でして……」

「そうか、子猫だよな?」

「えぇ、そうです」

「小僧、ハルとかいったな。俺はその猫のことを知らない。力になれなくて申し訳ない。だが、探しているのなら急いだほうがいい。特に探し猫が【子猫】だというなら尚更な」

「僕のサポートをしているポン吉にも言われたんですけど、何で急ぐんですか?」

「ハル、いいか。野良というのは本来人に飼われてはいけないんだ。どうしてか分かるかい?」

「それはムーさんみたいに親がいたりするからですか?」

「違うよ。環境が変わるんだ。生活環境が丸々ね。今まで弱肉強食で生きてきた野良が間逆とも取れるペットとして飼われたらどうだ?」

「…………もしかして、戻れなくなる?」

「ご明察、本人がどんなに家族と暮らしたいと願ったとしてもおそらく三日と持たない。持たないというのは【死ぬ】ということだ」

「だからポン吉のやつ……ありがとうございます。えっと……」

「俺の名は焔だ。仲介屋の二代目が現れたというなら俺もいつか世話になるかもしれない。そのときは良しなに」

「はい!」


 急がなくてはいけない。

 でも、動物が見つからない。

 人間に聞くという手段もあるが、どうやって聞けばいい。

 分からない。

 今の僕は【人間よりも動物側の立場に立っている】。

 バランスをとれと言われていたのにこれではバランスが崩壊する。


「あら、ハルちゃんどうしたのこんなところで?」


 途方にくれていると近所に住む吉田さんというおばさんが声をかけてきた。

 紫色の派手なお洋服を着て、化粧も厚くちょっと小太りなおばさんだ。

 そして、僕の苦手な人でもある。


「四月で小学五年生になるので【ちゃん付け】はやめてくださいよ吉田さん」

「私はいいの。春ちゃんのことを子供のときから見てきたんだもん。ちゃん付けぐらいさせてよ」

「そうだ、吉田さん。ここら辺で子猫を拾ったお家のことを知りませんか? 見てみたいんです」

「子猫……あぁ、確か山田さんが数日前に拾ったって言ってたかしら? でも、確か今日隣町で里親が見つかったからそこに渡しにいくって昨日お買い物してるときに会っていってたわね」

「そうですか、残念です。ありがとうございます。春休みでやることもなくて……ちょっとしたニュースだったんで見てみたかったんです」

「そうだったの、ハルちゃんかわいいわね」

「では、帰りますね。ありがとうございます」


 吉田のおばさんと別れて僕はポン吉とムーさんを探した。

 どこまで行ったんだか知らないけどまったく見つからない。

 声を出して探してもいいが、ここだと僕の知っている人が多いため変な噂が立つと困る。

 仕方がないのでもう少し探してみることにした。

「ハル、隣町だ」


 歩いているとましたから狸姿のポン吉が話しかけてきた。


「うわっ! 踏むわ! 危ないよ!」

「うるさい、いい感じの葉っぱが見つからなくて化けられないんだ。我慢しろ。」

「踏んでも騒ぐなよ?」

「怖い主さまだこと」

「うるさい、僕も隣町というところまでは分かったんだけど、正確な住所まではわからない。あと、時間がないんだろ?」

「住所はムーが分かってる。先に調べておいてくれるみたいだ。調べるというよりも心配で先に行きたいんだろうな。ところでどうしてお前が時間がないって知っている? 俺はさっき説明していないだろ?」

「あぁ、焔っていう狐にあって」

「焔? お前また厄介なやつに絡んだな。まぁいい。今回はちょっかい出してこないだろう。用意周到でめんどくさいやつだからな。何かしてくるならそれが終わってからだ」

「やばいやつなのか?」

「いや、あいつがではなくあいつと俺の相性が悪いってだけだ」

「自覚あるのかよ。仲良くしろよ動物同士」

「おいおい、ハル俺と焔のやつは【動物じゃない】ぜ?」

「……マジかよ。てことはあいつ【化け狐】?」

「それにしてもあいつが狐の姿してたってのは珍しいな」


 仲介屋の仕事をしていると動物だけじゃなくて妖怪の類とも知り合いになる機会は多そうだ。

 動物は見えるが、普通の人に妖怪って見えるものなのだろうか……でも、ムーさんは普通にポン吉のことを見ていたしなぁ。


「おい、何している? 置いてくぞ」

「あっ、待ってくれ!」


 ハル君と鳳雅は置いて私だけ先に娘の元に来ることにした。

 二人には悪いけど、まだ依頼を一件もこなせていないからなのかどうも要領が悪い。

 おばあちゃんのときはすぐに対応してくれて今頃解決していてもおかしくなかったのに……どうしてここまで差が出るのかしら?

 でも、ひとまずそれは置いておいて娘……シーナを探さなければ。

 シー名は私と違って人見知りで誰にも懐こうとしないの。

 そんな子がいきなり人間の元へ行って暮らすなんて……信じられない。

 人間のことだって怖がっていたのに……人間どころか飼い犬ですら怖いっていていたシーナだからもし、行った家に犬のペットなんていたら……でも、さっきの家は平気だったわね。

 もしかしたら、部屋を別にしてくれたのかも。

 でも、そんなことは関係ないわ。

 これは立派な【誘拐】なんだから。

 人間は自分の子が自分たちより大きなやつらに連れ去られてもいいのかしら?

 やっぱり人間は信用ならない。

 ついたわ。

 鳳雅の行っていた住所が正しければここね。

 シーナは……。

 え?


「おい、ポン吉! まだつかないのか?」

「うるさい、狸のままだとどうしてもスピードが遅くなるんだ。我慢しろ」

「あれ? 前から来るのってムーさんじゃないか?」

「む? 本当だ。ムーだな。おい、ムー娘には会えたか?」

「………………………………」

「……ムーさん?」


 先ほどまでのムーさんとは明らかに様子が違っていた。

 ポン吉と別れてまだ20分もたっていないはずなのに一体何があったのだろう。


「おい、ムーよ。娘には会えたかと聞いているんだ」

「シーナは…………もう駄目よ」

「むっ、どういうことだ?」

「シーナ? それが娘さんの名前?」

「ハル、今はそこはどうでもいい。駄目というのはどういうことだ?」

「シーナは【馴染み始めている】の」

「だったら尚更だ! 今戻さなければもう二度とお前たちは会えなくなるんだぞ! それでもいいのか!」

「いいわけないじゃない! でも、どうすればいいの? あんな人見知りだったあの子がもう馴染み始めているのよ? 私と暮らすよりあの家にもらわれたほうが……幸せじゃないかしら?」

「おい、ムーお前本気で言ってるのか?」

「………………………………」

「ハル、こんなやつ放って置いていくぞ。間に合うか間に合わないかは俺達が決める。それが依頼人であるお前に対しての礼儀だ。そして、間に合わなかったときはきっぱり諦めろ……どちらの結果であったとしてもそれが俺達【仲介屋の仕事】だ」

「……ムーさん」


 ムーさんを置いて僕らはシーナちゃんがいる家へ来た。

 先ほどの家よりも広かった。

 外にはラブらドールレトリバーが寝ている。

 ということはこの家は犬は完全に外で飼っていることになるのか。

 じゃあ、あとはシーナちゃんだな。


「ポン吉、どうだ?」

「…………何とかなるかもしれない。ただ、難しいだろうがな。ハル、家へ帰るぞ。話はそれからだ」

「待ってくれ、中で何があったのかぐらい教えてくれ」

「何故だ?」

「僕が何のためにここにいるのかわからない」

「仲介屋としてだろ?」

「違うよ。少なくとも今は違う。今は仲介屋としてではなく、ポン吉の後ろをついているだけの人間だ。僕は何もできていないんだよ」

「わかった、簡単にだが説明しよう。まず、シーナは確かにこの家に馴染み始めている。警戒心の強い猫だという話は先ほどムーと一緒のときに聞いたが、人の手から餌をもらえるような猫ではなかったらしい。今は別だがな。相当安心することのできる家なんだろうな。だが、この家の不思議なところは別にある。シーナにリードをつけていた」

「リード? 犬につけるようなやつか?」

「そんな感じだ。おそらく、近々シーナを外へ連れて散歩にでも行くつもりなのだろう。そこが俺達が接触できる【最初で最後】の可能性だ」

「どうして最初で最後なんだ?」

「馴染んできている猫というのがまず一つ、そしてもう一つがシーナが外出を嫌がる猫である可能性が高い。人見知りって言っていたしな。そうなると外という脅威よりも中で穏便に暮らした方がいいに決まっている。そしたらもう二度とこっちには戻れない。だから、俺達も作戦を立てる必要がある。場合によっては多少強引なものになるがな」

「わかった……そういうことなら一度家に帰ろう」


 タイムリミットは多分明日になる。

 朝見た天気予報では今週は晴れだといっていた。

 散歩に行くとしたら晴れた日、今日届いた猫のリードを買っているということは飼い主も散歩に連れ出してみたくて仕方がないといった感じだ。

 それなら明日と見るのが妥当であろう。

 それまでに何とかして作戦を練らないと……ムーさんの元へはもう戻してあげられない。


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