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金色《こんじき》の巫女姫 ~イケメンとショタは乙女の敵なのです~  作者: 圭沢
第二章 「アルビオン王都の秘蔵っ子」編

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15/39

15 王都の街並み

 思わぬ朗報に祝福が大暴走しかけ、クラヴィス様の目の前で鍛錬の成果を限界まで試すことになったのはご愛嬌として。


 翌日、私は先輩巫女の一人、イネス姉さまの一行に入れてもらって外回りに出ることになりました。


 イネス姉さまはその清楚な美貌とお淑やかな性格で市井に揺るぎない人気を博していまして、初めてなのだから色々教えてもらいなさい、とのマーテル様の采配です。活発なヴァレリ姉さまも同行者に立候補してくれたんですけど、うふふ、と見通すような微笑みで流されてしまいました。


 うん、私とヴァレリ姉さまの組み合わせ、マーテル様がちょっと不安に思う気持ちは分からなくもないです。てへ。


 本当はマーテル様が自分で同行したかったようなのですが、中央神殿から何やら偉い人が来ているらしく、イネス姉さまに白羽の矢が立ったようです。

 まあ、最年長のクロエ姉さまは孤児たちのお世話があるので、残りの巫女はイネス姉さまかヴァレリ姉さまだけ。どちらと同行するのか最初から決まっていたようなものではありますが。


 それに、イネス姉さまだって私は大好きです。

 思慮深くて奥ゆかしい美人のイネス姉さまはいわば私の究極の目標、この同行で少しでもその秘訣を盗んでやるのですよ。


 そして時はいよいよ出発直前。

 準備を整え、神殿の前庭に出ていくと。


「フィリア、この人が同行神官のケール様、こちらが護衛をしてくださる神殿騎士のエンゾ様よ」


 巫女衣装を凛と着こなしたイネス姉さまが、同行者を改めて紹介してくれました。


「やあ、きちんと挨拶するのは初めてかな? 僕は二級神官のケール、水精霊と契約していて得意なのは治癒術。普段は神殿の治療室にいるよ」

「エンゾだ。契約精霊は火、よろしくな新しい巫女殿」


 神官服を着た中年ぽっちゃり体型のケールさん、神殿騎士の象徴、輝く鎖帷子姿の精悍なエンゾさん。

 どちらも神殿で見かけたことはありますが、挨拶するほど近づくのは初めてです。


「あのあのっ! 私フィリアですふつつか者ですがよろしくお願いします!」


 あれ、ちょっとテンションが高すぎて口調がテンパリ気味かも。

 いやだって、いつも遠くで眺めているだけだった外回りの同行者さんたちが、お出かけの支度を済ませて私の目の前にいるんですよ?

 しかも私に「よろしくな巫女殿」なんて!


 うっはーー!


 そして、この人達と連れ立って、この後いよいよ神殿の外に足を踏み出してしまう私。

 ワタシ史上二回目、しかも今回はなんと歩きなのです!

 ドキドキが止まりませんっ。


 見習いとしてのお手伝いはもちろんしっかりやりますけれど、どんなお店があるのかなーとか、どんな人がいるのかなーとか、昨夜からいろいろと期待が爆発してまして――



「まあまあフィリア、ちょっと落ち着きなさい」



 イネス姉さまが私の頭をちょんとつつきました。


「うん、身支度は大丈夫そうね」

 そう言って私の手首をさり気なくチェックするイネス姉さま。あ、ラエティティア様の腕輪は厳重に隠れてますよ?


 ポインテッド・スリーブというのでしょうか、私の真っ赤な内衣の袖は先が袋状になっていて、そこの穴から指だけ出している形なのです。おしゃれでかわいい、エマ姉さまの力作!

 これなら手首すら露出することはないですし、さらにその上から袖が長めの真っ白な巫女の上衣を羽織って準備ばっちり、だいじょーぶなのです!


「ふふふ、今日はいろいろ説明してあげるからね。じゃあ皆さん、行きましょうか」

「はいっ!」


「あはは、元気いいねー。今日は職人街に残ってる最後の数人を回るだけだし、のんびり行こうか」

「人混みではぐれないようにな、新しい巫女殿」

「はいっ!」


 そうして私は同行の皆さんのやわらかい笑顔に囲まれ、遂に神殿の門をくぐって外の世界に歩き出たのでした。




  ◆  ◆  ◆




「イネス様、この間はありがとうございました!」

「もうそろそろ村巡りですね、気を付けてください!」

「庭にハルノツカイがいっぱい芽吹いたからね、神殿におすそ分けしておいたよ。神官様も春の味を楽しんでねー」


 すごい、みんな大人気だ。

 春まっさかりの麗らかな日差しの下、すれ違う人のほとんどが弾むように私たち一行に声を掛けていきます。


 石畳の道沿いにはたくさんのお店が軒を連ね、冬の間は家に閉じ込められていた人たちが、まるで一斉に買い物に出てきているような賑わいです。

 みんな笑顔で、軽やかな足取りで楽しそうにお店の人と談笑しています。


 私?

 私は右腕をイネス姉さまに、左腕を神殿騎士のエンゾさんにがっちりホールドされて、神官のケールさんの後ろをしずしずと歩いています。


 ええと、神殿の門をくぐるなり正面の魔道具屋さんに一人で突撃しちゃいまして。

 だってだって、見たこともない道具やら小物がたくさん並んでたんですもん。あれは仕方ないです。


 うわあ、と、ひとつひとつをじっくり眺めようとしたところで、走って追いかけてきたエンゾさんに後ろから襟首を掴まれました。何故か微笑ましいものを見るような周囲の視線に囲まれ、結果として現在に至る、という訳です。



「フィリアったら、そんなにきょろきょろしないの」



 しばらく歩いたところで声を掛けられて視線を上げると、右側で手を繋いだイネス姉さまが、世話の焼ける子供を愛でるような微笑みで私を眺めていました。

 えええ! バレてた!?


「じゃあきちんと今日のお仕事が出来たら、帰りにどこか一軒だけ寄りましょうか」

「ホント!? じゃあじゃあ、あそこのお花屋さんに入ってみたいですっ」

「うふふ、それならその時は何かひとつだけ買ってあげましょうか。ただし今日のお仕事がちゃんと出来たら、ですよ?」


 私が通りの向こうにある魅惑のお店をビシッと指差すと、イネス姉さまがにっこり約束してくれました。

 よっしゃあ! 頑張るぞ!


 と、そんな具合でその後も目に映るものを片っ端からイネス姉さまに尋ねつつ歩いて行くと、少し通りの雰囲気が変わってきたことに気付きました。



「おー、ここの辺から職人街だな。工房やら何やら、また違った街並みだろ?」



 先頭を歩くおじさん神官のケールさんが、一軒一軒指差しながら教えてくれました。

 あれは木工房、あれは鍛冶屋、あれは魔石の加工場……。


 ほへー、すごい。すごいです。

 石畳の道を重そうな荷車が行き交い、なんか歩いている人の雰囲気も違います。足取りが軽いのは同じですけど、男の人が多めで、皆さん自信に溢れてるというか。これが職人さんというものなのでしょうか、ちょっと格好良くてついつい見惚れてしまいそうになります。


「おっと、通り過ぎるところだった。今日の一人目はこの奥っぽいな、ちょっと聞いていくか」

 ケールさんが手近の鍛冶屋さんにずんずんと入って行きました。


 私もその後に続こうとして、くいっと両手を引かれました。どうやらイネス姉さまと護衛のエンゾさんは立ち止り、表で待つ流れのようです。


 ええー、私も中を見たいのに!

 なんかキラキラした剣とか飾ってあって、すごく楽しそうなんですよ?

 ほら、あのでっかい剣なんて恋物語で騎士さまが使ってたやつみたい!


「もう……そんな目で見ないの。仕方ないわね、私たちも行きましょうか。邪魔をしないようにね」

「やたっ! ありがとうございますイネス姉さま! 行こう行こう!」


「――神殿の祝福行脚ですが、建具屋のベルツさんのお宅にはどう行けば良いですか?」


 両手を解放された私が先行して鍛冶屋さんに飛び込むと、ケールさんが親方っぽい人に尋ねているところでした。

 お店の中は長いのやら短いのやら、鈍色に輝く剣が所狭しと飾られています。うわあ、なんか大人の世界ですね。奥には大きな作業台があって、お弟子さんのような男の子が一本の剣を一生懸命砥いでいるようです。


 うふふ、こんな少年でも一端の職人さんなんですね。目鼻立ちはごくごく普通ですけれど、真剣な表情はそれだけでちょっと格好いいかも。


 と、その男の子が何かに弾かれたかのように顔を上げ、私をポカンと見詰め――その瞬間、信じられない感覚が私を包みました。


 え?

 なんでこの人、私の金色の光の気配を漂わせてるの? まるで殿下みたい――?



「がははっ、ルカ、お前さんの大好きなちびっ子巫女様――ぐはっ」



 豪快に笑いながら近寄ってきた親方っぽい人に、ルカと呼ばれた男の子が電光石火で肘打ちを入れました。


 うわあ、今のは痛そうです。

 熊のように大きな親方さんのみぞおちに、躊躇なく肘を突き入れてましたよ。親方さん、息を詰まらせてますけど大丈夫ですか?


「くくく、誰かと思ったらラヴァルじゃないか」

 そう言いながらエンゾさんがお店に入ってきました。


 え、知り合い?





「わははっ、ベルツじいさんのところならウチのすぐ裏だ。祝福に来てくださったんだな、ありがてえ」

 あっという間に肘打ちから立ち直ったこの人はラヴァルさん。


 神殿騎士団に武器を納入している、アルビオンでも有数の腕利き鍛冶屋さんらしいです。普段は騎士団の方に御用聞きに来るので、ここに店があったなんてエンゾさんも知らなかったみたい。鞘から抜いたエンゾさんの腰の剣を見ながら、具合はどうだなんて玄人っぽい話をしています。


「ちびっ子巫女様も本当に働いてんだなあ、よし、嬢ちゃん好きなの一本持って行ってくれ。じきに村巡りだろ、護身用の一本ぐらい必要つうもんだ」

「ふえ?」


 おおう、ラヴァル親方に突然話を振られ、変な声が出ちゃいましたよ。

 でも、どゆこと? こんな高そうなの貰えませんし、護身用って何? そもそも私、包丁ですら危険な女ですよ!?


「がはは、遠慮すんなって。イネス様のその腰のもウチのやつだし――お、そうだ」


 ラヴァル親方が、いいこと思いついたぜって顔で後ろのお弟子さん、ルカ君を振り返りました。


「おし、ルカ、お前作ってみっか。おう、そうしよう。俺もしっかり手伝うし、弟子が作ったのが不安だっつうなら魔石だって付けてやらあ」

「それは有難いな、ラヴァル。次の騎士団の注文では色をつけておくからな」

「がはは、そいつはこっちもありがてえ。よし任せとけ、嬢ちゃんのは三日で届ける」


 え? なんかラヴァル親方とエンゾさんの間でどんどん話が進んでいるんですけど?

 剣を作ってくれるという本人のルカ君もぽかーんと口を開けてますよ?


「三日だな、それなら間に合いそうだ。それと、ルカと言ったか――」

 エンゾさんがラヴァルさんから返してもらった自分の剣を鞘に納めつつ、そんなルカ君に真剣な眼差しを向けました。


「――さっきの肘打ちの動き、悪くなかった。身体の使い方が柔らかくて、鍛えればいい戦士になるだろう。もし鍛冶屋が嫌になったら神殿騎士団に私を訪ねてくるがいい」


 では行きましょう、そう言って、お店の入り口で物静かに全てを見守っていたイネス姉さまを促しつつ踵を返すエンゾさん。

 私の目の前には、さらにぽかーんと口を開けてるルカ君と、「おいこら人の弟子を誘惑するんじゃねえ」って騒いでるラヴァル親方が。


 ええと?


「ほら、僕たちも行こう」

 おじさん神官のケールさんが私を再起動させてくれ、ラヴァル親方たちにお辞儀をしました。

「護身剣のこと、ありがとうございます。お二人にラエティティア様のご加護があらんことを。神殿にも報告を上げておきますね。では、私たちは祝福行脚の途中なので、これで」


「あ、あの、ありがとうございましたっ」

 私は深々とお辞儀をして、ケールさんに促されるままにお店を後にしました。家の場所を聞いたベルツさんのところにこのまま向かうのでしょう。



 あ、ルカ君に感じた気がした私の気配、あれは何だったんでしょうか…………。






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