冒頭 一番悲しい日? 一番驚いた日?
仲介屋ハル
冒頭
祖母は動物と話すことができる不思議な人だった。
何故そんな能力が祖母に備わっていたのか僕は知らなかったし、誰一人として祖母が動物と話していたことなど知らないと言い切ります。
まるで得体の知れないものを見るような目で祖母の事を見ます。
僕は祖母をそういった目で見る人たちが嫌いでした。
当たり前と言えば当たり前だ。
自分の大切な人、大切に思っていて……自分のことを大切にしてくれる人をそんな目で見られ、陰口なんて言われたら誰でも嫌でしょ?
あれからいろいろなことがありましたが、祖母が僕に残した一つの能力は宝物で、要らない物で、僕しか使えなくて、そもそも人にあげられない物で、逃げたくても逃げられない運命のようなものを感じ、苦しみ、喜び、泣き、笑い、怨み、感謝し…………ごめん、話戻すね。
僕からしたら祖母が残してくれたもの、祖母が僕に託してくれたものというのはとても大切で、とても捨てたかったものであったのです。
今はだいぶ慣れましたが、それでも時折邪魔に感じることがあります。
今から話すことは僕の過去の話です。
仲介屋として未熟な僕のお話。
高校生のハルはそうして話し始めた。
自分の思い出話を。
大切で粗末なお話を。
これはハルの小学校時代のお話。
※
おばあちゃんが亡くなった。
両親が共働きで夜遅く帰ってくることも多かったためか、僕はおばあちゃん子でいつもおばあちゃんにべったりだった。
おばあちゃんは不思議な人で……いつも一人でいることの多い人だったが、いつも何かしらの動物と一緒にいるような人だった。
犬であったり、猫であったり、雀、燕、烏、鼠とペットとしての代表的動物からそうでないものまでおばあちゃんのところには必ず何かがいつも一緒だった。
父さんも母さんもそのこと関しては決して触れなかった。
僕がそのことを聞いたとき、父さんも母さんも悲しい顔をして僕にこう言う。
“その話はしてはいけない”
それは僕たちの家では暗黙の了解になった。
そして、それは親戚の間でも同じだったらしい。
でも、僕は……僕だけはなんとなくおばあちゃんは動物とお話をすることができる人なんだと分かっていた気がする。
それはペットにご飯食べる? とかおいでって言ってきたりとかそういう話ではない。
ちゃんと意思疎通ができるという意味での話だ。
暗黙の了解を破り、僕は一年ほど前に「おばあちゃんは本当に動物とお話できるの?」と聞いたことがある。
今考えてみるとずいぶんストレートな物言い出し、父さん、母さんがいたら間違いなく怒られていた事件であった。
おばあちゃんはその言葉に対して、
「おやおや、ハル君は動物さんとお話できるようになりたいのかい?」
と笑顔で答えてくれた。
僕は何でかそれがすごく嬉しかった。
おばあちゃんが笑顔なのはいつものことであったし、おばあちゃんが悲しい顔をしたり怒った顔をするようなことはほとんどなかった。
僕は内心、そのことをおばあちゃんに聞いたら怒られたり、怒られることはないにしてもおばあちゃんに悲しい顔をさせてしまうのではないかと思っていた。
親戚から煙たがられるようなおばあちゃんだったからおばあちゃんは僕に気を使ってそのことを話してくれないと思っていたからだ。
でも、おばあちゃんはそのように笑顔で対応してくれた。
そしてこう言った。
「ハル君ならきっと動物さんとお話できるようになるよ」
と。
このとき僕は「本当? 嬉しい!」とか言っていたと思う。
そのときおばあちゃんが本当に動物と話ができていたかは聞くことができなかったし、おばあちゃんが生きている間にそんな能力が目覚めることはなかった。
やっぱり、そんな能力はないんだなと考えるようになった。
当たり前だ。
そんな能力が本当にあったら今頃おばあちゃんは有名人だった。
……いや、それはないか。
おばあちゃんを煙たがっている人なんてうちの血筋にはたくさんいたしね。
そう考えると僕は無性に悲しい気持ちになった。
「ハル、父さんと母さんはあっちで話があるからおとなしくしてろよ」
「…………わかった」
両親はおばあちゃんが死んだというのに一滴の涙も流さなかった。
先ほどまで考えていたこともあり、今の父さんの言葉には正直幻滅した。
僕は今日を迎えるまで散々泣いた。
散々泣いて、おばあちゃんの死に顔を葬儀で見て泣き顔をいつまでもおばあちゃんに見せていられないって考えてようやくここまで落ち着いた。
あんないい人だったのに……僕が学校で何かあるといつも話を聞いてくれた。
宿題で分からないところがあって聞きにいくと、いつも分からないといって教えてくれなかった。一緒に料理を作るといつも指を切って僕がいつも作っていた。
……あれ? おばあちゃんいいところないな。
でも、そんなおばあちゃんだけど本当に優しかったし、【動物思い】でいつも周りには動物がいた。
でも、だからだったのかもしれないが、やはりというかなんというか、おばあちゃんは親戚たちにも煙たがられる人だったみたいだ。
人は寄ってこなかったけど動物はたくさん寄ってきてた。
もしかしたら本当に動物と話すことができて、動物に好かれる体質だったのかもしれない。
どうしてもおばあちゃんのことが思い出しちゃうな……。
「おい、ガキ。ばあさんが死んだってのはホントか?」
後ろから聞いたこともない声がした。
口が悪いのとは裏腹にどこか優しさのこもったような……そんな声だった。
僕はその声に、自分の感情を抑えながら、
「うん、死んだよ。でも、僕以外の人はみんな悲しまないんだ」
と返した。
そう言うと、そう言ってしまうと、嫌でもおばあちゃんが死んだということを思い出してしまう。また、視界がぼやける。グラグラと地面に転がっている小石がいくつも重なって見える。
また悲しい気持ちになっちゃったな。
「ガキ、お前ばあさんから何か託されたな?」
託された?
「ガキ、お前俺が誰だか分かるか?」
その言葉に後ろを振り向いたが、そこには誰もいなかった。
でも、確かに声は後ろからだった。
「そんな階段に座ってるから俺の姿が見えないんだ。ガキ、お前は今どこを向いてる? ここだよ、ここ」
僕は石の階段に腰をかけていた。
そして、後ろから声がしたからという理由で後ろを振り向いた。
人がいるからそうするべきだと思ったから。
【真後ろ】ではなく、大人と目を合わせるために【上】を向いて。
「そうだ、はじめましてではないがガキ、お前は俺のことを知っているか?」
僕の真後ろには【一匹の狸】がいた。
さあ、はじめよう。
これが僕の物語だ。




