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金色《こんじき》の巫女姫 ~イケメンとショタは乙女の敵なのです~  作者: 圭沢
序章 「神殿の暴走娘」編

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02 フィリア、祝福を贈る

「フィリア、こっちだ」


 マーテル様に許可をもらって大急ぎで鼻の秘密兵器を取り換えて外に出ると、神殿の前に横付けされた馬車のところからオルニット殿下が私に手を振ってきました。


 ひゃっ!


 殿下のキラキラオーラがここからでも分かります。

 いや、ありがたいことなんですよ? 身分の差というものも当然ありますし、こんな貧相な小娘にこうやって声をかけてくれるなんて本当はありえないことだってことぐらい分かっています。


 ただ、私からすれば、祝福が暴走しがちになるやら乙女の危機はなぢ問題やらはもちろんありますけど、それ以上にちょっと後ろめたいというか。


 私と同じ日に生まれたこのオルニット王太子殿下って、実は、私がこの身体を授かる直前に、窓の外からその出生に力を分け与えたかつての赤子さんだと思うのですよ。


 あのふわふわと浮かぶ曖昧な存在だった私が、いつものようにふらふらと漂っていた時にふと興味を引かれた人間の出産風景。

 空に突き出た石造りの塔、その一番上の部屋の窓から見えたのは、綺麗な女の人がお産で苦しんでいる光景でした。かなり難産っぽくて、周りの精霊たちが呼ばれて力を分け与えています。


 無感情に漂っていた私はそれまでそんな手助けなんてしたことがなかったんですけど、その時はつい力を貸してあげたというか。やり方も分からぬまま、私の存在を示す金色の光を差し出してあげたんですね。


 そしたら、なんかその光がぶわっと暴走して。


 あの光は人の目にも相当派手だったらしくて、無事この世に生れ出た殿下がその後、奇跡の祝福と共に生まれた「祝福の王子」として一躍有名になったのはそれが原因だったりするんですけれど、まあ、それは置いておいて。


 とにかく、身分も違うそんな雲の上の有名人が、神殿にこもりきりで身元不詳の私のことをなぜか執拗に構ってくるのです。


 ひょっとしたら、生まれるときに分け与えた私のその金色の光が、殿下に妙な二次効果を与えてしまったんじゃないか……そんな気がするのですよ。


 そう、まるで鳥の雛の刷り込みのような――



「フィリア、ほら?」



 呆れるほど無条件の信頼を瞳に浮かべ、殿下がもう一度声を掛けてきました。

 そしてその周りでは、少年破壊兵器のテトラ様や凛々しい護衛騎士たちが馬車の扉を開けてニコニコとこちらを見ています。

 一緒の馬車に乗ろう、ということでしょうか。むりむり、それはさすがに無理ですっ。


「あのっ! わ、私は神殿の皆さんと一緒に!」


 私は彼らを出来るだけ視界に入れないようにぺこりとお辞儀をして、神殿の馬車の列へ駆け出しました。

 驚きと共に傷ついたような殿下の顔と悲しそうなテトラ様の顔が一瞬だけ目の端に映りましたが、すみません、本当にすみません! 秘密兵器の予備はもうないのです!


 殿下の目に見放されたような寂しさが浮かんでいた気がして、それがなぜか親に捨てられた神殿の孤児院の子供たちの瞳と重なって、胸がきゅううっと締め付けられました。

 ごめんなさいごめんなさい! 殿下が嫌いとかじゃないんです!

 今日じゃない日に、今度大きなタオルを持っている時に面と向かわない範囲でお付き合いしますから! この憧れの巫女服を着ている状態での馬車は絶対にダメっ!


 私は無理やり視線を前に固定し、神殿の馬車の列に急行しました。

 神殿の馬車は麗らかな日差しに照らされる前庭の向こう、門から内庭の方へ何台か並んでいます。神官の皆さんたちが賑やかに群がって、それぞれ分乗を始めているようです。


「フィリアねえちゃん!」

「フィリアねえさまあ!」


 内庭から子供の声が掛かりました。

 神殿で預かっている孤児たちです。ちょ、可愛い子供たちなんですけど、今は嫌な予感しか……。


「ねえちゃん、今日がお披露目なんだって!?」

「フィリアねえさま、きれい!」

「ねえ、いつものやってえ!」


 子供たちが一斉に駆け寄ってきました。

 みんな目を輝かせて、真新しい巫女服を着た私をぐるりと囲んできます。


「うわあ、本物の巫女さまみたい」

「きれいねえ」


 な……。


 うははは、そうであろうそうであろう。

 お姉ちゃんは今日から巫女見習いなんだぞ!

 私はみんなをまとめてぐっと抱き寄せ――うおっ! また祝福の大波が!


「ごめんね! また後でっ!」

 私は慌てて逃げ出しました。


 ヤバいです、ここは危険が一杯です。

 早く馬車に乗らないと……あ、エマ姉さまがいた!


「フィリア、遅いですわ!」

「まあまあエマ様、間に合ったから良いではないですか」


 顔を見るなり始まったエマ姉さまのお小言を、隣にいたベテラン巫女のクロエ姉さまが止めてくれました。


「あらあら、似合っているわねフィリア。とっても可愛い」


 クロエ姉さまはマーテル様を筆頭に神殿に四人いる正規巫女の最年長で、とってもふくよかで優しいおばさm……先輩巫女さんです。

 本人は知らないでしょうけどいつも周りに暖かさを放出していて、怒ったことを見たことがありません。神殿の孤児たちと一緒に私の生活の面倒も見てくれていて、私にとって母親のような存在。

 今日はいつもより多めに暖かさが流れてきて、心から今日の日を喜んでくれているのが分かります。


「わあ! フィリア可愛いっ! 小鳥みたい!」

「ついにお披露目ね、おめでとう。私も本当に嬉しいわ」


 残りの正規巫女のヴァレリ姉さまとイネス姉さまも私を囲んで、それぞれがさざ波のように暖かさを私に注いでくれています。

 殿下の誘いを断って沈んでいた気持ちが、じんわりとほぐれていくのが分かりました。


 本当に皆さん暖かい……。


 ちなみに、今この国の正規巫女はマーテル様とこの三人だけです。巫女は精霊の助けを求める儀式を国中で行わないといけないので、全部で四人しかいないこの国の巫女はとっても忙しいのですが、皆さん時間を作っては私に色々と教えてくれました。


 実は私のような巫女見習いというのは異例の存在で、一般的には中央の精霊院――大陸中の霊力を持った少年少女が集まる、この世界の学校のようなもの――で素質を見出され、そこである程度の巫女教育を受けてしまうのが巫女になる本来の道筋だそうです。


 私はこの国の巫女長であるマーテル様の強い推薦の下、精霊院を経ない巫女見習いとして今日の祝福祭から儀式に参加しますが、祝福の制御に加えてこの年でそこまでの巫女修練を終え、この日を迎えられたのはひとえに先輩巫女の姉さまたちのお陰と言っても過言ではありません。


 そして、皆さんが今それぞれ注いでくれているこの暖かさというものは、言葉と違って嘘がつけないもの。

 心の底から優しい思いを抱いていないと出てこない貴重なものなのです。それがこんなにたくさん――


「クロエ姉さま、ヴァレリ姉さま、イネス姉さま……」


 私の中に幸せな気持ちがぶわりと込み上げてきて、祝福として全身から溢れ出しそうに――危なかったです。咄嗟に押し留めました。

 なんか今日は特に暴走しやすい気がしますよ。


 でも、その制御こそ私がこれまで苦労して磨いてきたもの。

 これができたら後は体の外に出ないようにクルクルと丸めて、おへその下あたりに押し込んで消してしまうという慣れた手順です。

 慣れた手順なのですが、その最後の最後で、ふと思いました。


 ……今日ぐらい、姉さまたちに贈っちゃってもいいよね?


 周囲にバレないようにギリギリまで小さくしてあげれば、天気もいいから傍目には分からないはず。

 ちらりと殿下たちを確認するともう馬車に乗り込んでいるようですし、こちらを見ている人もいない様子。

 これ以上秘密兵器に負担をかけたくないですし、何より、私のこの気持ちを姉さまたちに贈りたい。



 ……女は度胸です。えい。



 私の体からこっそり飛び出した金色の光の点がふよふよと三人に向かい、誰の注目も受けないままに、すう、とそれぞれの胸に吸い込まれました。


「あらあら」

「わわ?」

「まあ……」


 よし、完璧です。

 私の祝福は儀式で精霊に授けてもらうのと少し違って、祝福本来の効果よりも癒しの効果の方が強いようです。

 それと、本当かどうかわかりませんが、少しだけ運も良くなるとか。まあ、今回はうんと小さくしたので気持ちだけ贈ったようなものです。


 それでも三人は祝福が飛び込んできた胸を押さえ、その感覚に驚いたかのように目をみはっています。


 うふふふ、こうやって自分の意思で贈るのはあんまりしたことがないですからね。

 気持ちだけ贈ったようなものですが、その気持ちはぎゅっと詰めこんであります。少しは伝わったでしょうか。

 それに、三人とも巫女なので儀式をして祝福を贈ることは多いですが、たまには自分が受け取っても良いと思うのですよ。


 あ、この三人は私の祝福のことを知っていますので、その辺は大丈夫ですよ? あと知っているのはマーテル様の他に――




「フィリア、今何をしたのかしらあ?」




 げ。

 エマ姉さま。

 この人も知ってますです、はい。


 そのお顔は、今の祝福に気が付いた、ということですね。


 あの。

 ニタアと笑うそのお顔、とっても怖いのですが……



 いやあああ!

 ごめんなさいーーー!





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