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金色《こんじき》の巫女姫 ~イケメンとショタは乙女の敵なのです~  作者: 圭沢
第三章 「金色の巫女姫」編

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28 運命の出会い

「フィリア、身体の具合は大丈夫か?」


 村巡りも予定の半ばをこなした馬車の中で、一人書類仕事をしていたクラヴィス様が顔を上げました。


「はいっ、元気一杯です! ……あ、もうちょっとこの鍛錬の内容をやさしくしてくれると嬉しいですけれど」

「駄目だ馬鹿者。儀式の度に倒れるのは其方だぞ。今日の分の回数は終わったのか? イネス、しっかり監督をしろ」

「はいクラヴィス様。さあフィリア、あと十二回よ」

「うええ……」




 一番初めのフーフェンの村で豊穣祈祷のお手伝いをさせてもらい、見事に大騒ぎを起こしてしまってから早十日。

 あれから三つの村を巡り、日々のこうした霊力操作の厳しい指導もあってか、私も徐々に暴走することはなくなってきました。


 それでもやっぱり私が豊穣祈祷の儀式で精霊石を捧げると、派手な光と共に普通以上の効果が伴ってしまうようです。ぱっと見た目で分かるぐらい、畑の土がふかふかで黒々としたものになったりとか。


 でも、クラヴィス様はそれを想定していたようです。すごいですね。

 初めての儀式の後、あまりの疲労感で寝込みながらも「やらかしたっ!」と落ち込む私に、淡々と無表情で説明してくれました。


 なんでも、冬の間に私たちが作った儀石――巫女が出向かえない地方貴族の領地向けの、各種大規模儀式の霊力陣を込めた結晶石――で豊穣祈祷の儀式を行った国内各所で、揃って同じような現象が起きているとか。


 うわあ……。

 そういえば、あの時の私、初めて私の祝福がみんなのお手伝いになるからって、姉さまたちが霊力陣を込めた儀石に調子に乗っていっぱい祝福を詰め込んじゃったんですよね。


 儀石の色、ちょっと私の金色になっちゃってましたし。あはは……。


 ま、まあ、それはさておき。

 私たちに続いて村巡りに出るヴァレリ姉さまの班も、今回はその儀石を使って豊穣祈祷を行うことになっているそうです。


 つまり、この春のアルビオン国内の豊穣祈祷は、クラヴィス様やマーテル様たちの中では全てをその基準で行う心算になっているそうで。


 逆に、私がお手伝いしたところだけ普通だったらそっちの方が問題だった、とクラヴィス様は説明してくれました。

 念のため、なんだかんだと理由をつけて祈祷をもう一度できるように、例の儀石も持って来ているそうです。他にも試したいことがあって、検証のためにまずは私に精霊石を捧げさせたのだとか。


 ――もう、だったらそう初めから教えてくれればいいのに、ちょっと意地悪ですよね。


 私が恨みがましい目で見返していると、「そうすると其方は効果を意識しすぎて、きっとやり過ぎたであろう。今回のでちょうど良かったのだ、違うか?」と切り返されてしまいました。


 ぐはっ。

 仰るとおりでございます……。



 ちなみに、最初の村では、儀式で倒れてしまった私が二日ほど養生している間に、ふかふかの畑に蒔いた種が人差し指ほどに育っていました。


 ラエティティア様の奇跡だ何だと村の人たちはお祭り騒ぎでしたけれど、まあ、それはけして悪いことではなくて。


 何より、これまで北の荒れ果てた大地と格闘してきた村の人たちの喜びようは大変なものです。

 皆さん輝くような笑顔で笑い合って、「これまでと違って、手を掛けた分だけ育ってくれるみてえだ」と嬉しそうに畑の世話をしているのを見ると、こっちもじんわり嬉しくなっちゃったりして。


 ただ、困ったのは、あっという間に噂が広まってしまったこと。

 その先で訪れる村々で私たち一行は熱狂的な歓迎を受けています。まあ、私だけ特別な注目を浴びている訳ではないからいいのですが、どこか歯がゆくて。


 儀式の結果、実際に頑張ってくれているのって、精霊たちなんですよね。

 まあ、私も役に立てたようで良かった、そう思うようにしています。精霊たちにはご褒美に私の金色の光を追加であげていますし。



「――フィリア、ぼさっとするな。今のが終わったら祝福制御の練習ももう一度しておくように。そちらもまだ完全ではないだろう」

「ひええ……」



 鬼です。鬼教官がいます。

 今朝、四つ目の村を発ってからというもの、クラヴィス様の指示に従って私は馬車の中でずっと鍛錬づくめです。まあ、この鍛錬が私のためというのも分かりますし、儀式を終わった後の虚脱感が実際に少なくなっているのも分かるんですけれど。


 でも、ちょっと馭者席に出て景色を見たりとか、周りの自然についてクヌートさんに教えてもらったりとか、そんなのもいい気分転換になると思うですよ。

 私、ずっと神殿の外を楽しみにしてたのに!



「クラヴィス様、祝福制御は宿営地に着いてからでも宜しいですか? もうじき到着するかと」

 そんな私の気持ちが伝わったのか、イネス姉さまが間に入ってくれました。


 そう、これまで夜は全て村で宿を借りていましたが、次の村は少し離れていて、今日は初めての野営なのです。エンゾさんたち護衛騎士三人と、クラヴィス様とイネス姉さまと私、合わせて六人だけでの野営。


 あ、フーフェンの手前で一緒だった冒険者さんたちはもうとっくにいませんよ?

 あの人たちとはフーフェンからまた王都に戻ると言っていたので、あれですぐ別れてしまいました。もちろん、あの豪快な鍛冶屋さんに「護身剣の製作は急がないで大丈夫です、ごめんなさい」という謝罪の言葉も託しておきました。


 ということで、いつもの私たち一行、六人だけで天幕を張って外で寝るんです!

 ちょっとドキドキしますけど、それ以上にワクワクを抑えきれません。風の音とか鳥の声とか、その真っ只中で一晩過ごすなんて!


 そこはしっかりとした魔物避けも据え付けられている、綺麗な小川のほとりの定番の宿営地だと聞いています。たしか、夕方前にはゆとりを持って到着する予定とか。

 うわぁ、もうちょっとでそこに着くんですね!

 どんなところなんでしょう、楽しみ――っと、いつの間にやら口が半開きでした。

 いけないいけない。淑女たるもの、内なる高鳴りも微笑む程度で抑えておかなければ。おほほほ。



「――野営の準備を終えたら、祝福制御の鍛錬はわたくしが責任を持って、女性の天幕でみっちりとやっておきます。……ルシオラさんも楽しみにしていますし」



 ん?

 イネス姉さま、最後がちょっと聞き取れなかったですけど?


「うむ。それならばイネスに任せよう。デアステラの鉢植えも忘れずに抱えさせるようにな」

「かしこまりました」


 ……うむむ。

 どうやら夜に祝福制御の鍛錬をするのは決定のようです。


 ちぇ。

 いつもの宿でのパターンと一緒かあ。

 こんな機会だから、夜の天幕の中、イネス姉さまたちとガールズトークしたかったのになあ。




  ◆  ◆  ◆




「……ではフィリア、頼む」


 夕闇迫る天幕の中、デアステラの鉢植えを抱えた私の前に、神殿騎士のルシオラさんがイネス姉さまと仲良く背筋を伸ばして座っています。


 小川のほとりで焚き火を囲み、皆でいただいた夕食はとっても楽しかったです。なんだか恋愛物語の登場人物になったようで、テンションが上がりすぎて少しだけ祝福が溢れちゃったのは仕方ないですよね。


 まあ、こうして早々と天幕に引っ込んで祝福制御の鍛錬体制になっているのは、ほぼそれが原因なんですけれども。むう。



「……やはり、エマの言葉は本当だった。最近肌の調子がいい」



 ルシオラさんはエマ姉さまと精霊院の同級生だったそうで、私の祝福の美容効果について色々と聞かされていたようです。

 最近はそれがきっかけですっかりイネス姉さまと仲良しになり、こうして二人揃って私の祝福制御の鍛錬に付き合ってくれるのですが。



「そうね、私も半信半疑だったけれど……これは本物かも」



 少しウェーブのかかった鈍色の銀髪を右手で耳にかけ、少し無表情気味の月のような美貌で私を見詰めてくるルシオラさん。

 隣のイネス姉さまも期待に満ちた眼差しで「さあ早く、うふふふ」と言外に催促をしています。


 そんな美人さん二人の顔は、やっぱり美人度が増しているように思います。私の抱えるデアステラの柔らかい光を浴びて、文字どおり光輝いているようで。


 ――鍛錬の度に抱えさせられ、幾度となく私の祝福のおこぼれを浴びているこのデアステラの鉢植えも、なんだか最近急に光り方が強くなってるんですよね。


 ってまあ、それはさておき。


「では、始めますね」

「うむ。よろしく」

「フィリア、無理しない範囲でいいから、出来るだけたくさんお願いね」


 イネス姉さま、それはどこか矛盾してるような……。


 でもまあ、こうして鍛錬に付き合ってくれるのは嬉しいですし、美人さん二人がニコニコ目の前で笑っているのはとっても眼福なのです。

 本音を言えば少しだけ、少しだけやり辛いんですけれど。



「んぐぐ……」

「……」

「……」



 ふう――って、うわあ、やっぱり。

 ええとお二人様、今のは祝福を外に出さずに耐える鍛錬なんですよ?


 二人とも口には出さないですけれど、祝福が出なくてそこはかとなくがっかりした気配が滲み出ています。

 ルシオラさんもイネス姉さまも充分美人さんなんだから、そこまで貪欲にならなくても――。


 なんか、美容に対する大人の女の怖さを垣間見た気がします……。


「えと、じゃあ今度はぎりぎりで祝福を出すパターンで……」

「おお」

「まあ!」


 もう。

 仕方ないですね。


 ――ん?

 ふと思ったんですけど、これ、私も自分で祝福を受け取れば良いのでは?


 おおっ!

 それは盲点でした!

 早速やってみましょうそうしましょう。もちろん祝福は多めのマシマシで!


 こうすれば私も美人さんに日々近づいていくのですよ。ぐふふ。

 イネス姉さまとヴァレリ姉さまと私で、美人巫女三姉妹とか噂になっちゃったりして。きゃあああっ。


 よおし、フィリア、行きますっ!



「……来た!」

「まああっ!」



 体内の泉から思いっきりすくい上げた金色の光が、天幕の中に溢れて渦を巻いています。いつもどおりに出したまやかしの霊力陣が申し訳程度に地面で光っていますが、それには誰一人として目を向けることなく。


 近くにいた精霊たちは大喜び、手首のラエティティア様の腕輪は抗議するようにふるふると震えています。


 うあ、勢いつけすぎた。

 生のままで迸る金色の光を、ラエティティア様の腕輪を通して途中からなんとか祝福に変えていって――。


 広くもない天幕の中の空間を拳大の祝福が舞い踊り、やがてゆっくりと漂い降りてきました。


 両手を広げ、目を瞑ってうっとりと光のシャワーを浴びるルシオラさんとイネス姉さま。

 そして私も――


 あれ?

 何の感動もないんですが。

 自分で吐いた息を自分で吸った感じとでも言うのでしょうか、皆さんが揃って言うような喜びの感覚は一切ありません。


 うう……。

 やっぱり自分では意味ないのかも。

 うっすらそんな気はしてましたけど。




 …………えさま……




 んん?

 今誰かの声がしたような?


 降り注ぐ祝福の中、ふと手元に視線を落とすと――




 …………ははうえさま。ようやくあえましたね。




 純白の輝きに包まれた豪奢な小鳥が、両手に抱えた鉢植えの上にちょこんと座っていました。



 …………わたしはアウローラ、ひかりのだいせいれい。ひかりとやみをちょうわさせるもの。



 へ?

 手のひらサイズで頭に立派なトサカを持った半透明の小鳥が、ぱたぱたと羽根を動かしながら私に向かって念話のようなものを送ってきています。


 周囲にはいつしか精霊たちが鈴なりに集まり、その顕現を祝うように不思議な小鳥を囲んでいて――




 …………たくさんのひかりをかんしゃします、ははうえさま――いえ、ラエティティアさまのみこ、いかいのめがみ、こうきなるフィリアリアさま。




 はい?

 な、何を言ってるのか、さっぱり分からないんですが?





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