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金色《こんじき》の巫女姫 ~イケメンとショタは乙女の敵なのです~  作者: 圭沢
第二章 「アルビオン王都の秘蔵っ子」編
18/39

18 秘蔵っ子

 イネス姉さまの、「フィリアは私たちアルビオン神殿巫女の秘蔵っ子なのよ」との宣言を聞き。


 そんなことを考えたこともなかった私は、しばし大混乱に陥りました。

 そして、そんな時に限って、今更ながら考えたくもない嫌らしい思考が頭に忍び込んでくるようで。


 確かに、マーテル様を始め巫女の姉さまたちやエマ姉さま、クラヴィス様には大切にして頂いてきました。

 でもそれ、まさか、私がいると精霊術の効果が高まるからって理由じゃないよね――。


 …………。


 いやいやいや、そんなことはないですっ。

 祝福祭の後、私が最初に目を覚ました時のマーテル様やエマ姉さまの言葉、あれは心からのものでしたし!


 ヴァレリ姉さまやイネス姉さま、それにクラヴィス様だって本心から家族のように接してくれていますし、何より、これまで散々注いでくれた暖かさ。あれは嘘の付けないものなのですよ。


 そう、それを疑ってはいけません。

 皆さんごめんなさい。


 私が表に出なかったのは自分で祝福が制御できなかったからですし、皆さんが私を隠していたのではなく、それは私をかくまってくれていただけなのです。色々と内緒ごとがありますけど、それは全部私を守るためのもので。


 ああ、ビックリして変なことを考えちゃいました。皆さん本当にごめんなさい。


 ――と、悪魔の迷路から私が抜け出してみると。




「ああ分かった、他言無用だな。こんなこと口が裂けても言うもんかい」




 おじさん神官のケールさんが真剣な眼差しでラエティティア様に秘密厳守の誓いを立てているところでした。隣の神殿騎士のエンゾさんも厳粛な面持ちで一緒に誓いを立てています。

 どうやら事前に、クラヴィス様からこの展開に持っていくようにとの指示がイネス姉さまに出ていたようです。混乱から立ち直った私にイネス姉さまがこっそり耳打ちしてくれました。


 確かに、私が見習いとして行動するとなると、近隣の精霊術の効果が高まることは同行相手にはすぐにバレてしまいます。

 なので、アルビオンの神殿関係者に限っては、他言しないというラエティティア様の誓いと共にそこは教えてしまおう、という方針のようで。


「うむ、この巫女殿は国の宝だ。我らの命に替えても守らねばなるまい」


 ふへ?

 いやいや、だからといってそれはちょっと大袈裟ですよエンゾさん。

 私について来ている精霊たちはいつも決まった数がいる訳ではないですし、そもそも私の意思で周囲の霊力陣に応じさせている訳でもないですし。


 それに、この人達には、私が自力で祝福を贈れるということは秘密のまま。

 イネス姉さまがさっき耳打ちしてくれたところによると、私が精霊院で精霊契約をするまでは、自国の神殿関係者の前であろうと巫女術を使える特殊なギフテッドだという偽装を貫くように、との厳重なお達しがあるそうで。


 つまり、祝福を実際に贈る場面では、クラヴィス様に伝授してもらったまやかしの霊力陣を必ず併用して、その祝福が精霊に賜ったものだというポーズを続ける、ということです。


 まあ、これまでどおりと言えばこれまでどおりなのですが。

 ラエティティア様に下賜された腕輪も厳重な秘密扱いですし、なんだか、私を守ってくれると言ってくれている相手に嘘をついているようで、どこか心苦しいというか。


 ただ、秘密は知る人が多くなるほど広まってしまうものだということは分かります。

 私の安全のためだという我が儘ではありますが、せめて許された枠の中でこの人達の役に立てるように頑張っていこう、そう思うことにしました。


 それならば。



「イネス姉さま、次の行脚先、私に祝福をやらせてくださいっ!」



「無理はするな巫女殿」

「そうそう、フィリア嬢ちゃんはいてくれるだけでいいって」

 黙り込んでいた私の突然のお願いに、エンゾさんとケールおじさんが宥めるように私に微笑んできました。


「いや、でもっ!」

 ああもう。労わってくれるのは嬉しいのですが、そうじゃないんです。私にも何かさせてくださいよ!

 こんな時は、ええと、なんて言えばいいのでしょう。



「……ええとその、私も一応ギフテッドだし、あの、練習したいな、なんて。上手く出来なかったら、ちゃんとイネス姉さまにお願いしますから!」



 ほほう、という顔で微笑みを深めた男性陣は、まるで合図をしたかのように同時にイネス姉さまを振り返りました。


「はい、では次の方はお願いしましょうか」


 拍子抜けするほどすんなり認めてくれたイネス姉さま。

 おおう、これきっとクラヴィス様たちの指示があったかも。でも別に悪いことじゃないし頑張りますよ、むっはー!


「イネスさんがそう言うなら、まあいいか。練習は大事だしね。じゃあこんな所でヒソヒソ話を続けるのも何だし、次は、ええと」

 人通りの少ない裏路地の端で手元の羊皮紙を確認したケールさんが、元来た方向を指差しました。

「あっちの、魔石加工場の息子さん――って、ライナー君か」


 リストを読み上げたケールさんも、それを聞いたイネス姉さまも「おや」という顔をしています。知ってる人?


「あら、あの子――ええ、何度か祝福に行ってますよ。確かこの春で五歳になるのかしら、昔から体が弱くて祝福行脚の常連さんなの」


「ライナー君は難病でね、家で寝ている分にはそう酷くならないんだけど、治癒術をかけてもなかなか良くならないんだよ。前回クラヴィス様に高位治癒術をかけてもらったから期待してたんだけど、結局、祝福祭に出られるほど回復しなかったってことか。いい子だけに可哀想だよ」


「知っていれば何かお土産を用意したのだけれど……。ないものは仕方ないですね、早く行って、その分長めにお話しをしてあげましょう」


 おおう、何か大変な事情があるようですね。すでに胸がチクチクと痛んでます。

 これは私も頑張って祝福を贈ってあげねば! さあ行きましょう! ほらイネス姉さま早く!




  ◆  ◆  ◆




「あー、巫女さまたちだ! ライナーくんのとこ行くの?」

 足慣れたように進む皆さんの前に、小さな女の子が飛び出してきました。

 茶色の髪をお下げに結わえ、手には黄色い花を持っています。


 うきゃあ、可愛いっ!

 四歳か五歳ぐらいかな、私たちのことを人怖じしない大きな瞳で、じっ、と見ています。

 きっと優しい大人に囲まれて育ってきたのでしょう、疑うことを知らない無垢な女の子――ううっ、すっごくほっこりしますよう!


 て、危ない危ない。

 私の中で祝福の波がむくりと頭をもたげて、ちょっと走り出してました。ぐっと押さえて、巫女衣装の袖の中のラエティティア様の腕輪に吸い取ってもらいます。


「そうだよ、おじちゃん達はこれからライナー君のところに祝福に行くんだ。もしかしてお嬢ちゃんもライナー君のところへ?」


 うおっと、私が祝福の処理で固まっている隙に、おじさん神官のケールさんに女の子を取られちゃいました。

 というか、この子に対しても私に対しても同じお嬢ちゃんって呼び方ですが、それはどうかと思うですよ?

 ケールさんは優しい人だとは思うのですけれど、それとこれとは話が別。これだから女心が分からないおじさんは!


「そうっ! このお花あげるの! お庭に咲いたの、おかーさんが持っていっていいよって」


 でも、目の前の女の子はそんなケールおじさんにも真っ直ぐに答えています。

 うわあ、この子、なんていい子なのっ。

 うぐ! また祝福が! いい子だけど危険すぎっ!


「じゃあ一緒に行こうか。この先だったよね」

「うんっ」


 私が全然お話できないうちに、女の子はケールさんと手を繋いで歩き出してしまいました。

 そして、そっと訳知り顔のイネス姉さまから差し出されるタオル――あ、鼻血対策ですね。ありがとうございます……。


 がっくり肩を落とした私は、くすくす笑うイネス姉さまに手を繋がれて、ケールさんたちの後を追うのでした。


 ちぇ……。





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