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金色《こんじき》の巫女姫 ~イケメンとショタは乙女の敵なのです~  作者: 圭沢
第二章 「アルビオン王都の秘蔵っ子」編
23/39

23 幕間 ルカの物語 vol.3

16話の幕間「ルカの物語 vol.2」の続編です。

短めです。

「ほらよ! 一丁上がり、と」


 フーフェンの森の奥、襲い来る魔物を冒険者のヴェークさんが軽々と斬り伏せた。


 僕の名前はルカ。

 鍛冶屋のラヴァルさんの弟子だけれど、色々あって今はここ、フーフェンの森の奥まで風の魔石を採りに来ている。

 魔石は僕が作ることになったあの特別な巫女様に捧げる護身剣の材料で、ラヴァルさんのお店の常連であるヴェークさんたち三人の手を借りて僕自身の手で採ってくることになったんだ。


 話が決まって昼を食べてすぐ出発し、この森までは順調に辿りついた。風の魔石を宿すジャイアントバットがなかなか見つからずに時間を取られたけれど、無事に立派なものを得て後は王都に戻るだけだ。

 ヴェークさんたちは驚くほど強く、ここまで出会った魔物全てを軽々とやっつけている。さすがはBランク冒険者。


「ヴェーク、そっちに行ったぞ! 油断するな」

「おっと、あたしを忘れちゃ困るね、と」


 実際の冒険者の戦いはよく分からないけれど、この三人の連携はすごい。

 ヴェークさんが前面に立って魔物と対峙し、ヘンリックさんはなんと希少な魔法使いだ。後方から霊力弾バレットという魔法でどんどん敵を仕留めていく。ソフィさんは軽やかに動きまわって、ヴェークさんやヘンリックさんの危機を未然に剣で薙ぎ払っている。


 ヴェークさんとソフィさんが使っているのは、もちろんラヴァルさんの新作のあの剣だ。

 うん、二人が欲しがったのも分かる気がする。ヴェークさんの大剣は前線で絶大な威力を発揮しているし、ソフィさんの小剣は変幻自在に動き回る本人のスタイルにぴったりだから。

 この森に来て初めの頃は、二人とも剣を振るう度に歓声を上げていた。よっぽど具合がいいらしい。


「おし、絶好調!」

「ちぇ、時間かかっちまってるな。妙に魔物が多い気がする。ルカもいるし、王都には戻らずフーフェンの村で一泊するか?」


 ヴェークさんが上機嫌で最後の魔物を斬り伏せたところで、ヘンリックさんが少しだけ渋い顔をした。

 このパーティーのリーダーは明るく真っ直ぐなヴェークさんなんだけど、魔法使いで頭がいいヘンリックさんがパーティーの頭脳の役割をしている。リーダーのヴェークさんも紅一点のソフィさんも、ヘンリックさんの判断をすごく信頼しているみたい。


「そうね。ルカ君、こんなに歩き回って疲れたでしょ?」


 ハッとした顔をしたソフィさんが僕ににっこり微笑んでくる。

 あ、でも正直なところ、実はそんなに疲れてないんだ。


 あの祝福祭からこっち、変に体力が増えてるんだ。あの子の奇跡の光を浴びたせいじゃないかってこっそり思ってるんだけど、さすがにそれは妄想かもしれない。あの感じ、魂が震えるほどの感動だったんだんだけれども、それを全部の理由にしちゃいけないよね。


 まあ、あの子が本当にラエティティア様の生まれ変わりだと言われても、僕は信じる。

 生まれ変わりじゃないとしたら、ラエティティア様と縁の深い、使徒とか御使いとかに当たる存在なのかもしれない。そういえばあの神々しいオーラ、僕の生まれ育った国アルスの創国神話に出てくる金色の巫女姫様にそっくりだもの。


 と、頭が横道に逸れたけれど、ヘンリックさんが妙な胸騒ぎを感じているみたいだし、戦いの素人の僕としては素直にそれに従った方がいいと思う。フーフェンの村で一泊して明日の朝に帰ったとしても、護身剣を作るのに残り二日、大きいものじゃないしなんとか間に合うと思うんだ。


「よし、そうしよっか。ヘンリックの言うとおり、確かに妙に魔物が多いもんな」

 戻ってきたヴェークさんが僕の頭をボフボフと叩いた。

「ルカもいるし、暗くなって無理はしたくな――うおいっ!」


 ヴェークさんが唐突に僕を突き飛ばした。


「後ろ、マダラスネークだ! 気をつけろ!」

「なっ!」

「きゃああ!」


 地面を二転三転、パニックに陥りつつ転がった先で振り返る。

 と、赤と紫でまだらに染まった巨大蛇が鎌首をもたげ、木々の間、不自然な姿勢で倒れたソフィさんににじり寄っていた。

 ソフィさんはピクリともせず、樽ほども胴回りがある魔物の不気味に開いた大口は、女のソフィさんなんて軽くひと飲みできそうだ。

 いつの間にこんな大きいのが!

 ソフィさん!


「――霊力弾バレットッ!」


 ヘンリックさんが魔法を放ち、鎌首をもたげた巨大蛇の頭を弾き飛ばした。

 同時にヴェークさんが大剣で薙ぎ払い、更なる深手を与えている。


「おいおい、嘘だろ?」


 ヘンリックさんの視線の先には、同じような大きさの巨大蛇が数十匹。うねうねと木立の間を滑るように押し寄せてきている。驚きべき速さで、状況を飲み込もうとしている間にもみるみる距離を縮めてくる。


 その背後ではさっき痛撃を与えたはずの巨大蛇がゆらりと頭を起こし、倒れたままのソフィさんに狙いを定めて――


「危ないッ!」


 僕は咄嗟に跳ね起きて、ソフィさんの体を巨大蛇の前から押しのけた。

 この人を傷つけさせる訳にはいかない、無意識の内に体が動いたんだ。


 が、いかんせん相手は大人。

 ぐったりと意識をなくしたソフィさんをさすがに抱えきれなくて、二歩進んだだけで地面に倒れ込んでしまった。


 途端に走る、足の激痛。

 転んだからじゃない。脳天まで突き抜け、勝手に絶叫がほとばしるほどの痛み。

 反射的に振り返ると、赤と紫の巨大な頭が僕の足に嚙みついている。


 そのまま抗いようもない力で宙に持ち上げられ、右に、左にと振り回される。

 太腿に焼けるような鋭い痛みの核があり、なす術もなく体の向きを変えられるたび、足が千切れないのが信じられない。


「ルカ!」


 視界の片隅で、ヴェークさんが巨大蛇の躰に無茶苦茶に斬りかかっていた。

 ああ……意識が遠のいていく。


 と、僕の肩の赤い光が、とんでもなく怒り狂っているのが伝わってきた。


 …………助けて……くれる?


 そんな思考が頭をよぎった瞬間、轟音と共にふいに足が解放された。

 そのまま地面に落下する。

 肩へ衝撃を受けながら見上げると、さっきまで僕の足を咥えていた赤紫の頭が劫火に包まれていた。周囲の空気が唸りを上げて吸い込まれ、その中から巨大蛇が悶え苦しむ軋り音が聞こえてくる。


「おい、こりゃなんだ!?」


 ヘンリックさんが叫んでいる。

 あれ……ヘンリックさんの魔法じゃ……ないの?



 じゃあ……赤い光……助けてくれた…………のかな………………



 徐々に世界が闇に染まっていく。

 今のうちに逃げるぞ、遠くでヴェークさんが叫んでいる。


 ふいに体がぐいっと持ち上げられ、逞しい腕に抱えられて動き出した。


 ソフィさん……ソフィさんも忘れないで……


 ……………………


 ………………


 …………





 何も分からなくなった僕は、そのまま意識を手放した。





次話は本編に戻り、新章「金色の巫女姫」編が始まります。

あとちょっとで合流だよ!

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